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月夜のフィナーレ、君はいない




俺は愚かだ

あの時の不安げな眼差しに、なぜ気づいてあげられなかったんだろう




「ねえ、ティエリア」

「なんだ?」

久しぶりにクリスティナの部屋に来た

白い豆腐のようなベッドに隣り合わせで座り、他愛のない話をする

「もし私が死んだら、ティエリアは悲しんでくれる?」

「…なぜそんなことを聞く」

「だ・か・ら!もしもの話。可能性は否定出来ないでしょ」

「……悲しい」

ティエリアは、隣に座っているクリスティナにも聞き取れないほどの小声で囁く

「も、もう一回言って!」

「さっき言っただろう」

「聞こえなかった!ハイ、もう一度」

クリスティナが「お願い」と、両手を合わせてティエリアにせがんだ

「これきりだからな」

「うんっ!」

「お、おお…俺は………っ」

ティエリアを横目でちらりと窺(うかが)う

「君が死ぬと……とても、とても悲しい」

「ティエリアッ!」

クリスティナは嘘のないティエリアの本心を聞き、飛びきりの笑顔を振りまく

「ありがとうティエリア、すっごく嬉しい!」

「……不安がらせるのは良くないからな」

照れ臭そうに目をこすっているティエリア

「ティエリアも、死んだり…しないでね」

ティエリアは俯(うつむ)くクリスティナの顔を見、彼女はふいに顔を上げる

「ティエリアのいない世界なんて……嫌」

クリスティナの叫びは縋(すが)るような響きをも滲(にじ)ませる

「クリスティナ……!」

ティエリアは呻(うめ)きながら、なおも強く彼女をかき抱(いだ)く

クリスティナもティエリアの体に手を回し、その手に切実な力がこもる

「君は死なない」

「えっ…?」

ティエリアは決意を込めて、低く言った

「なぜなら俺が守るからだ」

胸がぎゅっと締めつけられる

「ティエリア……」

クリスティナはぼうっとしたような顔で、驚いたようにティエリアを見上げた

「私、やっとわかった。ティエリアのこと…好き以上に愛してる」

「俺も。やっと、自分自身の気持ちに……気づけたような、気がする」




その時ヴァーチェは国連軍のMS部隊と交戦中だった

「お願い……世界を……変えて」

ティエリアの耳には、聞き慣れたクリスティナの悲しく、掠(かす)れた叫び声が聞こえたような気がした




俺は生き延びていた

ヴァーチェの損壊は酷かったが、何とか太陽炉を守ることが出来た

だが、今ティエリアが一番知りたかったのは、愛を誓ったクリスティナの安否

ただ、その一途な心だけが、ティエリアの思念を支配している

刹那・F・セイエイからの報告に、ティエリアの背筋に戦慄が走った

リヒテンダール・ツエーリ及び、クリスティナ・シエラ戦死

――死んだ……?

ティエリアの口から皺(しわ)がれた囁きが漏れる

「彼…女……が…死んだ……?!嘘だ……」

あの時、俺が、聞いた声は

「ク……リス……ティナ………」

呆然と座り込むティエリアに、刹那はかける言葉が見つからなかった

目の前の現実を受け入れられず、苦い味が胃の中から込み上げ、ティエリアは引き攣(つ)るように喉を鳴らす

からからに乾いた口で、何度も唾を飲み込んだが、込み上げる苦味は少しも消えない

手足ががくがくと震えていることに、今になって気づく

ティエリアの両目から涙が零れ落ち、そのまま疼(うず)くまって泣きじゃくった

「俺は……また……!」

守れなかった

「守ると……言ったのに……っ!!」

守ると約束した、たった1人の大切な女性(ひと)を守れなかった

俺はクリスティナ・シエラの恋人失格だ



月夜のフィナーレ、君はいない



(あの涙を忘れてはならない)









お題拝借、ニルバーナ様



あきゅろす。
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