妙に静かだなと思ったら大抵余計なことしてる
部屋の中には、心地のいい静寂が満ちていた。
特に任務もなく、疲れもなく、全身全霊を創作に費やせる一日。己の世界を表現すべく、無心で粘土をこね、形を整えてゆく。
ひとかたまりの粘土に魂を吹き込むように、意味ある形を与える瞬間。緊張と高揚感が混ざり合う、清廉な一瞬だ。
「見て下さい出来ました。名付けて、魚の骨が歯と歯ぐきの間に挟まっちゃった猫」
「今お前は色んなものを台無しにした、うん」
「えっ何がです」
デイダラは手元の粘土をひとまず端に寄せて、名前の『作品』を見やる。曰く猫らしい生き物が、やけに渋い表情で宙を睨んでいる。
「……妙に上手いのが腹立つな、うん」
「こういうの得意なんデスよ。どうですこの猫、採用しません?」
「オイラの美学に反する、うん!」
駄目かあ、と口を尖らせる名前。集中が途切れたのか、デイダラは成型しかけていた粘土を元の塊へと戻した。
「お前なあ、ヒマなら飛段にでも遊んでもらえ、うん」
「飛段君に遊んでもらって、遊びで済むと思います?角都さんは単独で賞金稼ぎ、イタチ兄さんも鮫さんも任務ですし」
「サソリの旦那は」
「既に追い返されてきた後です。ていうか、サソリさんが『ヒマならデイダラのとこに行け』って……」
「旦那ァ……!」
「ハイ相方に売られたやるせなさを、創作にぶつけましょう!」
「都合の良いこと言いやがって……うん」
邪魔するなよと睨みをきかせても「しませんしません絶対しませんよ〜」という全く信用出来ない返事しか返ってこない。
とりあえず多少の妨害は覚悟して、再び粘土をこね始める。
「………………5分か」
「え、何が?」
「お前がじっとしてた時間だよ、うん!さっきから何やってんだ鬱陶しい!」
デイダラが背後でごそごそとうるさい名前を振り返ると、名前は無言でデイダラに鏡を向けた。
「……何だいこりゃ」
「三つ編みです!っていうか、ここまでされても気付かないとか、どんな集中力してんデスか」
「いつの間に……」
頭頂で結っている髷は解かれ、細めの三つ編みが何本も編まれている。
「どうです?芸術的じゃないですか?」
「どこがだよ……うん」
「うーん可愛い……手元にカメラがないのが悔やまれる……」
「誰が可愛いだ!」
文句を言いながら髪を解くと、折角編んだのに!と名前はぶーたれた。
確かに割としっかり編んであり、解いたあとも少しのウェーブが髪に残っている。
「ちゃんと戻せよ、うん」
「えー、髷の結い方とか分かんないですけど……」
まあテキトーで良いですかね。との言葉に一抹の不安は残るが、デイダラはようやく波に乗ってきた創作意欲を切らさないようにと、意図的に名前を無視する。
その後も何やら髪をいじっている気配はしたが、デイダラの集中力は新作の細かな造形を整えることに終始し、一息ついた頃には名前は既に髪いじりにも飽きており、また余りの粘土をこねくり回していた。
「あ、終わりました?ってどこ行くんです!」
「こいつを試してみるんだよ、うん。爆発力は充分か、実戦で使えるか……」
手の中の作品を隅々まで確認しながら、デイダラは部屋を出る。
「こいつはウスバカゲロウをモデルに、極限までフラットな形状に落とし込みつつ、それでいて洗練されたしなやかな曲線を追求し……」
デイダラの講釈を聞き流しながら、名前はデイダラの後を追う。
外へ通じるホールへ出たとき、前方に人影を確認しデイダラは立ち止まった。傀儡の調整が終わったらしいサソリが、こちらも動作の確認なのか、何体かの傀儡を動かしている。
「お、旦那じゃねーか。オイラの新作を見るかい?今度のは自信作で」
サソリの表情に、デイダラは言葉を切り訝しげに首をかしげた。
「……何だい旦那、そのニヤけた表情は。うん?」
「お前こそ、それどうした」
「中々どうして似合ってるでしょう?」
サソリの質問に答えたのは名前だった。ギョッとしたデイダラが振り向くと、視界に入ったのは満面の笑みを浮かべる名前。
その髪はいつものデイダラのように、ちょこんと頭頂で結ばれている。
咄嗟に自分の頭に手をやれば、名前が結んだらしい不恰好な髷に指が触れた。
「良いでしょうサソリさん、おそろい〜」
「おま、これまさか部屋出たときから」
「そうですよ?デイダラ君ったら作品に夢中で全然気付かないんだから、気付くまで放っとこうと思って」
絶句するデイダラの姿に、サソリは愉快そうにニヤリと笑う。
「見事に遊ばれたな?」
「名前、お前なあ……」
「折角ですので遊び倒しました!と言うわけで、この記念すべきおそろい姿を、せめて記憶に焼き付けておいて下さいね!」
苦々しい表情で固まるデイダラと肩を組み、名前は満足げにブイサインを突き出した。
(いま帰りまし……………………イタチさん急いで下さい、面白いものが見られますよ)
(来んな!!!うん!!!)
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