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ノートに書いた計算式が間違えていた事に気づいた僕は、消しゴムでソレを消しながら思った。
近藤は何故、僕の美しさに惚れない?
僕は間違えなく美しい。黙っていれば綺麗で笑えば可愛い。
正直、女性を含め僕は僕よりも可憐な人間を見た事が無い。
今まで僕を見た老若男女、皆が僕を愛でた。
しかも僕は美しい己の見た目に比例するように人々が好む性格も演じてきた。
全てにおいて愛される存在なのだ。
実際、万人に愛されてきた訳だし・・・。
だから近藤の様な存在が初めてで、僕はどうしたら良いのか自分でも分からない。
シカトするべきか・・・いや、でもはたから見れば僕の態度が悪く映ってしまう。
本来なら関らないのが一番の得策なのだが、僕が話しかけなくても、さっきの様に近藤の方から近付いてくるだろう、そして何も考えていないかの様に僕に暴言を吐く。
クソッ!腹立たしい!
近藤の言っている事が限りなく正解に近いってのも腹立たしい!
何故、本来の僕の性格を見抜けるのだ?
僕は今まで完璧に良い子を演じてきた。
常に笑顔で、周りに優しい言葉をかけては皆の好感を得てきた。
皆、僕の猫被りに騙されたのに何故、近藤には通用しないのだ!
気になって窓際の席の近藤を見ると、近藤は窓ガラスに頭をもたれさせて堂々と居眠りをしていた。
差し込む日の光を浴びてキラキラと輝くオレンジの頭髪が妙に綺麗でムカつく。
---不覚にも、その日は1日中近藤一輝の事について考えていた。
僕は帰宅するなり和服に着替え、自宅に有る弓道場に直行した。
誰もいない弓道場を歩くと僕の着ている馬乗袴の衣擦れの音だけが聞こえる。
もともと、この弓道場は兄の為に増設して作った場所だが僕もたびたび利用する。
弓道だけでなく、母が茶道家の為、茶室も有る。祖母は華道を行い、亡くなった祖父は日本舞踊に通じており、特に雅楽などを行っていた。父は和食教室の講師をしている。
和風一家
そんな家庭環境で育った僕は“和”に対しての教養が有り、礼儀作法や立ち振る舞いまでもが雅で気品が有り、上品で美しい。
これに偽った性格も総合すれば正に僕は心技体で美しい・・・完璧。
…それなのにッ!!
弓を引き、マトを近藤一輝に見立てて矢を放つ。
-トスッ
素晴らしい!見事にど真ん中に命中した!!
-パチパチパチ
誰もいなかったはずの弓道場に響き渡る拍手音に少し驚いて音のする方を見れば兄が入り口付近に立って僕の事を見ていた。
「兄さん」
「見事だ。莉央が一手目で的に当てるとは珍しいな」
「・・・それは言わないでよ兄さん。僕だってちゃんと的を得ることが出来ます」
美しい僕に釣り合う唯一の存在。
高校では卒業するまで生徒会長と弓道部の主将を務め、成績は常に主席、ルックスもさることながら知的で運動能力も高い。
この麗人が僕の自慢の兄。
「莉央、学校はどうだい?」
「兄さんがいた時と何ら変わりは有りません」
「そうか、なら問題ないが…、気をつけなさい」
「気を付ける?」
「私が居なくなった事でお前を守る存在が、あの学校にはいない」
「心配いりません、僕は皆から好かれています。危害を加えるものなどいないよ…だた、やはりと言うべきか兄さんが卒業してからというもの告白される頻度が増えて少し面倒です」
昨年までは学校の権力者でもある兄さんに警戒していたのだろう。兄が卒業した途端、秘めていた想いを僕に打ち明けてくる輩が激増した。
登下校はもちろんの事、休み時間の度に呼び出される。
はっきり言ってウザイ。
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