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君を護れるだけの力を下さい


※大人ステラ設定のシンステ








ステラが連合の強化人間(エクステンデッド)だと言うことを知ったのは、ほんの数時間前だった――

床に転がる死体

ずらりと並べられた脳の標本

ガラスビンの中に浮かんでいた子供の体

研究員達の死体は無惨に切り裂かれ、尖(とが)らせた鉄パイプ数本で、壁に磔(はりつけ)にされたものさえあった

通路を歩く間にも漂っていた異臭が、シンの嗅覚に暴力的に襲いかかる

「何なんだよ……これはぁ!?」

血と……腐っていく肉の強烈な匂いに、シンはくぐもった声を漏らす

驚愕で足が竦(すく)み、動きたくても動けなかった

ロドニアの研究所(ラボ)

今思い出しても背筋が凍りつくほどの悍(おぞ)ましさ

悪夢のような博物館――

(本当に、ステラが……ここに…)

シンはやり切れない思いを胸に抱きながら、口に溜まった苦虫を噛み締める

神妙な面持ちで医務室に入るシン

拘束具でベッドに縛りつけられたステラ

青白い顔してぐったりと眠る彼女にそぐわない

細い手足を縛(いまし)めている革製のベルト

その姿がシンの目には痛々しく映った

「ステラ」

シンの声に反応しステラの瞼(まぶた)が動く

少女の長い睫毛(まつげ)が震え、やがて上下する

現れた菫(すみれ)色の瞳が、目の前で自分を見つめるシンに向けられた

「シン…来てくれたの?」

枕元に身を寄せるシンに、ステラは彼の顔を見上げ呟いた

「うん……来たよ」

彼女にいらぬ不安を抱かせないよう、出来るだけ優しく微笑みかける

勤務を終え休憩時間に入ると、ステラが気になって仕方がないシンは毎日医務室に直行していた

日に日にやせ細っていくステラ

泣きだしそうな気持ちを抑え、ステラの頬に触れる

指先に感じる優しい温度

なぜ、彼女がこんな目に遭わなければならないのだろう

一度頭をもたげた迷いは消えず、シンの心の底に冷たいとぐろを巻いてうずくまった

「どうしたの?シン」

シンの心のうちから滲み出る不安や、焦燥を感じ取ったのか

ステラも左手を伸ばし、シンの赤みがかった弾力のある頬に触れようとする

指先がシンの顎(あご)を掠(かす)めた

「うん、ちょっとね…」

釈然としない思いを抱え、冷えきったステラの頬から手を離す

そして、ディオキアの海辺で偶然にも再会し、以前シンが彼女にした時と同じように

彼は両手でステラの手を取り、その感触を確かめるように自分の白い頬に当てた

「前とは……逆ね」

悪戯めいた口調を含ませ微笑むステラに

「そうだね」

心底癒され、シンも柔らかな表情でステラを見つめる

水の感触が、体にふっと蘇り彼の頭を駆け巡る

鼻の奥につんと滲(し)みた海水の味

落ちていく夕日、流木の上で踊る火

燻(くすぶ)っていたシンの心の炎を、仄(ほの)かに灯(とも)す

「何か、あったの?」

あの惨状が瞼に蘇る

そして、あの時受けた未(いま)だに癒えぬ傷痕も

「いや、別に。特にはな」
「嘘」

嘘をつくのが下手なシンの、不可解な挙動を目にする

心が壊死してゆく様を

繕(つくろ)った笑みの哀しさは、切なさと共に極彩色を奏でる

あどけなく目を細めたステラにはすっかり見抜かれていた

「シン、貴方嘘ついてる」
「いっ…いや!本当だって!!」

士官学校(アカデミー)に在籍中の頃から、俺は上官や気に食わない奴とよくぶつかり合った

焦げつくほどの真っ赤な炎を胸の奥底に秘めながら

――前対戦で家族を失った

虚勢を張っていた理由のひとつ

シンの突っかかるような刺々しい態度

勝ち気でふてぶてしい物言い

そこには攻撃性だけが大いに含まれ、柔和の“柔”の欠片もなかった

「アンタには関係ないだろ」

自分の醜い自尊心の塊を、何も知らない他人に土足で覗かれたくはなかった

「何だよ、その態度。エースのくせに軍規違反ばっかしてる問題児に言われたくねぇよな」

跳ね返ってきた何気ない言葉は、シンの傷痕を抉(えぐ)るには十分だった

脆く幼い精神(こころ)を貫き、血汐(しお)に塗(まみ)れた傷口はやけに染みる

表向きは全身拒否しようとても、本心では自然と心許せる存在を求めていたのかもしれない

だが、何もかも無くしてしまったシンは少しでも自分の精神を守ることにこだわった

助けてと言えるわけもなく、泣くのが嫌でシンはわざと棘のある言葉を吐き、張り裂けそうな傷(いた)みに耐える

そうしないと自分の精神を保つことが出来なかった

自分の心を見透かされそうで怖かった

救われたいとは思わない

受け止めてくれる人がいないのも事実

でも、ステラは違う

触らず、障らず、擦り傷をなぞるだけ

心までは病ませない

逆にステラは救いを求める術(すべ)を知らず、誰かの涙を拭(ぬぐ)ってあげることすらできなかった

「相手の命を求めるばかりで与えることが出来ないの」

脆弱な枠組みに捕われ生きる煩(わずら)わしさ

「奪うことしか教えられてないのよ、私は」

あの世とこの世を隔(へだてている向こう岸で泣く、世界の残骸たち

だが、堰(せき)止めたものはいつか溢れ出す

惨(みじ)めなら惨めと勝手に蔑(さげす)めばいい

「泣きそうな顔、してるわ」

不意に霞(かすみ)掛かる視界

ただ誰かに愛してると言ってほしかったんだ、俺は

それに気づけただけでも躓(つまづ)いた価値はある

「大丈夫、大丈夫よ…シン」

突然、瘧(おこり)がかかったかのような震えが全身を襲う

膝の上に涙が落ちるが、泣いているという自覚すらない

目から溢れだし滴(したた)り落ちるそれは、まるで傷口から流れ出る血のように、ひりひりと痛んでシンの力を奪っていく

「ス、テラッ……!」

みっともなく足掻くのは君を守りたいからで、貼りつけてきた虚勢も緩(ゆる)やかに剥がれ落ちてしまう

シンの言葉にもならぬ苦しみが伝わり、ステラの胸を引き裂いた

「我慢しないで。私だけはシンの味方よ」

ステラの温かい声がシンの耳に響く

「例えシンが嫌だって言っても離れないわ」

掠(かす)れて弱々しいな声ながらも真摯な気持ちが耳に届いたのか、涙の溜まった大きな目がステラの顔を映す

それでもいつステラと引き離されるかわからない

生きた強化人間のサンプルは彼女一人しかいない

圧倒的な虚しさが、彼の目を暗く淀(よど)ませる

「シン、覚えてる?」

感傷的で追憶のような呟きを漏らすステラに、胸がざわめく

「え?」

微温湯のような温度を彼女に分け与え、血色のない頬に触れながら静かに耳を傾ける

掌(てのひら)から伝わってくる体温が心地よい

「ディオキアの海で再会した時のこと」

きっと、また会えるわ

彼女はそう言って、人混みで溢れる街中へ風のように去って行った

「…ステラ」
「守ってくれるって……言ったじゃない?」

闇に揺らめく血色の宝珠をステラは目を潤(うる)ませ魅入る

「うん、約束…覚えてるよ。必ず、必ず君を………守るから…!」

出来ることなら君を上手に愛したい

くすぐったいようなこの気持ちに、シンは不思議な感覚に陶酔する

「嬉しい」

花のような微笑みを見せるステラに、シンの憔悴(しょうすい)仕切った心も心底慰められる

「君は俺が守るから」

世界のを形成する均衡は硝子細工のように儚い

息をするにも困難な世界だけど、静寂たる隙間にまだ微かな望みはある

でも、まだ力不足は否(いな)めない

だから――…



君を護れるだけの力を下さい



(無力な自分より憎く、悔しいものはない)

























ステラの前だけでは自分の弱さを晒け出すシンと、それを優しく受け止める大人なステラ

ディオキアで再会した時、本編とは違いスティングとアウルはステラを探し回らず、待ち合わせ場所で待ってる設定です

何故かといえば大人ステラ設定だから

大人ステラ設定のステラはクールでしっかり者のお姉さんです

新連合についても書き足したかったのですが、だいぶ長くなってしまうのでやめました

書くのに数倍気を使うキラフレとは違って、シンステはスラスラ書けます

大切なカプだからこそ為せる技(?)ですね








お題拝借、ハマヒルガオ様


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