わかれを、わかれよ(クロウ) 子どもたちに土産を買ってやって、無心にDホイールを飛ばしていると作業着姿の遊星が前方を歩いていた。 「遊星!」 叫ぶものの、遊星は気付いた素振りをみせない。 そんなに小さい声を出したはずねぇんだけど。 首を傾げDホイールを加速させる。 目の前で止めてやればようやく僅かばかりだが遊星は反応した。 「どうしたクロウ」 遊星はいつも通りの反応で、いつも通りだった。 おい、これって、 「…………、」 「クロウ?」 「…………後ろ、乗れよ。送ってやる」 遊星は首を傾げつつもすまないと跨った。 俺は努めて平静になろうとグリップを握りしめ、Dホイールを発進させた。 *********************** 遊星のアジトである地下鉄跡に入ると、そこは変わりようがないほど当たり前の日常が転がっていた。 邪魔するぜ、と一言声をかけ中に入る。 遊星は着替えをするらしく奥に引っ込んでいった。 俺は先ほどの疑念の正体を探るために当たりを見渡す。 そして何気なく入った簡易キッチンに、証拠を見つけた。 ばたばたと踏みならすように歩けば、ちょうど遊星が私服に戻っていた。 「遊星!」 「なんだ、何かあったのか」 何があったなんて、分かりきった事だろう! 裾を握りしめぐっと言い淀む。 「……遊星、お前、認めろよ」 「いきなり何の」 「ジャックはもう死んじまったんだよ!」 部屋に響いた声は、家具を僅かに揺らした。 俺は言ってしまった自分の言葉に瞳が潤んでくるのを感じた。 次喋ったら、泣き出すだろう。 だが俺がここで言うのを止めてしまえば、遊星はダメになってしまうんだろう。 そんな事、絶対にさせたくない。 「………それは知って」 「じゃあ何で食事2人分作ってんだよ!」 先ほどの簡易キッチンには、遊星が食べた皿と、手つかずの料理が一つ置いてあった。 どうみても一緒に暮らしているジャックのものだった。 「なんでっ……何で一番お前が認めてねぇんだよ…!好き合って、またっ2人でって…認めろよ遊星!」 じゃないとどうしようもない。 ジャックが可哀想だ。 あまりにも悲しすぎるだろう。 涙が止まらない。 一緒に鼻水まででてみっともないことこの上ないが、構ってられなかった。 「認めろよ、遊星っ……!」 認めろ、遊星。 認めてやれよ遊星。 じゃなきゃ可哀想だろ。 ジャックも、俺も、 そして遊星、お前もだ。 [*前][次#] |