ドSは死んでも治らない。 「名前は、マニキュアは塗らねーのか?」 「はい?」 傀儡の組み立てに没頭していたサソリさんが、唐突に言った。 何の事か分からずに、私は3秒程考えて込んでしまう。 「………ああ、暁の皆さんがしてるみたいな、黒のマニキュアデスか?しませんよ。好みじゃないですし」 「好みの問題かよ……」 どうせマニキュア塗るなら、女の子らしくピンクとかが良いなー、なんて。 ま、面倒臭いから塗らないけどね。 「名前、今日暇なんだろ。俺の貸してやるから塗ってみろよ」 「えー、黒ですかぁ?」 まあ、ある意味イメチェンかな……。 かくして私は、黒のマニキュアとペディキュアを塗る事になった、の、だが……… 「……ねえサソリさん、これって絶対刷毛が大き過ぎるんデスよね?デスよね?」 「…………お前が超絶不器用なんじゃねーの……」 「そ、そんな筈っ……ああっ!またはみ出た!」 見てられないとばかりに、サソリさんは私の手からマニキュアの瓶をひったくった。 「貸せ。俺が塗ってやる」 「えー、何かやらしい事考えてません?」 「お前の心掛け次第だな。大人しくしてろよ」 「ぶー」 まずは右手の爪から、サソリさんは器用にぺたぺたと塗っていく。 「器用ですねぇ」 「当たり前だろ。俺を誰だと思ってる」 「サソリさーん!」 「阿呆ゥ」 次は左手。 掌からは、沿えられたサソリさんの手の冷たさが。 指先からは、マニキュアの冷たさが。 それぞれ違う冷たさが体に染みてくる。 「サソリさん、手ェ冷たいデスねえ……」 「傀儡だからな」 「私の手はあったかいデスか?」 「分かんねぇ」 「あ、そっか……」 自分の体温も無ければ、他人の体温も感じられない体。 「……私があっためてあげましょうか」 「要らね」 「コラコラ。人の親切は素直に受け取るモンですよ」 「うるせーよ。オラ、次は足だ」 「………………」 …………足。 「………何だよ」 「…………サソリさん、私、ソファに座っても良いデスか?」 「はぁ?」 「いや、束の間の女王様気分を味わえるかなー、と」 勿論脳内BGMは、ア●プロの『跪ずいて足をお舐め』だ。 「却下」 「うわ即答デスか。少しくらい良いじゃないですかー。サソリさんいっつもSなんだから、たまにはMの気持ちも味わってて損は無いと……」 「黙れ」 「ひぎゃ!」 怒ったサソリさんに足首を掴まれて思いきり引っ張られ、私は勢い良く後ろに引っくり返った。 「名前、もう少し色気のある声出せねぇのか?」 「はっ!色気?この私を誰だと思ってるんデスか?」 「威張るな」 「とりあえず足放して下さいセクハラはんたーい!」 「暴れんじゃねぇコラ!」 サソリさんに片足首を持たれたままギャアギャアと騒いでいると、アジトの入り口から物音がした。 ………えっと、 …………誰か、帰ってきた? ………………。 「………サソリさん、この体勢は確実に、誤解を呼ぶフラグだと思うんデスけど……」 「……………(ニヤリ)」 ニヤリ、じゃねぇぇぇ! 誤解呼ぶ気満々だこのドSおやじ!!! 「良いじゃねぇか名前。色気の無さ過ぎるお前に、たまにはこういうのも良いだろ?」 それっぽい台詞言ってるぅぅ! 「サソリさん悪ふざけはよして下さい……っ!」 「俺はふざけちゃいねぇぜ?」 ああ、無情。 そしてドSの思惑通り、居間の扉がゆっくり開き、入ってきた人と私の視線がかち合う。 闇色の瞳。イタチ兄さんだ。 「…………」 「…………」 「…………敢えてスルー、すべきか?」 「いやスルーしないで助けて下さいよ!!!」 結局、イタチ兄さんに助け出されるまでも無くサソリさんが自ら私を解放し、その後私はイタチ兄さんの誤解を解くために尽力したのだった。 (結局サソリ、お前は名前に何をしてたんだ?) (……イタチじゃなくて、デイダラだったら面白かったのにな) (…………?) (いや、こっちの話だ………クク) [*前へ][次へ#] |