13 「――此処までは一人で?」 「だと思います」 「お前、真面目に答えねぇ叩っ切るぞ」 静かに怒りを露わにする土方。 「大真面目ですよっ! 友達には忘れられて、両親は縁遠くなって…… こんなワケわかんないところに知り合いなんかいませんし!」 自分で言ってしまうと、ひどく虚しくなった。眉間に皺を刻ませた男の顔が、みるみる見えなくなっていく。 みっともないと我慢すればするほど、喉が絞まり情けない声が漏れ出した。 「変な姿(なり)だし気は強ぇし、終いにゃ身寄りもねぇ…… お前は一体なんなんだ」 「こっちが聞きたいですよ」 少し声を荒げた拍子にぽろりと頬を伝う雫。 土方は小さくため息をつくと、諦めたように体制を崩し目を伏せた。 「……これから行く当てはあるのか」 胡坐をかきながら訊ねる声色は、心なしか穏やかになった気がした。 「……ありません」 目をごしごしと擦りながら拗ねたように言う千代。 「――しばらく此処に留まってもらう」 「え……?」 それは思いがけぬ案だった。あれだけ苦だった土方の瞳を見つめ、腹の内を読み取ろうとする。 「お前には訊きてぇことが山ほどある。いつ悪さをするかも分からねぇ。 悪い芽は早ぇうちに摘んどかねぇとな」 堂々と異人の格好をし、なりきっている不思議な女。記憶が曖昧ということも、土方の興味を掻き立てる充分な要因だった。 この女子、探れば探るほど出てくるぞ……と。 「だから私はっ――」 「お茶です」 疑われることなんかしていない、そう主張しようとした刹那。部屋の空気にそぐわぬ何とも呑気な声に意識が傾いた。 少し高めのよくとおる声。忘れるはずがない。 襖の方を振り返り声の主を見やる千代。 目線の先に立つのは若々しく少し小柄な男。――虫をも殺したことがないような優しい顔立ちだ。 男は湯呑みを二つ乗せた盆を慎重に畳に置き、次いで座った。 「土方さん、女の人をさらって来たんですって?」 悪戯っぽく言いながら土方に湯呑みを手渡し、次に千代のほうを向いた。同じく湯呑みを差し出しながらペコリと一礼する。その顔は好奇心に溢れていた。 「――私は沖田惣次郎といいます」 [*前へ][次へ#] |