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Respect
城島視点



いつも嬉しそうに尻尾を振りながら俺に構う後輩、杏。


「城島先輩、ジュース買ってきたんで飲んでください!」

頼んでも無いのに杏は俺に飲み物を差し出す。


「城島先輩ッ!マジで尊敬してますッ!!」

キラキラとした目で俺をみる杏。


「城島先輩ッ!」
何かある事に俺の名を呼び、金魚の糞の様に纏わりついてくる後輩の杏。




マジうぜぇ…



尊敬される事に対しては別に嫌では無かったが、必要以上に俺に構う杏が鬱陶しいと思っていた。




…昔は、そう思っていた。



だが、人間には慣れというものが有り、うるさい杏がいる生活が日常となった。


後輩でこんなにも懐くのは杏だけだった。


他の後輩も俺の事を尊敬していると噂は聞いていたが、俺の素行や雰囲気が威圧的だと言う事で自ら近づく後輩がいない中、杏だけは違っていた。

杏は他校の連中には無駄に喧嘩を売るし、生意気な目つきや、態度が悪い様で喧嘩を売られる事も多いと言うが、俺と一緒にいる時の杏は、人懐っこく心底幸せそうな笑顔を見せて、従順で素直だ。

よそ者には全く懐かないが、俺の友達、特に俺に対しては絶対的な信頼を置いているようでかなり懐いている。


その為か…、徐々に俺も杏の事を弟分として可愛がる様になった。


いつしか俺はこのウザイ後輩が傍にいないと何だか物足りなく思うようになっていた。

俺の隣には杏がいて当たり前、そんな関係になっていた。



…杏は俺を尊敬している。

その思いは他人から見てもヒシヒシと伝わってきた。


「城島先輩って本当にカッコイイっす!マジで俺の憧れです!」
お世辞では無くマジで羨望の眼差しで俺を見つめる杏。

同級生や後輩の中には、喧嘩も強く権力も有る俺に媚を売る為かゴマ擦りの様に俺に対して嘘くさいほめ言葉を並べる連中も多い中、杏の言葉だけは素直に響いた。


杏は可愛い後輩。


ただの後輩っていうよりは格が上だ、言うなれば弟分。
そう確信していたはずなのに…いつしか俺は杏の事を後輩や弟分では無く特別な存在として見始めていた。




ある日、街で逆ナンしてきた女とホテルから出てきたとき偶然にも杏がバイクで通りかかった時があった。

杏は俺に気付かずにそのまま通り過ぎたと思っていたが次の日、学校で杏から話しかけられた。


「城島先輩、昨日は挨拶しなくてスミマセンでした。女性と一緒だったのでバイクを止めてまで声を掛けたら流石に邪魔かと思ったんです」


…見ていたのか。

俺にとってあの女はただの処理道具でしかない、どうでもいい物だったが…女とホテルから出てきた俺を見て杏はどう思っただろうかと、少し気になった。


嫉妬したり、傷ついたりしているだろうか。


だが、杏の反応は…

「さすがッ!!城島先輩は凄いっす!あんな美人とヤれるなんて羨ましいです!」

「はぁ?」

俺は思わず低い声で疑問符を漏らした。

今、なんて言った?


「やっぱりカッコイイ城島先輩には…美女が似合いますね!」

明るく言う杏に対してイライラした。


だが、それ以上に何かを勘違いしていた俺は自分自身に対しても腹がたった。


杏は俺を憧れの先輩として“純粋”に尊敬している。

不良などに多く見られる純粋な主従関係で俺に忠誠を尽くしている杏の態度を見て俺は確信した。

いつも、この小さな体格の後輩が従順に俺に従い、キラキラした瞳で俺を見ていたのは、俺と言う人間を尊敬し漢として、先輩として惚れていただけであって、特別な感情は無い。


俺と違って恋愛感情で惚れている訳では…無い。


俺は自己嫌悪に陥った。

杏が俺に恋愛的な意味で惚れていると勘違いをしてしまったのは…、俺に邪な感情が有るからだ。

そう、純粋な気持ちで俺を尊敬している杏に対して俺は杏を…。



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