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指を絡めて、キスをして、抱き締めて











あなたの目も
あなたの手も
あなたの声も
あなたの腕も
あなたの体温も

悔しいぐらい、
あたしを暖かくさせるの










「…あ、月」





ペンを置いて、
窓から外を覗き込めば
見えてくる。

色彩豊かな寮の庭と
夜空にぽっかりと浮かぶ
いびつな形の月だ。

三日月でもなければ
満月でもない。

その溢れんばかりの月の光を
遮るものは何もなくて。

電気を消してみれば、
部屋の中にくっきりと浮かぶ
自分ひとりの影。








(こんな日は、)








ひゅっ、と窓から風が
迷い込んで。

そしてそれは、
私の髪と遊ぶように軽く舞った。








(…ニア、まだ帰ってこないのかな)








転校してからずっと、
寮に帰ってくれば(少しばかり変わった)親友が居たのに。

彼に会えなくて寂しい日も、
一緒に居てくれた。





(……っ…)








理由なんてない。

ただ、自分の部屋に映った
たったひとりぼっちの影が
無性に怖くなったんだ。

私は、思わず携帯を
手に取っていた。

それは縋るように。




『はい?ひなちゃん?』

「あ、…だ、いち、せんぱい、」

『…どうか、したかい?』

「え、っと」

『ん?』

「いえ…あの、なんでもないんです!ただちょっと、大地先輩の声聞きたくて…」

『…そう…まいったな。まったく君は嬉しいこと言ってくれるね』

「いや、えっと、あ、あの、忙しい時に電話しちゃってごめんなさい!し、失礼します!!」








思わず勢いで
電話を切ってしまったけれど、
あんなんじゃ





(呆れられちゃってるかも…)







上手く感情が処理出来ないことが
もどかしくて、もどかしくて、
そのまま電気もつけずに
すとん、と床のラグに座り込んだ。








そしてどのくらい経っただろう。

こちらに向かってくる足音が
かすかに聞こえた気がした。







「……ニア?」

「…残念、ニアちゃんじゃないけど」







ドアの方に振り返って
かすかに声を上げれば、
月の光に映し出されたのは
私がずっと会いたかった人で。

いつもの余裕な空気は
相変わらずだけれど、
気のせいじゃなければ
少し息が上がってる。








「どうした、何かあった?ひなちゃん」

「だいちせんぱい、っ…ど、して?」

「どうしてって…声を聞けばなんとなくわかるよ、君のことだもの」






床に座り込んでいる私と
視線を合わせるように
大地先輩もしゃがみこんだ。

そしてあの、
優しい目で優しい声で私を包む。







「……あい、たかった、」

「…うん」

「…さみしかったの」

「うん、」

「だいちせんぱい、」

「うん?」

「…だいすきなんです」







もう、なんだか訳がわからなくなって
頭は真っ白。

なにもかもがいっぱいいっぱい。

でも、そんな私の言葉を
ずっと愛おしそうに
ゆっくりと聞いてくれた
私の、とっても大好きな人。








「…ねえ、ひなちゃん…俺もずっと会いたかった。受験のためとはいえ、寂しい思いさせてたね、ごめん」

「私、我侭でごめんなさい…」

「君の我侭なら、もっと聞きたいよ。…ね、もっと、我侭を言ってくれないか?」








そんな優しい目で覗き込まれて
そんな優しい声で甘く、
耳に注がれたものなら

あとは、私は彼の魔法に堕ちるだけ。







「………手、つなぎ、たい、です」

「ん、」





あなたの熱い指を絡めて






「………キス、して、」






あなたの甘い唇でキスをして







「…ん、………ぎゅ、って、して……」








ずっとずっとずっと私を抱き締めて







「…かなで…」







お願い、離さないで

あなたと居たいの。






いびつな月の夜に、
影がふたつ、並んだ。










fin.



「君と過ごす夏」提出作品。
この度は参加させて戴きまして、ありがとうございました!

『my sweets darling』
管理人s.a.r.a.



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あきゅろす。
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