[携帯モード] [URL送信]

おはなし
珈琲(るじ)
香ばしい匂いがした。
朝とはもう呼べない頃の太陽が差し込み、怠惰な雰囲気に飲み込まれていた俺を、この薫りは卑怯な方法で引きずり出す。

「よぉ、目、醒めた?」

相棒の声とともに、薫りの元が近づいてきた。あ、コーヒー。喉の渇きと空腹感が同時に襲ってくる。枕にうつ伏せていた頭を上げて、起き上がろうとした瞬間、腰に鈍い痛みが走った。

そうだ、昨日、ルパンと寝たんだっけ。


「まだ起きないほうが良いんじゃないの〜?昨日、結構激しかったし」

ルパンの声が頭上から聞こえたが、まだ濁っている俺の脳ミソには届かなかった。昨日……昨日…?ヤったことは事実なんだろうが、どんなだったかなんてちっとも覚えていない。大体、俺は元来血圧は高い方じゃないんだ。
とにかく、喉が渇いていた。
コーヒー、お前のコーヒーが飲みたい。淹れたんだろ?早く渡せよ。おもむろにルパンの持つカップへ手を伸ばすと、にやけ顔で渡された。

「やーっぱり朝は特権だもんね、次元ちゃん」

ずず、と音を立てて待ちわびたものが喉を潤す。
コーヒー、お前のコーヒー。やっぱり味が違うな。まぁいいさ。これも悪くない。

「次元、女と寝た後、ちゃんと朝にコーヒー淹れてる?」

女と?何だ、朝から何を聞くんだコイツは。

「……決めてねぇよそんなの。俺が早く起きれば俺が淹れるし、相手が早けりゃ相手が淹れるだろ」

「………ふーん…」

コーヒーが体に染み込んできて、やっと頭が覚醒しだす。ああ、カフェインは偉大だ。ふ、と一息ついてみると、まだルパンはにやけ顔を直してはいなかった。

「何だよさっきから。朝から締まりのねぇ顔だな」

「いやね、俺、誰かと寝た後の朝は必ずコーヒー淹れてあげんの」
ベッドサイドに腰掛け、ルパンは自分のカップを啜る。

「女とヤってさ、俺のもの沢山女にあげて、俺のでいっぱいにして、最後の仕上げに俺のコーヒー飲ませんの。そんで、頭のてっぺんから爪先まで『ルパン三世』って染み込ませてやるんだ。コーヒー飲み終わって、女が、ああルパン、って色っぽくいうころにはもう、俺はもう知らない街の中。さぁこれで、また俺にハートを盗まれた女の子の出来上がりーって訳」

ニシシ、と独特の下劣な笑みを浮かべ、ルパンは肩を震わせた。

「悪趣味な野郎だ」

「やっぱそう思うー?」

朝から何故そんな話をするのか。寝起きからコイツの下品な笑い声を聞くほど、俺は強靭な神経をしていない。苛立たし気に、俺はまたカップに口を付けた。

「で、何でまた俺にそんな話をするんだ?まさか、そこらの女と同列で話しているんじゃないだろうに」

「まーさか。次元てば妬かない妬かない」

「妬いてねぇよ」

「だからね、俺は同じ女に何度もコーヒー淹れないんだよ。飽きるしな。だけど、お前にはもう何度も淹れてるのなんか可笑しいなーって」

コーヒーはだんだんと温度を失っていく。同時に、カップの底はどんどん近くなる。

「お前くらいさ。底なし沼みたいに、俺のコーヒー何度も飲んで、ケロッとした面してんの。そんな次元見てたら、なんか俺も可笑しくなってきて、こうやってコーヒー淹れてやんの癖になってくるなーって話。おっかしくって」

「当たり前だろ」

何だか馬鹿馬鹿しくなって、俺は早々に腰を上げようとした。

「俺、男だし」

「そーかなぁ」

「そーだよ」

「それに、毎日コーヒー淹れてるような口振りすんな。毎朝寝坊して、俺にコーヒー淹れてもらってる奴はどこのどいつだよ」

「えー、だって、次元のコーヒーも飲みたいもーん」

ハイハイ、とルパンを軽くあしらって、俺はベッドから起き上がり、服を着た。そろそろ腹の虫が収まらない。

「オイ、朝飯作ってないんだろ?どうせ」

「うん、次元が作るの待ってた」
気遣いがあるのかないのか、全く分からん野郎だ。そんなコイツに甲斐甲斐しく朝飯を作るべくキッチンに立つ俺も相当いかれてる。

「なー次元」

「何だよ」

「俺のコーヒー、好き?」

「…………嫌いじゃねぇよ、俺のが上手いけど」

「素直じゃないねぇ」

「言ってろ」


二人分の空のカップを手に持って、俺はキッチンへ向かった。





初のル次だったりします。

[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!