もう僕の為に傷つかないで
※本編沿い、大人ステラ設定
シンのそばにいてあげられず苦しむステラ
憎しみで造られたすべてを愛せる手をください
愛情に飢えていた
当たり前のことが当たり前のように出来ない
大好きな人にありがとうと言えるのが本当に幸せだった
シン
こんな私で……
ごめんね
風はないが、雪が舞い降りるほどに冷え込んだ夜だ
じっと立っているだけでも足の爪先から冷気が沁(し)み込んでくる
瞬間、ステラの表情が微妙に動いた
シンを見つめ返す瞳が光を帯びる
愛する者を失うということの哀しみを、この時に初めて実感した
あの世に行ってしまったという事実を認めるのに、長い時間を要した
人間が人間を愛するということは、そういうことだと思うのよ
しかし、ね……
その一方で残酷な生き物として神がこしらえているというのもまた事実だ
他の動物にはない、心、というものを授けてもらいながら、その心っていうやつは、時間の洗礼を受けると、その時にはどんなに哀しい出来事であっても、やがてはその哀しみすらも薄れさせていってしまう
もっとも、そうならなければ、人間は抱える心の重みで潰されてしまうのでしょうね……
だから、時の流れに逆らうようにして一生忘れずにいるためには、人間には形という物も絶対に大切なのよ
それはステラの理屈だろう。俺は忘れないよ。たとえどんなに時間の洗礼を受けようとも
青ざめたシンの顔の中の唇は紫色に変色していた
微かに震えてもいる
しかしステラの目には、それが寒さのためだけであるようには見えなかった
すぐにでも背を向けそうなシンの物言いに、ステラは苦笑する
残酷だが教えねばならない
シンが身震いをした
寂しく孤独で、まさに揺らぐ灯心のような心境――
それを思うとステラの胸は暗澹(あんたん)たる気持ちでいっぱいになった
「」
シンの奥歯を鳴らす音が今度ははっきりとステラの耳には聞こえた
唇の震えは一層激しさを増していた
喉ぼとけをごくりと動かし、シンが言った
「ステラの言ってることは、まるで謎解きの推理小説の世界のように聞こえる」
二人は祝福されなかった
意味の無い言葉の羅列で君の不安が消え去るというのなら、僕は喉が枯れるまで大丈夫だと囁いてあげよう。もう大丈夫だと、誰も居なくならない、と。君の気が済むまで囁いてあげよう。
お題拝借、虫喰い・ニルバーナ様
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