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焼けつく体
掴んだ腕は酷くやせ細っていた。滑らかな手触りの抜けるように白く、薄い皮膚の下には柔らかな肉がついている筈だろうに手の平にあたる感触は骨特有の硬さ。ほっそりとしたそれは掴まれ、締め付ける力に悲鳴を上げている。
腕を掴まれた青年がゆっくりと振り返った。その眼は深い海の色をしている。まっすぐに見つめてくるそれには何の感情も籠ってはいない。

「そういうんはボクの目の届かん所でやって欲しいんやけど」

足を寄せては帰す波が濡らしていく。だんだんと秋めいた気候になってきた今、それはひやりと体温を奪っていく。波の音がまるで耳鳴りのようで、酷く煩わしかった。

「見なかった事にすればいいでしょう」
「一度視界に入れてもうたら気になるもんなんよ」

感情の伺えなかった眼にしっかりとした意志が宿り、自らの腕を掴んで離さない男を睨み付ける。暗い夜の海だというのに、青い眼は闇に紛れる事なくやけに目についた。金色の髪も濡れて張り付き、寒さからなのか元々のものからなのか青褪めた肌を彩っている。
ギンは細い腕を離さないまま、空いていた片手で張り付いた金糸を顔面から払ってやった。そして白い顔に己の顔を近付けて、深い笑みを浮かべる。

「それにな、今日ボクの誕生日なんよ。そんな日に目の前で入水されたら気分悪いやろ」

そう言って、掴んだ腕を見た目からはあまり想像の出来ない力強さで引寄せる。下は柔らかく細かい砂のため足場が悪く、上手く踏ん張れずに二人とも少しの水飛沫を上げて海へ倒れ込む。ギンは尻餅をついたために、水に浸かっている部分、尻や太腿の部分が濡れて多分に水を含み、そしてそこからじわじわと濡れた濃い色が広がっていく。座り込んでしまった衝撃にもギンは青年の手を離してはいなかった。
ギンに覆い被さる様な形になってしまっている青年の細い腰を、ギンが引き寄せた。ぴたりと二人の濡れた肌が重なり、冷えた体に互いの熱を交換しあっている。
居心地悪げに、身を捩り少しでもギンから離れようとする青年の唇に、ギンは性急に噛み付いた。
腕を掴んでいた手を後頭部に回し、離れられない様に引き寄せる。腰の手には更に力を込めて抵抗を封じる。

「ん…ぅっ!」

濡れた音を立てて、ギンは青年の口内を舌で荒らす。呼吸を全て奪うかの様に口付けを緩めず、角度を変えて貪る。整然と並ぶ歯の裏をするりと舐め、そして奥で怯えて縮こまる舌に舌を絡め、時折無理矢理引き出した舌を甘噛みしてやる。そして互いの唾液を交換しあう。
濡れて冷えた体に対して、口付けを交わす口内とそれを蹂躙して回る舌だけが焼ける様に熱かった。

「ふぁ…」

小さく濡れた音を立て唇を開放すれば、酸欠でとろんとした眼が開かれる。虚ろな青い眼に、先程の様に奪う口付けではなく優しく、一瞬で離れる口付けを落としてやった。
薄く頬を染め、眼を潤ませて、微かに震える手でギンの服を弱々しく掴む姿に、ギンは「可愛え」と一言ぽつりと漏らす。

「なあキミ、ボクのもんになり」

返事を返せないでいる、薄く開き震える冷えた唇を、熱い舌で舐め上げる。

「どうせ捨てる命なら、ボクが貰うてもええやろ?」

そう言ってギンは自分の冷えた頬を温める様に微かに上気した青年の頬に寄せる。細い体を目一杯に引き寄せて冷たい海の中、隙間が無い様にと抱く。冷えた青年を労る様に、熱を分け与える様に背を擦ってやれば、ギンの背におずおずと手が回された。
ギンの服を掴む様は、まるで溺れた人間の様に縋りつくものだった。

「ええ誕生日プレゼント貰ろうたわ」

ギンはそう笑って、体に感じる熱を力強く抱き締めた。


あきゅろす。
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