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結局失ってばかり


※大人ステラ設定で本編沿い、最初で最後のラストクリスマス










それは嘘が煌めく夜の話――




クリスマス

今まで聞いたことのない単語だった

シンが教えてくれるまでは

なんでもイエス・キリストと言う人物の誕生日を祝う、れっきとした宗教行事らしい

その宗教行事がいまやお祭り騒ぎになっている

キリストの誕生日を祝う日が何故祭りとして恒例化してるのか、ステラにはよく理解出来なかった

そして、ステラを横切っていく恋人達の人数が異様に多いのにも

恋人達や子供連れの夫婦の幸せそうな光景に、自然と笑みを零す

そんな疑問はどうでもよくなってしまったから

連合軍の駐屯地を抜け出し、シンと会うのを楽しみにしていた

アーモリーワンで出会い、剣を交えたのも知らぬままディオキアの海で再会

二人はすぐに溶け込んだ

シンはステラを理解してくれ、ステラもシンを理解しようと努力した

ステラを見つめるつぶらな瞳の奥には、真っ赤に燃える意志を秘めている

コーディネーターは危険因子とラボ(研究所)で散々教えられていたが、その考えが根底から覆(くつがえ)った

ちょっと生意気なところもあるけど、本当はまっすぐで優しい16歳の少年

子供ようなところもあるけれどそれすら長所に見える

強化人間(エクステンデッド)である私とコーディネーターの彼

敵同士だと言うのに恋に落ちてしまった

アーモリーワンのショッピングモールもクリスマス一色で、赤と青のイルミネーションが華やかな色彩を粧(よそお)う

冬の凍えるような寒さにステラは震える

彼とこうして会えるのもあと僅(わず)か

私達は軍人

戦うことでしか生きられない憐れな生き物

身勝手な戦争は激しさを増す

当たり前のようにあった日常すら歪ませる

無自覚の悪意が広がると世界中をも巻き込んでしまう

いっそこの世の現実と言われる世界が、人間が勝手に作り出した幻想ならいいのに、と自嘲し嗤(わら)う




ふとそんなことを考えてると、耳によく馴染んだ声が聞こえたような気がした

「ステラ」

一瞬目を疑う

ステラの目の前に、定番の白と赤のサンタの服装をしたシンが立っている

イルミネーションが輝くモミの木のツリーの前で、二人は落ち合う約束をしていた

「ごめん、遅れちゃって」

約束の七時を過ぎてもなかなか来ないシンをステラは心配していた

「シ……シン。その…格好…」

よく見ると二匹のトナカイがソリを引っ張り、荷台にはプレゼントを入れた白い袋が入っている

「ああ、ステラを驚かせようと思って」

茶目っ気のあるサンタクロースの手を取りソリへと乗る

「じゃあ行くよ」

今までに感じたことのない高揚感がステラを襲う

「あっ…!うん」

シンの掛け声で二匹のトナカイが一斉に地を蹴り、夜空へと舞い上がった

「…嘘」

街の照明が遥か下方に見え、思わずステラは身を乗り出す

「空、飛んでる…!!」

お伽話の世界に入り込んだかのような、夢の舞台

どこからか星々を連想させるシンセサイザーの音も聞こえてくる

神秘的とはこういう表現の時に使われる単語なのだろうか

まるで百万個のライトを散りばめ、複雑に変化する華麗な光が目の前に広がる

「すごい綺麗だろ」
「ええ…」

感情の抑えが効かず、堪らなくなったステラは自然とシンの腕に寄り添う

「スッ…!ステラ!」

涙ぐんだステラがシンに甘えてきたので慌てふためく

「どうして泣きそうなんだよ?」

ソリを一時的に止め、何故彼女が泣き出しそうなのか、理由(わけ)が分からず困惑気味のシン

濁(にご)りのない菫色の瞳を切なげに揺らし、泣きそうな顔のステラの言葉を待つ

「シン………これ、私の為に?」
「そうだよ、ステラが喜ぶかと思って」

きょとんと首を傾げるシンの姿に、愛情を掻き立てられステラはシンに熱いキスを送る

「ありがとう」

久しぶりに見たステラの朗(ほが)らかな笑顔に、心身共に癒された

「どっ、どういひゃひまひて…」

突然の不意打ちによく呂律が回らない

そのまま数時間ほど、二人きりで夜空の散策を楽しんだ




まばゆい光でアーモリーワンを埋めつくす幻想的な雰囲気に、普段は無表情のステラも息を飲む

「そういえば…」

疑問に思っていることを柔らかな表情で告げる

「子供達にプレゼントを配らなくてもいいの?赤い目のサンタさん」

半分真面目、半分冗談を含んだような口調で聞いてみる

「いいんだよ」
「どうして?」

意表を衝(つ)かれたかのような顔つきでサンタクロースの表情に見入る

「俺がステラ専属のサンタクロースだからさ」

当たり前のように毅然(きぜん)として微笑んだ

「そう、ならその必要はないわね」

知らぬ間に緩んでた頬、ステラはさりげなく喜色を浮かべる

「それに……」

さっきのお返しと言わんばかりにキスをしてきた

歯列をなぞり、舌を絡ませステラの口腔を犯してくる

「…っ……ん、んんっ…!」

息も絶え絶えと言うところでやっと唇を離してくれ、ステラの口から荒い吐息が漏れた

「可愛いな。ステラは」

目を潤(うる)ませ体を捩(ねじ)るステラをシンは愛しげに見つめ、自分の胸に抱き寄せる

「恋人はサンタクロースっていうのもいいんじゃないかと思って」

急に羞恥心が込み上げてきたのか、ステラは真っ赤に蒸気した頬を隠したくてシンの胸に顔を埋めた

「馬鹿…」
「そりゃないよ。ステラ」

ステラの目からつっと涙が伝い落ち、小さな円形の無色透明な染みを作る

「でも……好き。シンが、どうしようもなく」

シンの胸に身を寄せ、背中を縮めてるステラからぽつりと漏れた言葉

「俺も」

胸につかえた塊(かたまり)を融(と)かしていく

上着の上から彼女を抱いているのに、温かな肌の感触が伝わってくるような気がした

「ステラと……離れたくなんかない。ずっと、そばにいたいっ!」

たったひとつ触れてきたぬくもりを、シンはもう奪われたくはなかった

ザフトのエリートパイロットとして気を張っているが、ステラといる時だけはその表情に脆さが覗く

まるで蟻地獄の巣の中へ落ち込んだみたいだ

目覚めよう目覚めようと悪夢の中でもがいてる

いつか俺達は、この醜(みにく)い悪夢から這い上がれるのだろうか







一生離しはしないと決めたその瞬間に、離別はもう止まらないものとなった



彼女は彼の腕中で死を遂げた

激情がその身を焦がす



救いを求めるように見回した世界には、君の姿がもうなくて



結局失ってばかり



(切なきは夜空の叫び。横たわる君も救えないのか。嗚呼、僕の右手は霞むばかり)



















ラブラブかと思いきや結局悲恋になってます

クリスマスなのにね…

本編沿いなので勘弁してやって下さい

今更だとは思うのですが本編でも自分の存在に葛藤するステラが見てたかった

大人ステラ設定のステラは自分の弱さをシンだけには見せてます

精神的にしっかりしてるようで実は意外と脆いんですよ

まあ、どんなステラであろうと愛しいのには変わりないんですけどね

















お題拝借、虫喰い・9円ラフォーレ様


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