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マザーグースの舞台裏




停戦後、私はあいつと別れてオーブへ向かった

精神衰弱状態のキラは、戦争で受けた傷を少しずつでも癒す為、カガリと共にオーブへ

ラクスは国家重要機密のフリーダムを奪取した罪を償う為、アスランと共にプラントへ

以前から考えていたことなんだけど、私、ジャーナリストになりたかったのよね

私の叔父さんがジャーナリストで、カメラ片手に世界中を飛び回っていたわ

たくさんの写真を撮って、今の世界の現状を多くの人に知ってもらおうと、時には命を落とし兼ねない戦場にも足を運んでいた

「今の自分にはこれくらいしか出来ることがないからね」

「そんなことないわ。叔父さんのおかげで世界で起こっていることがわかるのよ」

「ありがとう、ミリアリア」

そう言って、私の頭を撫でてくれる叔父さんの手は誰よりも優しかった

私にとって叔父さんは誇りで、その頃からジャーナリストと言う仕事にも憧れの念を抱いていた

だけど、世界の悪意は容赦なかった

「叔父さんが……死んだ?」

お父さんとお母さんが、何も言わぬ叔父さんの亡き骸を抱いて泣いていた

「死んだ?う、嘘……嘘よね?」

冷たくなった叔父さんは…もう笑わない、泣かない、怒らない

私は泣いた

暗い部屋にうずくまり、1人声を押し殺して泣いた

「どうして…」

小さな心に湧いたひとつの疑問

「どうしてあんなに頑張ってた叔父さんが、こんな酷い目に逢わなければならないの?」

それからと言うもの、その疑問が心の中で引っかかり、胸のつかえがなかなかとれなかった

私がザフト、プラント間の戦争に巻き込まれたのは、その数年後のことだった




別れる前に一言だけでも会話がしたくて、キラの親友のアスランに頼んでもらい、ディアッカを呼び出してもらった

「何だよ、急に」

「ごめん………でも」

「でも?」

「別れる前に、ちゃんとアンタと話がしたくて」

「実はさ、俺も…」

「えっ?」

「俺も、お前とちゃんと話し合っておきたいって、思ってたトコ」

「へえー…奇遇ね」

2人はぎこちなく会話をするが、他に話題が出てこない

気もそぞろという風情で、相手の反応をちらちらと窺(うかが)う

何やら気まずい雰囲気になる

「これからどうすんの?」

先に喋ったのはディアッカの方だった

「私は…オーブに向かおうと思うの」

「オーブへ?」

「うん、オーブでジャーナリストになる為の勉強をしようと思ってる」

「ジャーナリストォ!? お前がか?」

「何よ! 悪い?」

ミリアリアが不機嫌になったのを察し、慌てて訂正するディアッカ

「いや、そういうことじゃねーけどよ…」

「じゃあ何よ」

「ほら……ジャーナリストって、危険な場所にも行くかもしれねぇし……その、お前の体が心配なんだよ」

「お前ェ?」

「間違えました。ミリアリア様」

「様をつければいいってもんじゃないわ」

「じゃあなんて呼べばいいんだよ?」

「ミリィでいいわ」

「えっ!?マジかよッ!」

「ただし、アンタがやることをきちんとやってたらね!」

「やることって…何だよ! それ」

「ザフトに戻るんでしょ?」

「え……あ、ああ。一応な」

ディアッカが頭を掻いて、うすら笑いを浮かべるもんだから、ミリアリアは「ザフト軍に戻る」ということの重要性を把握していないと思った

「アンタ本当にわかってるのッ! 軍を裏切ってこっちへ来たんだから、銃殺刑になってもおかしくないのよ!!」

「ああ…わかってるぜ」

「なら、どうして!!」

ミリアリアは端正な顔を衝撃と憤(いきどお)りに歪め、ディアッカは黙ったまま俯く

周囲が冷たい沈黙に包まれる

「……ごめん、怒鳴ったりして」

「別に。まあ、いいけどよ…それだけ俺を心配してくれてるってことだしな」

「なっ!? アンタの心配なんかちっともしてないわよ」

「そう気張るなって」

そっぽを向くミリアリアにディアッカは苦笑する

「とにかく、俺はザフトに行って軍法会議にかけられる。そこでお前の言う通り、ちゃーんと裁きを受けて判決を受け入れる」

「そう…アンタが決めたんだったら否定しないわ」

ミリアリアは彼に目を向け、その顔がなおも固い決意に満ちたものであることに気づく

そんなディアッカを初めて見た彼女は何も言えなかった

「わかったわ。一言話せて良かった」

「俺もだ、ミリィ」

「まあ、今回だけは許してあげる」

「え…じゃあ! 俺とのこと」

「次にあった時、浮気でもしてたら容赦しないわよ!」

「ちぇっ」

「ちぇっじゃない!」

「次会った時、もし俺がいい男になってたら俺とのことも考えてくれる?」

「そうね…。まあ候補の中に入れておいてもいいわ。アンタがいい男になってれば、の話だけど」

「よっしゃー! 俺、頑張ってミリィに釣り合ういい男になるぜッ!!」

「期待しないで待ってるわ」

ディアッカの意気を誉(ほ)めるように、ミリアリアがそっと肩に手を置く

ディアッカはほっとするものを感じながら、誰より自分を理解してくれている仲間に微笑み返した

「じゃあ、私行くわ」

「元気でな」

「アンタもね、生きてなかったら承知しないわよ」

「ヒューッ! 怖えぇ」

こうして2人は進むべき未来へと歩んで行った

速さも歩幅も夢見る方向も全く違うが――

再び相まみえる日を待ち望んで



マザーグースの舞台裏



(旅立ちの朝。物語りはこれでおしまい。)









お題拝借、9円ラフォーレ様

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