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蛇と聖夜と出会いの予感




「もうあっっったま来ました!名前ちゃん拗ねます」


ぷうと頬を膨らませてそっぽを向けば、大蛇丸さんは余裕たっぷりに笑いながら私を眺める。くそ、相手にされてない。


「そう怒らないでちょうだい。少しは配慮したつもりだったのよ」

晩ご飯に申し訳程度に出されたチキンでクリスマスを妥協しろと!?
あり得ません!マジ舐めてます!」

「名前はどんな事がしたいのかしら」

「どんな事って、そりゃ」


クリスマスなんだし、ケーキとかつつきながら皆で楽しくパーティ……


……………この面子で?



「……やっぱ良いです」

「良い子ね名前」

嬉しくない。頭撫でられても全然嬉しくないぞ。



「…………何だか負けた気分です」

「あら名前、あなたが私に勝った事があったかしら」

「ええい違います!この状況そのものにですよ!」

ガタンと椅子を揺らして立ち上がれば、隅っこで紙に筆を走らせていたカブトくんと目が合った。一瞬だけど。



「…………カブトくん、暇そうですね」

「今のボクを見て、どう解釈したらそんな言葉が出てくるんだい?」

「カブトくん、こんな言葉を聞いた事がありませんか。時間とは作るものだ、と」

「キミの為に作る時間なんて無い」

「まあまあ、カブトくん」


大蛇丸さんの側を離れ、今まで座ってた椅子を抱えてカブトくんに駆け寄る。カブトくんの隣に椅子を据えて座り、こしょこしょと耳打ち。


「ね、良いでしょう」

「キミひとりでやりなよ」

「お手伝いが欲しいんです」

「大蛇丸様に頼めば良いだろ」

「へー。あなた主君をパシる気ですか。つーか、大蛇丸さんをお手伝いにする勇気は私にもありません」

「貴方たち、私がこの部屋に居るって忘れてる訳はないわよね?」


ちょっぴりご機嫌斜めになった大蛇丸さんの機嫌を取るために、私は再び椅子を抱えて大蛇丸さんの元に戻る。


「はぁ、まあ良いデスよ。私でなんとかします。大蛇丸さん、お台所貸して下さい。あと食材」

「あら、名前あなた、料理が出来るの?」

「まあそれなりには。昨日のフライドチキンよりかはマシなもの作ってみせますよ」


だって今夜はクリスマス。別にキリスト教がどうとか、そんなのはどーだって良い。ただここでこのイベントを諦めたら、何だか私の芯までここの雰囲気に呑まれてしまったようで気に入らない。実に、気に入らない。



「じんぐるべーじんぐるべー、鈴が鳴るー」

クリスマスソングを口ずさみながら、私は台所を行ったり来たり。


……そういえば、暁は。今夜は何をしてるんだろ。


「クリスマスパーティをしてない事は明らかですけどねえ」

あっちでも、私が無理矢理やってただけだし。多分今日も皆、いつもと変わらない夜を過ごすんだろう。


「メリークリスマス、皆さん」

鍋をかき混ぜながら呟く。台所は暖かく、淡い匂いに満ちていた。




そして、夜。


「あら、想像以上だわ」

「うふふそうでしょうそうでしょう!さあさあ召し上がって下さい!」


テーブルは、料理でいっぱい。大蛇丸さんは勿論カブトくんも、ちょっと驚いた顔をしている。


「名前、料理は上手いのね」

「は、っていうのが少々気にはなりますが、この際言及はしません。ありがとうございます」

「……でも、どうして全部カボチャ料理なのかしら」

「それはですね!クリスマスっていうとここの雰囲気に余りにも合わなかったため!クリスマスでなく冬至に焦点を当てる事にしたからです!」

冬至は21日だけど。カボチャを食べて柚子湯に入ったら、健康になれるって言う。


「……それって結局、クリスマス関係ないよね」

そこは突っ込んじゃダメな所ですよカブトくん


良いの良いの!楽しければそれで良いの!そもそも考えてみれば、大蛇丸さんのアジトにおいて「楽しい」ってこと自体が異常だよ。名前ちゃん頑張った!

カボチャスープにカボチャの煮物に、カボチャタルトも。お料理は揃ってるんだから、あとはその場の雰囲気だけだ。それが一番問題なんだけど。


「まあ、細かい事はどーでも良いんです!はいメリークリスマース!」

案の定誰もノッてくれなかったけど、ぽい事にはなってるし、上々としましょう。



「……この煮物、美味しいわね」

「ホントですか!ありがとーございます!」

「あの子にも少し分けてあげようかしら」

「あの子、とは?」


カボチャタルトを切り分けながら尋ねれば、大蛇丸さんは少し考えたあと、にやりと笑う。


「……そうね、あなたに会わせてみても面白いかもね」

「はい?」

「近々、声を掛けておくわ。それより名前、ちゃんと手元を見ないと、タルトが崩れ掛けてるわよ」

「え、あっ!」

せっかく綺麗に出来たタルトが、お皿に届くまでにこんなぐちゃぐちゃになってしまうなんて。
仕方なく、形の崩れたタルトを自分のお皿によそいながら、私はさっきの大蛇丸さんの言葉を思い返す。

カボチャの煮物をお裾分けしたいくらいお気に入りで、私に会わせたら面白そうな人。




…………まあ、大蛇丸さんのお気に入りって時点で、ひとりしか居ないよね。

そっか、もう第一部が終わっていてもおかしくない頃なのか。




「……どうしたの名前、にやけたりして」

「いえ、楽しみが増えたなあと」

「ああ、会わせたい子が居るって言った話かしら?でも難儀な子よ。流石のあなたでも、カブトのようにはいかないんじゃないかしら」

「そーですか?まあ私も、楽しみにしておきますよ」



難儀な子なのは知ってるけど、会えるのが楽しみだ。


ね、サスケくん。




(そう言えば名前、どうせなら柚子湯も入れましょうか)
(大蛇丸様、甘やかし過ぎではないですか)
(カブトくんシャラップ!)



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