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惑星の詩篇




次女のティエリアお姉様には、シンデレラという妹がいました

「シンデレラ」

「何でしょうか? ティエリアお姉様」

絶世の美女と謳(うた)われるシンデレラに変な虫が寄りついて来ないか、ティエリアは毎日心配でたまりません

「今日の夕食のメニューはなんだ?」

「鴨肉とサーモンの燻製仕立てに舌平目のポワレです」

「そうか、ならいい」

「…? 変なお姉様」

態度には出さないものの、ティエリアはシンデレラを可愛がっていました

ある日、よく眠れず、シンデレラにカモミールティーをいれてもらおうとダイニングへ向かったら、魔法使いらしき少年がシンデレラと会話をしています

「刹那…」

「シンデレラ、お前を奪いに来た」

小さな魔法使いは、家事を終え寝ようとしていたシンデレラを、大胆に口説いてる最中でした

「一緒に来てくれるか?シンデレラ」

ティエリアはシンデレラが「そんな怪しい奴に知能の高いシンデレラがついて行くはずがない」と、たかを括(くく)ってました

ですが、意外な反応がシンデレラの口から漏れたのです

「…ええ、私をここから連れ去って」

まさか誘いに乗るとは思ってもなかったティエリアは、シンデレラを止めようと必死で二人を追跡しましたが、その頃には遥か彼方に遠ざかっていました

「シ…シンデレラが、私の可愛い妹が誘拐されてしまった…!」

溺愛してやまないシンデレラを、訳のわからない輩(やから)に持っていかれたティエリアはある行動に出ました

「おい、アレルヤ・ハプティズム。いるなら返事をしろ!」

ティエリアは森に住んでいる妖精、アレルヤに会うために森の奥深くへと足を運びました

「ティエリアじゃないか。どうしたの?こんな夜遅くに」

「シンデレラが拉致された」

「ええっ?!だ、誰に…?」

「わからないが何者かに連れ去られた」

ご立腹のティエリアを、内気で大人しい妖精のアレルヤが宥(なだ)めます

「連れ去った犯人に、何か特徴とかはなかった?」

「魔法使いらしき格好をしてたな…」

アレルヤは首を傾げて少し考えると、誰かに向かって呟き始めます

「魔法使いか。ハレルヤは知ってるかな?ねえ、ハレルヤ」

アレルヤが髪を上げオールバックにすると、ハレルヤという第二の人格が出てきたのです

「あー! なんだよアレルヤ?」

無理矢理アレルヤに起こされて、けだるそうに返事をするハレルヤ

「ごめん、ハレルヤ。でも聞きたいことがあるんだ」
「俺は機嫌が悪りィんだ。手っ取り早く済ませろよ」
「ハレルヤに魔法使いの知り合いっていたっけ?」

重苦しい沈黙が周囲を包む

「…いねぇよ」

タチの悪いチンピラのように答えると、ハレルヤはそっぽを向いてしまいました

ハレルヤの態度の悪さにティエリアはキレそうになりますが、今はグッと堪(こら)えます

健気でちょっぴりドジなシンデレラのことを、家族内で一番可愛がっていた義姉のティエリアの手には、うっすらと汗が滲んでいました

「くっ…シンデレラ! 無事でいてくれ」




ティエリアが唇を噛み締め心配してるその頃…

魔法使い刹那とシンデレラは、市街地にある一時間限定でイタリアン食べ放題のバイキングに来ていました

「前からここ来たかったのよね。私が読んでる雑誌に紹介されてたのよ!」

マリナは、持ってきた数々のドルチェを美味しそうに口に運ぶ

「まあここのイタリアン…特にスパゲティーとピザは絶品だからな」

「意外とイケる口ね、刹那」

チーズハンバーグを頬張る刹那は、よく咀嚼(そしゃく)しながらマリナの問いに応じました

「シンデレラほどではない。俺が毎日鮭茶漬け派なだけだ」

どうやら食べ物の考え方に対しては庶民的なようです




「ねえ? ハレルヤ」

「んだよ、アレルヤ」

切り株に座りながら、暇を持て余すかのよう、ハレルヤに話しかけます

「本当は知ってるんじゃないの? シンデレラの居場所」

「知らねぇって言ってんだろーが!」

二人が心の中で口煩(うるさ)く口論している間にも、ティエリアは実家にいる母や義姉に通信機で連絡をとっています

「口止め料いくら貰ったの?」

「アイツには借りがあったんでな。黙っときゃ今回でチャラだ」

ハレルヤが得意げに話すものだから、疑問に思ったアレルヤは“借り”の詳細を聞き出そうとします

「その借りって、何の借り?」

「何でもいいだろうがっ! もう話かけんな!!」

アレルヤがあまりにしつこく聞いてくるので、彼のもうひとつの人格、ハレルヤはキレて引っ込んでしまいます

「どうした?」

「ううん。別に、何でもないよ」

ただでさえ融通の効かない生真面目なティエリアに、バレようものなら八つ裂きにされているところでした

(××して、××されてるところを刹那が助けて、事の真相がバレちゃったんだね。××で××なんかしちゃったから。そうでしょ?ハレルヤ)

××の部分は所謂(いわゆる)禁句用語、なので容易には出せないので伏(ふ)せている

(ハレルヤったら……ピーで僕のこと思い浮かべながら、ピーでピーをやっていたんだね)

業界内では暗黙の了解となっているので、やむを得ず話す時は、健全に話を進める為、ピーと音声を入れさせて頂く

(そこに邪魔が入ってピーなことやピーなことをさせられた)

羞恥心と屈辱感に苛(さいな)まれ、ハレルヤの目尻に一粒の涙が浮かんだ

(恥ずかしがってないで答えてよ。ハレルヤ)

「死んでも言うか」と無言を貫く

そんなハレルヤの頑(かたく)なな態度に、溜め息のひとつもつきたくなると感じたアレルヤであった

とにかくシンデレラの身柄の安全は決まったも同然

何せ相手があの敏腕魔法使いなのだから




その後二人で、クリスタルで出来た森やうさぎのお茶会に誘われて、月へ行ったそうです

お茶会でうさぎ達との談笑を楽しんだ後、ピクチャーランドに赴(おもむ)き、大きな色鉛筆で落書きしたり、ペンキで七色に輝く虹を作ったりし、芸術を心行くまで楽しむ二人

今までにない心地よい疲労感を味わったマリナは、天蓋つきのベッドで刹那と一緒に寝転がる

「刹那、もう帰らないと…」

「まだ帰さない」

マリナは白のワンピース、刹那はストライプの入った青いパジャマを着ていた

「でも…っ! ティエリアお姉様が」

「大丈夫だ。俺を誰だと思ってる」

ティエリアの心配を余所に二人だけの世界に浸(ひた)っていたそうな



惑星の詩篇



(あした地球が死んだらワルツを踊ろか)








この後、二人は激怒したティエリアにこっぴどく叱られます(笑)

ティエリアとマリナさんの組み合わせも好き

童話パロはギャグテイストを混ぜながらお送りしていきます








お題拝借、闇に溶けた黒猫・9円ラフォーレ様



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