飛べない小鳥と、ストックホルムの淡いまぼろし
僕は、馬鹿が嫌いだ。
まず話していて苛々するし、見ているだけでも殺したくなってくる。低脳な発言、考えなしの行動、全てが僕を苛つかせる。
そして今、僕の目の前にいるのは、馬鹿だ。
「…………おっとカブトくん。いま私の事を、馬鹿だって思いましたね?侮るなかれ、名前ちゃんは出来るお馬鹿さんなのですよ!」
そうだ、訂正しよう。
僕の目の前にいるのは、出来る馬鹿だ。口が達者で逃げ足がはやくて、妙にカンが鋭い馬鹿。
その馬鹿は今、医療忍術の修行をしている。他の誰でもない、この僕の指導を受けて。
「いやあしかしカブトくん、やっぱり無理なものは無理ですよー」
「アカデミーレベルの基本だよ。これが出来なくて、チャクラコントロールが出来ると思うのかい」
分身の術。基礎中の基礎、基本の術が、彼女は出来ないという。ホント馬鹿だ。
いや、そんな事より。
彼女は、あの暁に身を置いていたのではなかったのか?これ程までに弱く、何の取り柄も無いような人物が、何故暁に?
「ねえ、キミさ」
「あっ今話し掛けないで下さい!何かあともうちょいで出来そうな気がするんデス!」
「どうせ、何だかよくわからない物体しか出せないだろ」
そんな事より、と切り出せば、彼女は興味なさそうな表情で僕に視線を向ける。
「キミ、どうして暁に居られたんだい?キミみたいに無能で何の益もない人間を、あの暁がわざわざ手元に置いておくとは考え難い」
「カブトくんってホント失礼ですよね。私にだって、暁の中で役割くらいありましたよ」
「……例えば?」
「えーーーっと…………マスコットキャラ?」
聞いた僕が馬鹿だった。
いや或いは、彼女は自分の役割を知らされていなかったのか?例えば彼女が、自分でも無意識に使ってしまう力を持っていたとして、その可能性はあり得る。
……だが。
「やっぱりさー、チャクラコントロールとかスッ飛ばして実技やっちゃいましょうよ。私、料理とかカンでやるタイプなんですよねえ」
「……キミみたいな馬鹿が」
「ちょっとちょっと。話の流れで言われるならともかく、脈絡も無く馬鹿と罵られる筋合いはありませんよこの眼鏡野郎」
ああやっぱり、僕は馬鹿が嫌いだ。
この、感情的で短絡的で考えなしの馬鹿娘が、あの暁に必要とされる人間であるとは到底思えない。そうだ、きっと考え過ぎだ。
考え過ぎに決まってる。
「カブト、名前の調子はどう?」
「ああ……やはり予想通りというか、予想以上というか」
「それは、悪い意味で?」
「まさか良い意味だとでも?」
愉快そうに笑う大蛇丸さまに、僕の心労はさらに溜まっていく。お気に入りが出来るのは良いけど、その面倒くらいご自分で見てはくれないものか。
「まあ、放っておきなさい。どうせあの子にとっては、暇潰しに過ぎないのだから」
ーー残酷な方だ。
小鳥の羽根をもいでしまう事はせず、ただ細い針金で縛り付けて籠の中に閉じ込める。しばらくもすれば、小鳥は飛ぶ事を諦め、やがて飛ぶ事を忘れるだろう。
気付いた時には、長年縛りつけられた羽根は退化し使い物にならなくなって、飼い主の手のひらで歌うだけの存在になる。
仮に自由の身になれたとしても、永遠に地べたを這いずりまわって生きる事になるだろう。
「……残酷な方だ」
口に出して言ってしまえば、大蛇丸さまは特に気にした様子もなく、ただ満足げにクスクスと笑った。
(それとこれとは話が別です。あの娘なんとかして下さい)
(翻弄されるあなたを見るのも、新鮮でなかなか良いわね)
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