★猫は追うより飼い慣らせ ※『Snake×Cat×Snake』14話以降のお話。 全体的に薄暗い部屋の中。一番明るい場所に椅子を持ってきて、読書に集中しようと努力する。 本当はカブト君やらサスケ君やらにちょっかいを出しに行ったり、散歩しに行ったりしたいんだけど、今日はちょっと動き回る気にならない。 隣では、非常に機嫌の良さそうな大蛇丸さんが、研究レポートらしきものを黙々と書いている。 「……前にも思ったんですけど、大蛇丸さんは」 「なあに、名前」 「私のこと、着せ替え人形か何かだと思ってマスよね」 「人形よりは、もう少し実用に耐え得るものだと思っているわよ」 何をどう「実用」するのかは聞くまい。 何にせよ、少なくとも今日は完全に着せ替え人形だ。お正月と、あと確かサスケ君と会う時にも着せられたような振袖を、今日もまた着せられている。 振袖、綺麗だし可愛いし好きなんだけど、1日中着てろって言われるとしんどいんだよなあ。 「着替えちゃ駄目ですかー?」 「駄目よ。華やかで良いでしょう。我慢なさい」 ひととおり鑑賞したんだからもう良いじゃんと思うんだけど、そういう問題でもないらしい。 今日は振袖に加えて、髪飾りまでしっかり揃えられている。小さな花手毬を頭に乗っけて、まあ確かに、今日の私は華やかだ。 ……華やかさを求めるなら、もうちょっと部屋を明るくすれば良いのに。 「うー……読書に集中できなーい!大蛇丸さん!」 「なあに」 「なあにじゃないデスよ!大蛇丸さんは私をどうしたいんですか!」 「どうしたい?そうねえ………………」 「あ、真顔で考え込まないで下さい怖いので」 世の中には、知らない方が良いこともある。そういうことにしておこう。 「ヒマーーー」 とうとう読書を諦めて、椅子の肘掛けに反り返った。 髪飾りが揺れて、花手毬の中の鈴がチリンと音を立てる。 ずっと紙面に落とされていた大蛇丸さんの視線が、ようやく私に向けられた。 「それ、良いわね。名前がどこにいるかすぐに分かるわ。ずっとつけていたら?」 「嫌ですよ、猫の首輪じゃあるまいし」 「似たようなものよ。いつもの服は少し地味なのだし、髪飾りがあると映えるんじゃないかしら」 「それは、そもそも……!」 小南ちゃんから貰った花飾りをつけてたのに、それを取り上げて燃やしてしまったのは、他ならぬ大蛇丸さんじゃないか。 ……と、反論しようとしてやめた。なんか虚しくなりそうだったし。 反論不満を呑み込んで、子供みたいに膨れる私をあやすように、大蛇丸さんが手を伸ばす。 「そう気を悪くしないで頂戴。理由もなく着せているわけじゃないんだから」 頭を撫でられたところで、機嫌をなおせるわけもない。 「真っ当な理由があるってんデスか」 「あるわよ、勿論。聞きたい?」 視線を上げると、大蛇丸さんの黄金色の目が微笑んだ。 なぜ大蛇丸さんに気に入られているのか。なぜこんなとこに軟禁されなきゃならないのか。疑問だらけの毎日の中、大蛇丸さんが私に「理由」を与えてくれるのは稀だ。 「……聞きたいデス」 「そうねえ。まず観賞用というのもあるんだけど」 あ、やっぱあるんだ。 「一番には、部下のための福利厚生かしらね」 「…………ふくりこうせい」 およそ大蛇丸さんには無縁そうな単語が飛び出してきた。 「こう見えて私、里を治める長なのよ」 「存じております。音隠れでしょ」 「部下の管理も私の仕事」 はあ。 それが私の振袖姿と、どう関係してくるんだろう。 「分からない?」 「うーん……分かりません」 素直に白旗を上げると、大蛇丸さんはクスクス笑って「福利厚生の対象がやって来たわよ」と言った。 間を置かず、ドアがノックされる。「入りなさい」と大蛇丸さんが許可を出せば、入ってきたのはカブト君。 「失礼します。実験の経過報告書をお持ちし…………ああ、きみ、ここに居たのか」 カブト君は、振袖を着せられている私を見て、それから「ははあ」という顔をした。何か分かったらしい。 「お気遣い感謝いたします、大蛇丸様」 軽く頭を下げるカブト君。なおも笑っている大蛇丸さん。そして窮屈な振袖と、大蛇丸さんの隣で頭を撫でられるしかないこの現状。 …………。 …………あっ。 「そういうことか!」 「理解出来たかしら?ほらね、福利厚生でしょう」 反論できないのが悔しい。 「今はカブトも実験が立て込んでいるし、サスケ君も新術の訓練に忙しいし……」 「つまり、大人しくしてろと」 「そういうこと」 良い子ね。と、また頭を撫でられる。 しかし、まんまとしてやられたという感じだ。悔しい。 「別に私は、振袖着たままでもカブト君にちょっかいくらいは出せますけど……」 「そうなったら最終的には、薬で昏倒させられるか、手足を拘束されるか、どっちが良いかを選んでもらうことになるわね」 「ワーイ振袖嬉しいナー……」 ほぼ選択肢ゼロだった。 振袖という、はたから見れば贅沢極まりない選択肢を用意してくれていただけ、物凄くありがたいのではなかろうか。 ……いやいや、ありがたいだなんて。そもそもこんな地下に閉じ込められてなければ、こんな問題を抱え込むこともないのだ。 「何を不貞腐れてるんだい?なかなか似合ってるよ。馬子にも衣装とは、よく言ったものだね」 「褒めてるようで褒めてない!大蛇丸さん、一発だけあのメガネぶん殴らせて下さい!」 「駄目よ名前。大人しくしていらっしゃい」 勝ち誇った顔のメガネが憎らしい。 椅子から身を乗り出すようにして、部屋を出て行くカブト君の背中にあっかんべーをする。 髪飾りの鈴がチリンと鳴って、大蛇丸さんがクスクス笑った。 (ところで大蛇丸さん、この懲罰はいつまで続くんデスか) (そうねえ。カブトの実験が落ち着くまでだから、あと……………………) (言っときますけど、3日以上かかるようだとマジで名前ちゃん衰弱死しますからね!?) [*前へ][次へ#] |