Novel
every day,every time.【逸】
『コレ、めんどくせーけど書け。』
差し出された紙切れに、俺とした事が数瞬もの間目を見張ってしまった。
「……お前、正気か?」
クソ、折角穏やかに瞑想をしていたというのに…コイツ、シカマルめ。
「あ?まぁ一応、な。」
ほら書けよ、と差し出されたソレに視線を落とす。
「…だがこれは、」
「ん、正真正銘“結婚届”ってヤツ?」
まるで冗談の様に奴は肩を竦めた。
その行為が俺の神経を逆撫でする、が何故だか悪い気はしない。
「シカマル」
見兼ねた俺は、ソイツの肩をがっしり掴んで目線を合わせる。
「男同士で結婚出来ると、本気で信じているのか?」
だってそんな事、木の葉の法律で認められている訳が無いじゃないか。
確かに同性愛者は沢山居る。何せ忍の世界だ、長期の戦ともなると禁欲生活が続く訳で、その中で男も女も…いわゆる“やりくり”をしなくてはならない。同性同士でそういった事が有ってもさほどおかしくは無いと思うのだ。
だが結婚だなんて、成り立つ訳が無いだろう?
「あっはは、アンタ面白ぇ」
俺があれやこれやと理論を捲し立てていると、シカマルは腹を抱えて笑い出した。
「何がおかしい、俺は正論を」
「提出する訳無ェだろーが、こんなめんどくせーモン」
ひらひらとその紙切れを翳すシカマルは、少年の様にニッと笑う。
「書いて、引出しの奥に押し込んどくんだよ。」
「…。」
俺は、奴のその行為に疑問を覚えた。
「何の意味があるんだ」
そうして軽く鼻で笑い、目を瞑る。くだらない、瞑想にとんだ邪魔が入っただけの事。
「意味なんて無ぇけどよ、」
すとん、彼が座る感覚。
俺の隣にシカマルが居る。
「なんつーか、この先もまったりのんびり…一緒に居てぇっつーか」
フン、それでプロポーズのつもりか。
俺は再度ソイツを鼻で笑った。悪い癖だ、俺だってシカマルの様に屈託の無い表情で笑いたい。
「……そんなもの、書かなくても」
嬉しかった。
シカマルの不器用な告白が、何より俺の心を突いた。
「本当かよ」
突然の反論。
その鋭い言い様に驚いて目を開けると、シカマルは俺の肩に凭れ掛かって呟き始める。
「本当に一緒に居てくれんの?ネジそれ誓えんのかよ」
一瞬で思考回路は停止する。コイツが弱々しく「ネジ…ネジ…」と何度も俺の名を囁くものだから、どうあっても呼吸の乱れを感じてしまう。
ぎゅ、と背中に回したその腕は、まるで掴んで離さないとでも言うように俺を束縛した。
「シカマル…おい、」
珍しい、コイツがこんなに動揺しているだなんて。
「ネジ……ネジっ」
「おい、お前」
痛いのだがな、そんな事を呟きながらも俺は奴を受け入れた。
そんな自分が情け無くも嬉しい訳で。
以前はこんなに満ち足りた感情は生まれてこなかったのだ。宗家と分家の憎悪に呑まれ、ただただもがいていただけだったのだから。
「……分かった、書くよ」
俺はためらいながらもインクに筆先を浸し、己の名前を記入していく。
見るとシカマルの分はもう書き込んであった。変な所で妙に用意の良い奴だ、全く。
「…朱肉、押したぞ」
己の指を噛み切り、印を押し付ける。これで儀式は完了。
「……ん。」
すっかり拗ねているシカマルは、黙って親指を俺の目前に突き出した。
書類を見るとシカマルの印肉はまだ押されていない。
「………んむ、」
ガジリ、シカマルの指を囓る。端から見ると、まるで指をしゃぶっている様に見えるだろうか。
「へへっ、赤ちゃんみてぇだな」
案の定シカマルは笑った。俺はそれが悔しくて、ガジリと強くその指を囓る。
血が浮き出た。
「イッテー、何すんだよ」
「お前が変な事を言うからだ…」
シカマルの情け無い顔に、笑うつもりも無いのに吹き出してしまった。
血の付いた指を書類に押し付け、奴は悪戯っぽい視線をこちらに向ける。
「これでお前、俺の嫁さんじゃん。」
「嫁だと?俺は婿だ。」
俺がそう反論すると、奴は楽しげに
「許さねぇぜ、俺が婿だからよ」
と言った。
甘く(例えて眠そうであっても)呟かれ、後ろから抱き寄せられると、言い様の無い感覚が背中をズイと通っていくのが分かる。
「…なら一生俺の尻に敷かれるが良い」
挑発的な言葉とは裏腹に、俺はシカマルの行動一つ一つに気圧されていた。
鼓動が高まる、嘘みたいに。
「バーカ、お前ホント馬鹿。」
「なっ…」
訳も分からぬままに、俺はシカマルに体を預けていた。
「俺は一生アンタの傍に居られれば満足なんだよ」
途端、胸をぞわぞわと這い回る何かに気付く。
嬉しい。キスをしたい、抱き合いたい。
様々な感情が俺の中を駆け巡り、どうしようもなくくすぐったいような感覚に陥った。
「………ッ、」
何か言いたい、けれど具体的に何か、というと何も思い付かなくて、俺はシカマルを抱き締めた。
手を握り、指を絡ませる。
シカマルが握り返してくると何故だか気恥ずかしくなって、咄嗟に身を捩らせてしまう自分が可笑しい。
このまま永遠にこうしていたい、なんて
ロマンチックな科白もいいところだ。
(阿呆らしい)
だがこうしていたいのは事実。
このまま二人、ずっと戯れ合って、時折触れるようなキスをしたっていい。
「…シカマル」
「何?」
『今の俺、幸せだよ。』
お前が居るだけで幸せだ、なんてクサい言葉は言わない。言ってやらない。
知ってか知らずか、シカマルはフッと微笑んで俺に優しいキスを落としてくれた。
fin.
+++++
突発的に書いてしまった駄文です(汗)
結婚届に二人でふざけて記入していたら、私的にはとても萌えですっ!
では!読んでいただき有難う御座いました!!
逸。
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