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血濡られた強欲




居酒屋の店内は、酔った客の声で騒がしく活気に満ちている

周りのざわめきを特に気にせず、刹那は無表情のまま、酒とつまみに目をやった

酒を飲み干し、静かに音を起てて猪口(ちょこ)を置く

口内に酒の後味が残り、苦味が走る

(不味い…。最近は何を飲んでも血の味しかしない)

店内への入口である戸が開く

すると、バカ騒ぎをしていた店内の男全員が、そちらに目を向け、その美貌に息を呑んだ

漆黒の髪をひとつにまとめ、白の小袖の上には紫の肩かけ(ショール)をしている女性だった

「いらっしゃいまし。何にします?」

「冷酒(ひや)を一杯、頂戴します」

その女性は落ち着いた様子で、刹那の真後ろに座り、冷酒を頼んだ



刹那が酒を嗜(たしな)むようになったのは半年前…

確か左頬に傷をつけられた頃

刹那は酒を美味いと感じたことは一度もなかった

マリナは猪口を両手で持ち上げ、そのまま口に運び冷酒を堪能する

「オイ」

「ああ」

二人組のガラの悪そうな男が席から立ち上がり、マリナに酌(しゃく)を要求し始める

「俺らは会津藩預かりのキンノーの志士!」

「日夜お前ら下々(しもじも)の者共のために命をはっておる」

「そのお礼にようく相手するのは至極当然のことだろ!」

周りの客が野次(ヤジ)をいれる

「会津藩は幕府側だ。バァカ」

「何か言ったか!!」

怒って剣を抜こうとする二人組の男

野次が収まり、店内は恐怖で静まり返る

「それでいい。余計な口出しは無用」

「命拾いしたな」

「確かに命拾いだな。抜き切っていたなら俺が相手をしていたところだ」

男が刀を抜ききろうとする前に、刹那は右手で鍔(つば)を持ち、動かせないよう完全に止める

「!!」

力量の差があり過ぎる、緊迫感と威圧感を前に微動すら出来ない

「ひとつ忠告してやる。動乱はまだまだ激化する」

「…………」

「この先の京都にお前等似非(エセ)志士が生きる場はない。命が惜しくば早々と田舎にでもひきあげることだ」

刹那が介入したら一気に形勢が逆転

「そうだそうだ!」

「まがいものは京都から失せろ!!」

周りの客からの野次が激しさを増し、さらに酷くブーイングをかました

「くそが!」

公衆の面前で恥をかかされ、居場所が無くなった男達は、そのまま店を出て行った

「騒がせたな」

「あ…ま、毎度」

小銭を投げ置き、刹那はその場を後にした

「やるわ!あの若いの」

「正義の志士ってカンジやろ!」

猪口を持ったまま、マリナは刹那が立ち去った方角を静かに見つめていた



血の味の酒が一段と不味くなった……

夜の魔都を歩き、小萩屋へと急ぐ刹那

(以前はあんな雑魚に気分をイラつかせることなんてなかったのに…)

「ぎゃああああっ!!」

悍(おぞ)ましい悲鳴が響き渡り、道端に血風が吹き荒(すさ)ぶ

「人斬り抜刀斎だな」

「何のことだ…」

「トボけても調べはついてる。ついてるからこそこうして待ち伏(ぶ)せた」

鎖に取り付けた太刀を投げつけ仕留めようとする

「御(お)命頂戴!!」

刹那はすかさず抜刀し、鎖を弾く

(幕府の手の者!)

太刀が地面に突き刺さる

(しかもまともな侍ではない。自分と同様――)

敵の放った鎖が刹那の体全体へと巻きつき、身動きがとれないようにしようとする

(歴史の表に決して出ることのない、影の刺客!!)

「おぉおお!」

刹那は地面に突き刺さっている太刀を引き抜き、左手で柄を掴み握りしめると、そのまま敵の胴体を勢いよく切り裂いた

刹那の周りに血飛沫が飛び散る

カラン…コロン…

後ろから下駄の足音が聞こえ、ある人物が刹那に近づいて来た

(見られた…………)

ドクン、ドクン

(先程の居酒屋の女…………)

刹那は心臓の鼓動が高ぶっていくのを感じ、動揺を隠せず戸惑う

(まだ抜刀斎の存在を世に知られる訳にはいかない…!)

持っていた刀の柄を握りしめ、「選択の余地はない」と、葛藤していたら

「先程のお礼をと思い追って参りました」

何事もなかったかのように、淡々と刹那に話しかけるマリナ

「よく惨劇の場を“血の雨が降る”と表しますけど………」

刹那は思わず後ろが気になり振り向いてしまう

人斬りの意味を見失った、暗殺者の眼(まなこ)に写っていた光景は

「あなたは本当に、血の雨を降らすのですね…」

血の雨を浴び、赤に濡れたマリナの姿だった――



血濡られた強欲



(そうして世界のとばりは開ける)








抜巴パロの刹マリです

個人的にマリナさんは和風が似合いと思います

巴さんコスのマリナさんは、さらに綺麗になると信じて疑いません!

抜巴の雰囲気と刹マリの雰囲気って似てると思いません?










お題拝借、9円ラフォーレ様



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