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□変化 (オズギル)






初めて出会ったあの時から、何かに惹かれて放って置けなくて。そしていつの間にか手放せなくなって。

容姿?性格?雰囲気の所為?

彼の一つ一つの動作や言動に自然と魅入ってしまう自分に気付いたのは何時からだろう。
当たり前のように何時も一緒にいて、それが楽しいと幸せだと自覚したのは、その彼と少しの間、離れたあの時からだ。





(……10年、かぁ)



アヴィスに堕とされ、チェインであるアリスと契約した後に無事にアヴィスから生還を果たした。
けれど戻ってきたと思えば10年もの年月が経っていて。

容姿こそは似ているものの、彼を纏う空気は自分の知っているあの頃の彼とは全く違っていて、少しだけ戸惑ったのも事実。

本質は何も変わってはいない、それは確信に近いものを感じるのだが、彼の纏う空気が雰囲気がさすがに10年という月日が経っているだけあって、微妙に記憶とズレが生じている。


「……オズ?」
「ん?どうしたの、ギル?」

「イヤ…」


後ろから声がかけられて振り返る。黒を基調とした服を身に纏っている彼はどこかしら冷たさと、暗さが滲み出ていた。

言葉を濁すギルバートに安心させるように笑みを浮かべてドア付近で突っ立っている彼にゆっくりとした歩調で近づく。少し後退るのは何故だろう、そんな事を考えながら。


「何?用事があったんじゃないの?」
「…いや、別に」
「じゃあ、何?構って貰いたいの?」
「なッ…!」


若干、頬を染めて目を見開き驚く彼に、弄り易いのは変わっていないなと笑みを深くする。

どうせ彼の事だから、一人で部屋にこもって心配だからと様子を見に来たのだろう。ここ何日かが10年と何日かに変化して急激な変化に対応すべく頭を整理する時間が必要だから一人になりたかっただけ。それを彼も解ってくれているのだろうから、今の今まで一人にしてくれていたのだと思う。けれど何時間も出てこない自分を辛抱しきれずにこうやって様子を窺いに来て、結局自分の本心を素直に伝える事すらも躊躇してしまう。

10年経って一番変わった部分。口煩くも素直なままの感情を出し心底心配していると全面に出していたあの頃とは違う。


「違うの?てっきり構って貰えなくて寂しいんだと思ったんだけど?」

「違うっ!…俺は、そんな事…」
「じゃあ何?何の用件があるって言うのさ?」


ぐ、と唇を噛むギルバートに自分は意地悪いなと内心感じながらも、困っている彼が妙に可笑しくてつい追及してしまう。10年経っても弄り易いのは変わらない彼とのやり取りで心救われる自分がいるのも確か。

変わった部分と変わらない部分。それ自体を彼に追及することはしない。それは自分の中の逃げであることは間違いないだろうけれど、只、もう少しだけ時間が、自分の心に霧がかかったようなこの状況に決着を付けれるようになるまではこのままの関係で居たかった。



「もー、素直になんなよ?」

「何が…昼食できたから呼びに来ただけだっ。さっさと来ないとバカウサギが全部一人で食べてしまうだろ」

「まぁ…そーゆー事にしますか」
「…本当の事だっ」


ぷい、と視線から顔ごと逸らしほんのり紅く染まった頬を隠すように手で覆う彼に笑いが零れる。彼自身も自分に悟られてしまっている事実を理解しているのだろう。だからこそ妙に気恥ずかしいのだとこちらとしても理解できるのだが、一々彼の仕草や言動が可愛く見えてしまうのは自分だけではないはずだ。この10年間、そんな彼を自分の手元から離してしまったと思うと、それが少し悔しい。

できれば同じ時間を一緒に過ごしたかった。この心の霧はそれも大いに関係しているのだろうと感じる。それだけではもちろん無いが。


「さ、照れてないでさっさと行くよ」
「照れてなんかいないっ!」


図星だと言っているかのように大声で叫ぶ彼に、ハイハイと適当にその言葉を流しながらドアの目の前に立っている彼を押しのけて部屋から出る。
後ろの方でまだ何かしら言っているようだが、まずは彼の作った料理がアリスに全部食べられていないかを心配すべきだと自身に言い聞かせる。これ以上、彼と話していると何かに気付いてしまいそうで、それを簡単に受け入れてしまいそうで少し億劫なのだ。色々とやるべき事、考える事が山ほどあるのに、これ以上考え何かを変えるのは体力的にも精神的にも厳しいから。


(だから、今はまだこのままで…)












ベザリウス家別荘から鴉の家に移動したそれぐらいの時間



あきゅろす。
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