*短編小説*
【暗然―笑み(前編)】
たくさんのしゃぼん玉が目の前をふわふわと漂う。
その輪の中に、何処からか聞こえてくる音楽と共に笑う彼がいる。
いつも楽しそうで、
いつも賑やかで、
いつも寂しそうだった。
理由は分からない。
だけど、その哀愁が
私にはとても重い…
悲しくなって、
泣きたくなる。
「どうして、貴方は…」
【暗然―笑み(前編)】
「…シルヴィア?」
彼が私の名前を呼んだ途端に場が静まり、しゃぼん玉がパチンと弾けた。
「あ…」
そう言うと、彼は慌ててしゃぼん玉を吹いた。
ぷーっと膨らんだしゃぼん玉が次々と筒から飛び立っていく。
「…いつの間に来てたんだ?」
遊びに夢中で気がつかなかったよ、と彼は笑った。
無邪気なようで、だけどなにかを隠しているような切ない笑顔だった。
彼は世界中を巡る風の妖精。
とても物知りで、森から出た事の無い私に数え切れない程の物語を聞かせてくれた。
名前は…そう、
「こんにちは、フィリ」
フィリ…それは昔の言葉で『語り部』の意味。
フィリはその名に恥じない程に頭が良かった。
だからこそ、つらい事も苦しい事も、彼は全部隠し通してしまう。
だから不安だった…
「…どうしたの?」
ふと気がつくと、フィリが私の顔を覗き込んでいた。そして首を傾げて『大丈夫?』とか、『具合でも悪いの?』と尋ねてきた。
「なんでもない」
私は心配ないよ、と精一杯笑ってみせた。
そう…なら良いけど、と言って、彼は切り株に座り直した。
…フィリの事だから、私の作り笑いに気付いたかもしれない。
「そういえば…さっき何を言いかけたの?」
その一言に一瞬ギクッとした。聞こえていなかったと思っていたのに、彼はちゃんと耳にしていた。
何て言えばいいんだろう…
目の前の彼は真直ぐに私を見ている。
真っ青な、水を映すような澄んだ色で…
…心が見透かされそうな瞳だった。
「…変な事を考えるヤツだと思うかもしれないけど…」
ためらいと戸惑いを押さえつつ、私は思い切ってフィリに聞いてみる事にした。
― 後編へ続く ―
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