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君を助けられない無力な僕




仰(あお)向けに倒れた、ガイアの胸部装甲部分は大きく裂け、隙間からコックピット内部まで見通すことが出来た

シンのモニターの前にガイアのコックピット内がとらえられた

中の人物はぴくりとも動かない

身につけているのはパイロットスーツではなく、制服だ――

シンは慌ててカメラの倍率を切り替える

妙な胸騒ぎがする

眼下に近づきつつある敵機の内部が、彼の前に大きく映し出された

シンは自分の目を疑った

「あの子……」

ほっそりした手足

今にも壊れそうな白い顔
光を照り返す金髪

まさか…

まさか……!

シンの背筋を冷たいものが這い上がる

目にしたものを、心が受け入れることを拒否する

モニターに映し出された、柔らかそうな金髪に、白い肌に

ゆっくりと、どす黒い色が広がっていく―…

「ステラぁぁぁっ!」

シンは絶叫し、足早に機体を駆った

あれは、仕留めようとした敵―――敵!?

ちがう!ステラだ!!

ディオキアで会った

会いに行くと誓った

シンが守ると約束した相手

その彼女がどうして…

なぜあの機体に……どうして?どうして!

――どうして!?

自分がどうやって着陸したかも覚えていなかった

シンは機体の裂け目から身を乗り出し、ガイアのコックピットに座した少女に手を伸ばしていた

破片で傷ついたのか、頭部から流れだした血が、蒼白な顔を彩っている

体の外傷も、相当なダメージを受けているかもしれない

俺はガイアのコックピットから、傷ついたステラを抱き寄せる

「ステラ!……ステラっ!どうして、君がっ…!?」

シンは悲痛な声で叫んだ

その声に、ぐったりとしていた少女の顔が動き、薄く瞼(まぶた)があがるステラは弱々しく咳(せ)き込んだ

「ステラっ……!」

生きてる!

胸が苦しくなる程の焦燥に襲われる

ステラはかすかに呻き、シンの耳元で囁いた

「死……ぬの……ダメ……こわい……」

シンの全身に痺れるような衝撃が走る

死ぬのが怖いと、ステラはあの時も怯えていた

だから、約束したんだ―

「……まも……る」

あの時、自分の口から出た言葉を、ステラのかすれた声が繰り返す

血に濡れた細い手が上がり、必死にシンの袖(そで)にしがみつく

守る

俺が必ず守る――と……

脳裏に失った家族の姿がちらつく

父さん、母さん、マユ――守れなかった大切な人達断ち切られた小さな手が、目の前の手と重なる

……そう、約束した

シンは、ステラの体を抱えたまま走りだす

その先にはシンの「力」、インパルスがそこに在った



インパルスの突然の帰艦に驚いたヴィーノ達が駆け寄ってくる

だがシンの目には、友の顔さえ入らない

「うるさいっ!どけ!」

シンは荒々しく彼等の体を突きのけて走りだす

その腕には、傷ついた少女の体がしっかりと抱えられていた

彼女は浮かされるように呟(つぶや)き続けている

「……死ぬの……だ……め……」

エレベータで上階に上がり、ドアが開ききるのも待たず、シンは飛び出した

ドアの前で待っていた兵士が、突き飛ばされて驚きの声を上げる

「おい、なんだ?」

その、のどかな声が焦るシンの気持ちをさらにささくれ立たせた

ステラが死にかけているのに――

俺の大事な……何より守りたいものが消えかけているのに!

なぜ世界が普通に、いつもと同じように動いているんだ!?

「ま……もる……」

またステラがかすれた声で囁き、シンは胸が押し潰されそうな気分になる

「大丈夫……もう大丈夫だからっ!」

彼は通路を、凄まじい勢いで走り抜けながら、必死に話し掛ける

「君のことはちゃんと……僕がちゃんと守るって……ぼくはっ!」

約束した

守ると

なのに――

その彼女をこんな目に遭わせたのは自分なのだ!

彼は医務室に飛び込み、喚(わめ)く

大声で、治療を急かす

僕では彼女を助けられないから



君を助けられない無力な僕



(先生っ!この子を……早くっ!)




































本編で、ステラだけには「僕」と言っていたので使ってみました


あきゅろす。
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