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打算的産物であれ友情は友情


「はいこれ、どーぞ」

その辺の空き部屋からパクっ……拝借してきたズボンと上着を、水月くんに投げて寄越す。彼は適当な礼を言いつつ、それに袖を通した。

「いやあ助かったよ。ずっとあそこに閉じ込められててさ、参っちゃってたんだよね」

「感謝してんなら、さっきの間抜け面発言については撤回及び謝罪すべきじゃないデスか?」

「うん、ありがと」

「じゃなくてさー」

色々言いたいことはあるけれど、目の前で二カッと笑う少年を見ていたらどうでもよくなってくる。今は原作でいえば第一部が終わってすぐだから、水月くんもどことなく幼い。



「でもさ、」

しかしこちらが油断するや否や、幼い顔がにたりと歪み、次の瞬間、私は壁に押し付けられていた。苦しい。水月くんの手のひらが液状になり、私の鼻と口を塞いでいるためだ。

「あんた何者?大蛇丸の部下って感じでもなさそうだし」

こういうのってさ、口塞いだままだと喋りたくても喋れないと思うんだよね。
取り敢えず、喋るからこれを除けてくれとジェスチャーで示してみる。水月くんは少し不思議そうな表情をしたあと、ああ、と呟いて手をどける。

「喋れないよね」

「水月くんが物分かりの良い子で助かりました」

「んっ?ボクの名前知ってんの?」

さて、どこから説明すべきか。暁云々は言うべきじゃないだろうな。大蛇丸さんに負けて連れ去られましたって言うのもなんだか癪だし、適当なこと言って誤魔化しとくか。
頭の中で嘘八百を並べ立てて吟味していると、水月くんはポンと手を打った。

「ああもしかして、最近噂になってるアレ?大蛇丸の愛人

ちょっと待って

何だって?私が?誰の?なんだって?

「え?大蛇丸の愛人」

「二度も言いましたね!おぞましい!」

「アンタが言えって言ったんじゃん……なに、違うの」

「違いますよ!流石の大蛇丸さんもまさか私みたいなのに手を出すほど変態じゃ…あ、いやその辺は不確かデスけどとにかく!私は純真純潔いたいけな乙女ですから!マジで!」

いや、今この場で間違いを訂正する事も大切だけれど、それ以上に優先させるべき事があるんじゃないか。
さっき水月くんは何と言った?

「……最近噂になってる?」

ぼそりと呟くと、水月くんが目を逸らしたのが分かった。


「……いやさ、囚人たちの間ではアンタ結構有名だよ?大蛇丸が女を囲ってるって」

「…………まあそりゃそうなりますよねえ……大蛇丸さんですもんねえ」

落ち込んでいる私を見て、水月くんは「じゃあ違うの?そーゆー関係じゃないんだ?」と下卑たことを聞いてくる。くそ、この子性格悪い。

しかしまさか、そんなことになっているだなんて。盲点だった。
考えてみればここに囚われている人たちは、やれ新人の看守だの何だのと、そういうことくらいしか話題にすることが無いのだ。ふらりと現れて特に仕事をするでもなく、カブトくんの後ろをふらふら付いて回る私は、さぞかし奇妙な存在だったのだろう。


…………で、

導き出された答えが、愛人。


「水月くん。今度その話題になったときは、全力で否定しておいてくれませんか」

「えー、どーしよっかなー。情報の出どころとか聞かれても面倒だし、やだなー。なんか交換条件でも呑んでくれるなら別だけどー」

くっ……この子、したたかだ。


「……良いでしょう。本来なら他人が何と言おうと気にしないタチですが、今回ばかりは私の名誉が泣いていますから。条件は何です?」


水月くんは、ギザギザの歯を剥き出しにして嬉しそうに笑った。笑顔は可愛い。

「たまにさ、こうして外に出してよ。大蛇丸が居る限り、脱出できるとは思わない。でもずっと閉じ込められっぱなしって嫌じゃないか」

「なるほど。そんなこと、お安い御用ですよ」

良かった、脱走を手伝えとかじゃなくて。いくら大蛇丸さんのお気に入りとはいえ、面倒事は御免だ。ちょっと外に出すくらい、まあどうとでも言い訳はきくだろう。

「では、めでたく交渉成立ということデスね。宜しくお願いしますよ」

「その前にアンタ、名前なんていうの」

「ああ、私は名前。気安く名前ちゃんとでも呼んで下さい」

「……名前、ホントに大蛇丸のお気に入りなんだよね?それにしては雰囲気が、思ってたのと違うけど……まあ良いや」


握手をすると、水月くんの手は驚くほど冷たく、そして少しだけ濡れていた。



(お母さん、ようやくここでも、お友達が出来ましたよ!)



* * * * * * * * * 

そういえば夢主のこと名前ちゃんって呼んでるの、本人しか居ないような…


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あきゅろす。
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