デートには歩きやすい靴を履いていけ@ 「デートしましょう!」 そう言うと、整った形の眉がわずかに寄せられた。 うーん、これは何を意味する動きだろうか。疑問、不審、あるいはその両方。 ……単に鬱陶しがられてるだけか。 「デートしましょうよデートデート!」 「なぜ」 「気分です」 「断る」 くっそー最短のセリフだけで受け答えしやがって。乗り気のなさがこれでもかと言うくらい伝わってくる。 「良いじゃないデスかイタチ兄さんー!デート!しましょう!よ!」 「…………」 もはや返事すらしねえ。 まあ良いや。こっちだって、すんなり「じゃあ行くか」なんて答えが得られるなんて思っちゃいない。 ここはひたすら粘る作戦でいこう。 イタチ兄さんが相手だと、どれだけ鬱陶しくしても少なくとも命の危険はないから気楽だ。 さあやるぞ、名前ちゃん渾身の鬱陶しさを喰らいやがれ! ……と気合いを入れたところで、まさかの人から援護が入った。 「良いんじゃないですか、デート。行ってあげれば」 こいつ何を言ってるんだ……というイタチ兄さんの視線を受けても、発言の張本人――鮫さんは平然としている。 あらやだ、どういう風の吹き回し? 「どうせ名前の言う『デート』に、これと言って他意は無いでしょう」 「そういう問題じゃない」 「ついでに甘味処にでも寄って来たらどうです?」 「………………鬼鮫、お前…………今日の諜報任務を押し付けようとしてないか?」 あ、そういうことか。 鮫さんは「さて、何のことやら……」なんてうそぶいているけど、多分そういうことだ。 確かに今日は、降るのか降らないのか微妙なラインの曇り空。外に出掛けるにはちょっと面倒な天候だ。 鮫さん、私がなんか言い出したのに乗じて、今日は屋内でのんびりしていようという魂胆らしい。 ……そっちが乗っかってくるなら、こっちもありがたく乗っかるしかない。 「ほら、ほらほら鮫さんもこう言ってることですし。デート行きましょ?思い立ったが吉日。案ずるより産むが易し。タデ食う虫も好き好き」 「つまりお前はタデということか?」 「そこの解釈はお任せします!」 「………………はぁ……」 かくして私は、まんまとイタチ兄さんをデートに連れ出すことに成功したのだった。サンキュー鮫さん。 「やったやったー!イタチ兄さんとデートー!」 「…………鬼鮫、覚えていろ」 「はい、今日いっぱいくらいは覚えておきます」 いけしゃあしゃあと言う鮫さんは、早速鮫肌ちゃんのお手入れに取り掛かっている。 へっへっへ、今日ばっかりは、イタチ兄さんのお隣は鮫さんではなく私の特等席ってわけだ。 「なんかテンション上がってきました!ちょっとデイダラ君に自慢して来ます!」 「これ以上面倒事を増やすな。行くならさっさと行くぞ」 さらっとデイダラ君を面倒事扱いしてから、イタチ兄さんはホントにさっさと出て行ってしまう。 私は慌ててそれを追いかけて、今にも雨が降り出しそうな曇天の町へと繰り出したのだった。 …………で。 小一時間後、結局1人で町をぶらぶらしているというこの状況。いかんともしがたい。 イタチ兄さんいわく、諜報任務というのは地味(地味なのは認めるらしい)だが難しく、そして大切な任務らしい。 今回は付近の町で軽い諜報しかしないが、それでも確実に夜まではかかるし、とてもじゃないが名前を連れて歩くなんて御免被る、と。 もちろんそんな逃げを許す私ではない。 ではない……んだけど、逃げられた。 さすがはイタチ兄さん。ちょっと本気を出されただけで、影を踏むことすらかなわなかった。ちくしょー覚えてろ。 「別行動でデートかあ………いや、それってもはやデートとは言えなくないデスか…?」 ぶつぶつ独り言を呟きながら歩く。考えるのはよそう。虚しくなってくる。 「あら、ちょっとお嬢ちゃん!」 元気のいい声に呼ばれて、私は立ち止まった。気の良さそうなオバチャンが、店先からこっちに手を振っている。 「どしたの〜そんな暗い顔して!ウチのお団子食べて行きなさいよ。元気出るよ〜」 お団子。…………ふむ。 やりようは色々ある。お団子買ってイタチ兄さんには一切お裾分けせず、目の前で見せつけながら食べてやるとか。 でもあの人、自分で自分用の団子買って来るだろうからなぁ。 「それにしても、つまんなそうな顔してるねえ」 「ええ、まあ。ちょっと男に逃げられまして」 「あちゃ〜」 ホント、あちゃ〜だよ。 オバチャンに慰められながら、私はまんまと店内に誘導される。甘いものでも食べないとやってらんないし、まあ良いや。 イタチ兄さんがお仕事してる最中に、私は優雅に甘味を食す。当て付けとしては充分かもしれない。 …………なんてね。 (何事も、諦めない心が大切。諦めないぜ、イタチ兄さんとのデート!) ********* 長くなりそうなので続く。 [*前へ][次へ#] |