ディープフリーズ ・会話ばかり ・ギン→乱でギン←イヅ ・とりあえず暗い 「約束も何も、なかったじゃないですか」 「うん」 「何も…仰しゃらなかったじゃないですか」 「そうやね」 「待てなんて、御命令なさらなかったじゃないですか…!今更…!」 「ごめんな」 俯き強く頭を振った為、紺碧の眼からは涙が散った。 拒絶を表す態度にも怯む事無く、ギンはイヅルの、骨と皮ばかりの腕を掴んでいる。 「僕には何も無かったのに、松本さんにはお別れを言ったのでしょう?」 捨てられた女の様に恨み言を言う自分にイヅルは自嘲した。こんな事を言ってどうとなる訳でもない、むしろ自分の惨めさを際立たせるばかりなのに、と。 「乱菊は特別やから。あいつにだけは言うとかなあかんかったんよ」 「なら、松本さんの所に行けば良いでしょう?今更貴方様がお捨てになられた僕なんかに、着いて来る様言わなくとも松本さんに着いて来ていただけば良いじゃないですか!その方が貴方様の意にずっと沿う」 「阿呆」 ぐい、とギンはイヅルが痛がるのも構わず掴んだ腕を強く引き寄せる。そして顎を掴み、無理矢理に己の方を向かせた。 「知っとるか?ボクはな、ほんまに大事なモンには触れられんの。すぐ壊してまうから」 掴んだままの手にだんだん力を込める。イヅルの骨は悲鳴を上げていた。 まっすぐ、逸らす事を許さないように見つめた深い青の眼は、涙に揺れ、ギンの言葉が進む度に絶望の色が濃くなっていく。 「やから、どこかで発散せんといけんのや。先走るばっかの思いをぶつけんといけんの。溢れる前に」 顎を掴んでいた手は青褪めた頬を滑る。ひやりとした感触にイヅルは肌を粟立たせた。頭の奥では警鐘が鳴り響いている。逃げろと警告している。 しかしもうイヅルはギンに毒され過ぎていたし、今更この距離で実力が遥か上の者から逃げ切れる筈も無かった。 「ボクが捌け口に選んだのはイヅル。嬉しいやろ」 「嬉しい訳無いでしょう!」 「嘘つき。ボクの事好きでたまらん癖に。何されても嬉しい癖に」 口の端を吊り上げてギンが蠱惑的に笑う。その微笑にはどこにも、少しもイヅルを気遣い想う心は含まれてはいない。 とうとう、イヅルの眼からは涙が流れ出した。 「イヅル、ボクを慰めて?」 (凍らせてくれればいい) このギンの凍て付く様な冷たさで、自分のギンを想う心も醜く妬む心も、この身体すらも何もかも凍らせてくれれば楽だったのに、とイヅルはまた一筋涙を零した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |