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【玉】あなたの夢は美しい (終)



窓の外には、真円の光が輝いている。空の頂点から、全ての人々を見下ろすみたいにして。


さあ、行こう。

術式の真ん中に立って、精神を集中させる。体の中に、なんとも形容のし難いエネルギーみたいなものが、どんどん溜まっていくのを感じる。

(よし、チャクラは練れてる!)

だったら、きっと行けるはず。


転送忍術の印を結ぶ。窓から見えていた月の光が、ぐにゃりと歪んだ。渦を巻くように景色が溶け合って、体の奥底からどこかへ引っ張られるような、独特の感覚が襲ってくる。


――その時、


「名前!」


お母さんの声が聞こえた。

姿は見えない。視界には、もう色の渦のほか何も見えない。向こうからも、きっと私の姿はほとんど見えていないだろう。

だけど、声だけは聞こえる。


「名前!行ってらっしゃい!」


――そうだ。言うべきは、さよならなんかじゃない。


「はい、行ってきまーす!」

届いているか分からないけど、笑顔でピースサインをしてやった。


そして、それから本当に、全ての景色は渦の中に呑み込まれて……


……消えてしまった。






気が付けば、真っ白だか真っ黒だか分からない、とにかく何もない空間で、私は上も下もなく漂っていた。

ここは何だろう。私の生まれた世界でもなく、NARUTOの世界でもない。どっちつかずの、世界の狭間。


まさか、このままここを彷徨えとか言わないよな。不安に思った時、目の前で青い炎がまたたいた。


『ありがとう、来てくれて。……ごめんなさい』

「良いの良いの。誰のためとかじゃなくて、私が来たかったんですから。だから、謝らないで」

『ここからは私に任せて。絶対に、あなたをあの世界へ導いてみせる』

「ありがとございます……リンちゃん」


私が名前を呼ぶと、人魂ちゃんは驚いたように揺らめいた。

『名前さん、私の名前……』

「あ、正解でした?へへ……名前ちゃんの勘が冴えまくりってことですね!」

これまでのこと、そしてあの夢のことを、ずっと考えていた。

人魂ちゃんは、NARUTOの物語に深く関係する人なんだろうと目星をつけて、口調とか声とかから考えていった結果……のはらリンちゃんに辿り着いたってわけだ。


『……あなたはもう、知ってるんだよね。仮面の……』

「トビ君の正体?ええ、バッチリ」

『……あの、』

「いやいやいや、何でリンちゃんがそんな申し訳なさそうなんです?真に謝るべきはあの仮面クソ野郎であって……あ、リンちゃんの前でクソは駄目か」

『ふふ』

リンちゃんが、くすくす笑った。


『いいよ、それでも』

「えっマジ?やった!リンちゃん公認!」

これで堂々と、クソ野郎呼ばわり出来るぜ。


……なんて、ふざけた話は置いといて。


今だったら分かる。あの夢の中で、リンちゃんが私に伝えたかったこと。ノイズの向こうに消えてしまった断片を、今なら拾い上げることができる。


――オビトを助けて。



リンちゃんはそう言った。彼女にとっては、大切な人なんだもんね。破滅に突き進んでる姿を見るのは、きっとすごくつらいよね。

……見ているだけしか、出来ないなんて。



この空間では、なんだか時間の感覚が薄くなる。どれだけ歩いたのか分からない。リンちゃんについていって、何もない空間をひたすら進む。

しばらくして、ぽつりと小さな光を見つけた。


「あれが……」

『私たちの世界へ繋がる出口。名前さん、あの……本当に』

「待った待った!」

何かを言おうとしたリンちゃんを、慌てて制する。


「今さら帰れだなんて、そんなこと言いませんよね?ここまで来ちゃったら、むしろそっちの方が酷ですよ」

『でも……名前さんが、死んでしまうかも』

「さっきも言いましたけど、別にあの世界に戻るのだって、リンちゃんに頼まれたからってわけじゃないですからね?私が勝手にやってるだけですし」

そう。私はどこまでも自分勝手なのだ。自分のやりたいことが一番。どっかの誰かさんみたいに、里のためとか人のためとかに命を懸けたりなんてしない。

全ては、自分のため。


「それに、あくまで私の大本命は暁の皆さんなわけでして。まー仮面野郎も暁ではあるんですけどー、しゃーないからついで程度に助けてあげても良いかなー?みたいな」

あんまりリンちゃんが思い詰めないように、ちょっと意地の悪いことを言ってみたりする。

リンちゃんが不安げに、だけどちょっとだけ笑ったような気配がした。そうそう、それで良い。



「ああ、それと」

出口らしい光は、もうすぐそこまで迫っている。あそこに踏み込んだら、私はあの世界へ「転送」されるんだろう。
そうしたら、リンちゃんともこんな風に気軽にお喋り出来なくなるのかな。

ちょっと寂しい。

でもそうならそうで、いま言っとかなきゃいけないことがある。


「名前さんじゃなくて、もうちょっと気軽に呼んで下さいな。よく考えたら私たち、実はもう結構長い仲でしょう?」

『えっと、それじゃあ……名前ちゃん』

「はい!」


出口の光に手を伸ばす。指先が光に触れると同時に、視界がぐるりと渦を巻く。

『私も出来る限り、あなたのサポートをするから。名前ちゃん、どうか死なないで』

「もち!お母さんとも約束しましたし、死ぬつもりなんて毛頭ありませんよ。さ、行きましょう!」


足を踏み出す。

いざ、運命の只中へ!





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