psychotic
8
-カシャン
ベッドのポールに繋がれていた手錠を外してくれたのだ。
俺は上体を起こして手錠のあった手首を擦りながら龍一を見た
龍一は俺の赤くなった腕を見て辛そうに眉をしかめたが、触れなかった
「俺は雅人を傷付けてばかりだ。・・・今さらこんな事を言っても嘘だと思われるかもしれないけど、雅人がずっと俺だけを見ていれば良いと思う気持ちと、こんど本当に雅人に好きな人が出来たら・・・邪魔をせずに見届けよう・・・と思っていた」
「嘘だ」
龍一が俺から身を引く?ありえない・・・俺は正直な気持ちを言葉にした
「・・・確かに、卑怯な俺は、雅人はもう二度と誰かを愛することなんて出来ない、恋愛に対してトラウマになっていて俺以外の人間には怖くて心を開けない・・・そう確信していた部分も有った。そう仕向けたのは俺自身だから」
・・・ほら、やっぱりね。
「でも・・苦しむ雅人を見るのは予想以上に辛かった。愛する雅人をそれほどまでにも傷付けた存在が俺だって事が悲しかった。だから雅人が次に俺以外の誰かを愛することが出来たときは、その俺がつけた傷の壁を乗り越える事だから・・・今度こそは雅人を俺の呪縛から解放しようと思っていた」
「嘘だ!・・・じゃあ何で淳に・・・あんな・・」
「男だから」
「・・・え?」
「徳永淳が男だから・・・許せなかった」
「・・・な、何で?」
俺は意味が解らなかった
「もともと雅人は異性愛者で女性を愛せても男に対して恋愛感情を抱く人間では無かった」
「・・・・」
「だから子供の時ときからずっと俺は雅人への愛で苦しんでいた。いくら頑張っても雅人からは友達以上には見てもらえない。どんなに雅人が愛しくても胸が焼け焦げるくらい苦しくてもこの想いはずっと胸のうちに秘めておこうと思っていた。片思いでも良い、側にいれるだけで幸せなんだと・・・そう思いこむようにしていた。・・・叶わぬ恋だと」
龍一は泣きそうな笑顔を俺に向けた
その龍一の切なく笑う顔があまりにも美しくて俺の胸が一瞬大きく高鳴った
「だけど雅人への想いは募るばかりで、雅人の口から幸せそうな顔をして彼女の存在を聞いた時に、今まで我慢して抑えていたモノが一気に溢れ出して歯止めが効かなくなった・・・無理やりだったけど、ずっと欲しかった雅人を手に入れた俺は、もう雅人を離すことが出来なくなった。だから最低な事だと解っていたけど雅人を縛る為に写真も撮った・・・何度も犯して無理やり体を開発した・・・雅人が俺で感じてくれるように」
初めて聞く龍一の心内に俺は黙って聞く事しか出来ない
龍一の言葉と共に忌まわしい過去が思い出されるが、龍一の心情を思うと怒る気になれなかった。
子供の時から、あの時まで・・・ずっと龍一は自分の気持に封をして、一人で苦しんでいたんだ。
「男に抱かれるなんて嫌だったろ?」
「それは・・・」
正直、初めて龍一に抱かれた時は気持ち悪かった。同じ男なのに変な事をしてるって・・・挿入された時はプライドがズタボロになったのを覚えている。
精神で嫌がっても快楽に溺れて快感に震える体が憎かった。俺自身が気持ち悪くて汚く思えてしょうがなかった。
俺はずっと龍一に犯された汚された、汚れたと思っていた。
でも龍一の俺への想いは汚れの無い、真っ直ぐな愛で溢れていたんだ。
俺しか愛せない、真っ白で真っ直ぐな不器用な龍一の愛を俺はずっと汚いと思っていたんだ。
俺のほうがよっぽど最低だな
「ゴメン・・・雅人」
そう言った龍一は俺に衣服を手渡した。
「雅人にさっき、嫌いって言われて気付いた」
「?」
そう言って裸だった龍一も衣服を着始める
だから俺も自分の制服に袖を通し始めた。
「俺と居るときはずっと光の無い、意思の無い目をしていた雅人だったけど、さっきの雅人は力強かった。昔の生き生きしていた雅人と同じ顔をしていた。意思の強い雅人だった。・・・大嫌い・・か・・・凄くショックで悔しいけど、やっと本当の雅人が見れた・・俺の好きな雅人の目だった」
俺はボタンをとめる指を止めて龍一を見ると、龍一は辛そうに笑った。
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