あと5日・『あの人』
「うわーーー!」
穏やかな昼下がり、居間にてくつろいでいたところ、聞いた事の無い声が驚きの声を上げた。
「知らない人がいる!新入り?あれ、でも暁マント着てない……」
ぐるぐる模様の仮面を付けたその男は、人なつこそうな様子で、ソファを丸々占領して寝転がっている私に近付く。
「おいトビ。うるせーぞ、うん」
「あ、デイダラ先輩。この人、誰っすか?」
「あー、ソイツは…………………仲間だ、一応」
デイダラ君、説明が面倒だからって、はしょったな。
「名前、コイツはトビっつって、正式なメンバーじゃあないが、一応暁の一員だ」
「名前さんっていうんですか?じゃあ、俺の方が先輩?」
「まあそうなるな、うん」
そっかぁ、と間伸びした声で言った後、彼は私の方に向き直った。
「じゃあ名前さん、これから宜しくお願いするっすね」
そして、差し出される右手。
うわぁぁぁどうしよう。
びっくりするくらい、素直に握手出来ない。
だって私、この人の正体知ってるし。大ボスだし。
「あれ?名前さん?」
なかなか手を握ろうとしない私を、不思議そうに見てくる。
私の視線は自然と、ぐるぐる仮面の右側に空いた穴に向いた。
「…………仮面、取らないんデスか?」
「え?」
私は、自分でも気付かないうちにそう言っていた。
一瞬、それこそ、デイダラ君ですら気付かない程一瞬、2人の間の空気が張りつめる。
「………あー、これっすか?これは駄目っすよー、俺のアイデンティティっすから!」
そう口を開いた時には、彼は既に『トビ』に戻っていた。
……っていうか私は、何を口走ってるんだ。
危ない危ない。
「分かりマシタ。では、仮面のトビ君、宜しくお願いしますね」
右手を差し出し、握手をする。
…………君付けで良いんだよね……?
「名前さん、敬語じゃなくて良いっすよ?」
「トビ君だって敬語じゃん。それに、私にとってのアイデンティティは、敬語なんデス」
「へー。じゃあ似たもの同士なんだ。俺達」
一見仲良さげな私達を見て、デイダラ君もソファに寄って来る。
「おいトビ。あんまし調子乗ってんじゃねーぞ」
「え?デイダラ先輩、ジェラシーですか?」
「誰がだ!!うん!」
下らないやり取りを続ける2人。
っていうか、あの大物の口からジェラシーなんて単語が飛び出したぞ。
それを考えたら、今の会話はかなり笑える会話だったんじゃないか?
………なんて、私も下らない事を考えながら、じゃれあう(?)2人を見つめる。
「だいたいトビ、お前はいつも調子に乗り過ぎなんだよ、うん!」
「だって、女っ気の無い暁に、女の子がいるんスよ?テンションも上がるってモンでしょ。びっくりでしょ」
私はむしろ、アナタの演技力にびっくりだよ。
何なの?何なのこの人。
「名前!」
急に名前を呼ばれ、私は顔を上げる。
「迂濶にコイツに近付くな。ロクな事無ェぞ、うん」
「あ、酷いなー」
トビ君は、すねた様な声でデイダラ君に抗議した。
まあ、確かにロクな事は無さそうだ。
今日、心に決めた事は、トビ君………
………いや、マダラさんの前では、余計な事は言わないでおこう、という事。怖いし。
(『仮面』をかぶっている彼は、なかなか愉快な御仁です)
* * * * * *
トビの口調が分かりません。
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