静寂を以て、前奏曲と為す。 「あ、お久しぶりです!」 その日あまりに綺麗な朝だったので、私はアジトから出て、外の空気を好きなだけ吸っていた。 そこに地面からにょきっと現れたのは、植物の様な外殻を持つ暁のメンバー、ゼツさん。 「おはようございます。珍しいデスねーゼツさんが来るなんて」 「……フン、相変ワラズ煩イ奴ダ………久しぶり、名前」 「何か特別な用事でも?」 「…アア………今日このアジトに居るのは誰?」 デイダラ君とサソリさんは昨日からお仕事。リーダーと小南ちゃんはそもそもあんまりここには来ないし…… 「イタチ兄さんに鮫さん、それと不死コンビの御二方です」 「……充分ダナ………だね。名前、皆を呼んでくれる?」 「らじゃっ!」 私はビシッと敬礼をかますと、アジトの中へと入っていった。 「桃地再不斬ガ死ンダ」 ゼツさんがそう告げると、居間全体に緊張が走った。 「以前名前ガリ-ダ-ニ伝エテイタ通リ…………木ノ葉のはたけカカシ率いる小隊にやられたみたいだね」 「へーっ!じゃあ名前って、ホントに異世界から来たんだな!」 飛段君が、今更感心する。 「じゃあさ、名前は未来の事なら何でも分かるのかよ?」 「そういう訳じゃあないデスよ。だって……」 何でも分かる訳じゃないという事を飛段君に説明しようとすると、イタチ兄さんに視線で制された。 「………それで、ゼツはそれだけを伝えに来た訳ではないだろう?それならリーダーの術で済む話だ」 「アア、ソウダ……名前、オマエニ用ガ有ル………………『この先』を教えて欲しいんだ」 『この先』……。 漫画では確か……… 「中忍試験が始まります。場所は木ノ葉……」 ナルトと我愛羅――……つまり九尾と一尾の事も、言っておくべきだろうか? いや、やっぱ余計な事はしない方が良いかなぁ。 「ソレダケカ?」 「あ、途中で大蛇丸が介入してきマスよ」 何でも無い風にさらっと言うと、居間の雰囲気が凍った。 あ、そういや大蛇丸って、元暁のメンバーだっけ。 「大蛇丸が中忍試験に介入?何故ですか?」 「木ノ葉崩し。あと………」 ちら、とイタチ兄さんを見た。写輪眼を発動していない漆黒の瞳も、こっちの視線に気付いて私を見る。 「………あと、うちはサスケにマーキングをするために」 イタチ兄さんと視線を合わせたまま、静かにそう言う。闇色の瞳が、わずかに動揺した。 「うちは?」 角都さんの問いに、「弟だ」とイタチ兄さんが簡潔に答える。 答えた後、イタチ兄さんはいつもより気難しい表情で、いつのまにか私から目を反らして窓の外を睨んでいた。 「ソウカ………分かった。ありがとう名前」 「いえいえ」 「じゃあまた来るね」 そう言ってゼツさんは、床にずぶずぶと消えて行った。 重苦しい居間の空気を、私と飛段君だけが持て余している。 「え………えーっと、皆さん……そろそろ御飯にしマセンか?」 「………そうですね。そうしましょうか」 鬼鮫さんが席を立ち、続いて角都さんも台所へと移動して、それに飛段君が続く。 「………あの、」 ひとり、居間に残ったイタチ兄さんに、遠慮がちに話しかける。 「御飯、食べません?」 「……………」 どうしよう。イタチ兄さん無反応だよ大丈夫か? 「あのぅ……」 「………名前」 「は、はい何でしょう?」 「お前は…………」 しばらく沈黙した後に「いや、いい」とだけ言って、イタチ兄さんは台所へと行ってしまった。 (キャラクターの感情なんかまるで無視して、物語は確実に、進んでいるのです) [*前へ][次へ#] |