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「――此処までは一人で?」

「だと思います」

「お前、真面目に答えねぇ叩っ切るぞ」


静かに怒りを露わにする土方。


「大真面目ですよっ! 友達には忘れられて、両親は縁遠くなって……
こんなワケわかんないところに知り合いなんかいませんし!」


自分で言ってしまうと、ひどく虚しくなった。眉間に皺を刻ませた男の顔が、みるみる見えなくなっていく。
みっともないと我慢すればするほど、喉が絞まり情けない声が漏れ出した。


「変な姿(なり)だし気は強ぇし、終いにゃ身寄りもねぇ……
お前は一体なんなんだ」

「こっちが聞きたいですよ」


少し声を荒げた拍子にぽろりと頬を伝う雫。

土方は小さくため息をつくと、諦めたように体制を崩し目を伏せた。


「……これから行く当てはあるのか」


胡坐をかきながら訊ねる声色は、心なしか穏やかになった気がした。


「……ありません」


目をごしごしと擦りながら拗ねたように言う千代。


「――しばらく此処に留まってもらう」

「え……?」


それは思いがけぬ案だった。あれだけ苦だった土方の瞳を見つめ、腹の内を読み取ろうとする。


「お前には訊きてぇことが山ほどある。いつ悪さをするかも分からねぇ。
悪い芽は早ぇうちに摘んどかねぇとな」


堂々と異人の格好をし、なりきっている不思議な女。記憶が曖昧ということも、土方の興味を掻き立てる充分な要因だった。

この女子、探れば探るほど出てくるぞ……と。


「だから私はっ――」



「お茶です」



疑われることなんかしていない、そう主張しようとした刹那。部屋の空気にそぐわぬ何とも呑気な声に意識が傾いた。

少し高めのよくとおる声。忘れるはずがない。

襖の方を振り返り声の主を見やる千代。

目線の先に立つのは若々しく少し小柄な男。――虫をも殺したことがないような優しい顔立ちだ。

男は湯呑みを二つ乗せた盆を慎重に畳に置き、次いで座った。


「土方さん、女の人をさらって来たんですって?」


悪戯っぽく言いながら土方に湯呑みを手渡し、次に千代のほうを向いた。同じく湯呑みを差し出しながらペコリと一礼する。その顔は好奇心に溢れていた。


「――私は沖田惣次郎といいます」

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