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不可視の夢


10000お礼SS「アブノーマルエロ」
・視姦と自慰
・静かなイヅル
・更に静かなギン
・二人が致してるわけじゃなくイヅルさんの独壇場
・とくにストーリーはない
↑がOKな方はどうぞ!








青白い手が、のたうつ肉に触れる事は無い。先細りの指先を飾る、艶の有る硬質を口に含み微かに白に色付いている部分を真っ白な歯で囓り、削り、割る。丸くなだらかだったそれはぎざきざに所々欠け、酷いところはひび割れて裂け目が薄桃色をした肉に付着している部分まで深く刻まれているのだ。血が滲む事も有る。それでも、爪を噛む事は止めず、視線は目の前で繰り広げられている醜態から離しはしない。醜く、浅ましい姿を晒す自らの副官をギンはじっと冷えた色の眼で真直ぐ見つめ、その醜悪な見世物が終わるまで口を閉ざしている。
奇妙な関係だった。
昼は奔放な上司と生真面目な部下であったが、こうしている夜はただ口を閉ざし見つめ続け、薄氷色をした眼に目の前の情景を写し続けるだけの鏡の様な存在と、自分自身で自分を虐げ、そして性的な慰めを自分に与え、淡々と自分を写し出す眼を見つめ一人果てるだけの道化。昼は仕事だけでなく私的な会話も交わすが、夜は言葉少なくなる。何一つ喋る事ない夜が大半であったが、イヅルがギンを一言呟く様に呼ぶことも有った。有ったが、それだけだった。どこか夢を見ているような、常からは思い至らない非日常は下手に喋れば消えて無くなり、二度とまみえる事が無くなりそうだったからか。それを恐れて二人は喋らず、触れもしなかったのか。

衣擦れと荒い息遣い、そして時折かりかりという爪の削れる音が支配していた静寂を掠れた声が引き裂いた。

「っ、あ」

硬い爪を容赦無く突きたて、捻りあげた乳首の根元から血が滲んでいた。そこに出来た小さな傷を更に広げるように人差し指の爪を立てて下から上へと引っ掻く。傷による腫れと普段から触れて敏感になってしまったためと興奮による充血のせいで肥大した乳首にぴりりとした痺れる様な痛みが走る。皮膚を掻きながら先端に到達した人差し指で窪みに爪を刺して力を込めた。薄く筋肉のついた胸板に乳首はめり込み、それでも爪で押し続ければ刺す様な痛みを感じる。それにびくりと身体を震わせ眉根を寄せた。
片手は膨らみの無い胸を触り、苛み続けているがもう片手は張り詰めた下肢へと伸びていた。硬さを持ち起立し、先端からは先走りを流すそれのあまり太いとは言えない幹の部分を、白い指と男の硬い手のひらで握り緩く上下に扱く。しかし、乾いた状態では擦れる違和感が勝ち、快楽は遠い。数度擦った後に手を口元へと持って行き、赤く熱い舌で舐める。猫が毛繕いをする様な仕草で指の股まで舌を這わせる。そして、ギンの温度の籠らぬ眼を一心に見つめながら人差し指と中指を揃えて口に含む。指二本で己の口内を自ら蹂躙し、侵入者である指を迎え入れる様に舌を絡めた。暫く続け、ようやくゆっくりと指を引き出す。白い指先と熱い口内を唾液の糸が繋ぐ。残りの指と手のひらのあたりは乾いてしまったのでもう一度舐めてからまた濡れた手を下肢へと這わせる。
たっぷりとついた唾液の力を借り扱けば小さく響く濡れた音と、込み上げてくる直接的な快感。

「んっ、あぁ…」

ひくつく喉から声が漏れた。
潰したり、爪を立てたりしていた乳首を親指と人差し指の指の腹で摘み、捏ね、引っ張る。足の指は込み上げる心地よさに少し開き、強い快感が走った時にはきゅっと丸められた。
絶頂が近い様で、竿を擦る手は早くなり、先端の敏感な部分も緩く撫でたり尿道に爪や指を食い込ませたりと自らを追い詰めていく。
そして、一際強く先端を親指の腹で擦った瞬間に引きつった様な声が漏れる。

「いっ…」

がくんと腰を震わせ、眼を細める。達したのだろう、一瞬蕩ける様な顔を浮かべた後すぐ眼を見開き涙を零した。

「うあぁっ!」

陰茎をきつく握り締める。自らの手で道を塞ぎ精液を塞き止めると、刺す様な痛みが下肢に走った。
感覚的に達しはしたものの、吐き出す事が叶わなかった為下肢は張り詰めたまま。流れ出ようとした精液が逆流する痛みに嗚咽を漏らしながら、再び擦り上げる。後から後から押し上げられる様に滲むカウパー液が竿を伝い幹と手を濡らす。それを絡めて、痛みを感じるのではないかというくらいに強く、早く扱く。涙に霞み潤んだ眼でギンを見る。冷めた眼がイヅルから視線を逸す事なく、感情の含みも感じさせずただ見ている事にぞくぞくと背中が粟立った。もっと見て欲しい。イヅルの快感と痛みに塗れて正常な判断を下せない頭はその感情で一杯になる。もっと見られるために、だらしなく膝を開き腰を突き上げる。
そして又乾いた絶頂を迎え塞き止められた局部に激痛が走っても、泣きながら、幸せそうに笑う。連日の激務、そして夜毎に繰り返される静かな狂宴に疲れた身体は目の下の隈や肌の青白さを信号として休息を訴えている。そんな状態の、お世辞にも健康的とは言えず、加えて暗鬱とした雰囲気を纏いながらもしかし、表情だけは痛みに脂汗を浮かべながらも恍惚の表情を浮かべて食い入る様にギンを見つめる。異様な光景だった。

追い立てては、塞き止める。その行為を幾度か繰り返した後に、ようやく根本から手を離して先端を擦り上げて、尿道の亀裂へと爪を立てた。

「っ……ぁああっ!」

ようやく叶った射精にイヅルの身体は一度大きく震えた。だらしなく半開きになった口から飲み込みきれない唾液を溢れさせ、筋肉をひきつらせ瞼を痙攣させている。身体から力が抜け、手を床に投げ出して仰向けにぐったりと倒れ込む。動きといえば、荒い呼吸に上下する肩から腹にかけてと、不随意に痙攣する筋肉のみだった。
億劫そうに、イヅルは視線を動かす。気怠げな視線と交わるのは熱を帯びない眼。

「綺麗やね」
「え、」

不意にギンが動く。衣擦れの音すらたてずにゆっくりと庭に面した窓に近づく。そして障子に手をかけて左右に開く。木枠が左右にずれる音は殆ど聞こえなかったというのに、行き止まり、木と、木がぶつかる甲高い破裂音に似た音は夜半の深い闇を切り裂くように良く響いた。
黒々とした空には、黄や白というよりは青と言った方が相応しい冴えた月がひとつ浮かんでいる。雲はなく、はっきりと夜の空に鎮座しているのが見て取れた。
その冷めた色と冷えた空気が流れ込みだんだんとさっきまでの異様な空気は薄れてゆく。

「綺麗やね」

もう一度、ギンが呟いた。
その眼には確かにイヅルが映っている。絶頂の余韻が色濃く残った陶然とした表情、だらしなく拓かれさらけ出された身体。繊細な金糸は窓から差し込む月光を受け薄らと光を返してはいるが乱れ、汗で貼り付き、床に千々乱れて広がっている。とても、綺麗とは言い難い様相だった。加えて、イヅルの醜態を見てはいるのだが、どこか遠くを見ている様な眼をギンはしていた。 まるで夢を見ている様に。
ギンの眼に映る己を真っすぐに見ながらイヅルは微笑する。

「美しいですね」

背後に月を背負ったギンは全身の輪郭が柔らかく、ほんの少しだけ光に融けている。白と薄い青と冴えた銀、まるで人でないような配色の中、執拗に噛まれてがたがたに形が崩れた爪のみが完璧さを壊している。そこだけが不格好で、人のようで、嫌に現実的だった。
夢を見ているように非現実的な雰囲気をそこだけが、不完全な違和感を持って、この夢に皹を入れている。

「とても、美しいですね」

崩れた爪は、硬質な光を反射して表面が乳白色に輝く。
イヅルは、その石のような輝きと不揃いな先端に酷く愛おしさを感じた。
虚構に似た微光と、夢を切り裂く鋸のように崩れた先端。この独りよがりな夢を終わらせて欲しかったし、同時に嘘に塗れ薄汚れた夢の中でないとひたすらに愛した彼の人に見てもらえる時など来ないと感じていた。
背反した感情に、眼球に薄く生温い水の膜が張るのを感じながらもイヅルは赤みの差した顔に緩く笑みを浮かべ見つめ続ける。
きっとギンはイヅルが泣きそうなのを気づいているだろう。ギンはいい加減で自分にしか興味が無い様に見えても聡い男だ。
しかし、何かを言うことはついに無かったし、イヅルもこれ以上言葉を重ねる事は無かった。

あと四半刻もすれば部屋も身体も冷え切り、夢は覚めてまた元の渇いた関係に戻るのだろう。


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