☆★STAR★☆
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ついた場所は薄暗い校舎裏の駐輪場だった。
そこには5〜6名程の不良がアスファルトの地面に座りながら円をかいてタバコを吸っていたが杉田君のバイクのモーター音が聞こえたからなのか一斉に立ち上がった。
「杉田さん、おはようございます!」
たむろしていた不良が杉田君に挨拶をしてお辞儀をした。
「おはよ〜皆早起きだねぇ〜」
杉田君はヘルメットを取った後、ポケットからヘアピンを取り出し前髪を止めながら言う。
「歩夢ちゃん、おまたせ」
「ぅあ!!」
バイクスタンドを立てて先に降りた杉田君は後部座席に座っている俺を抱き上げた。
予想もしなかった杉田君の行動に驚いた俺は手に持っていたヘルメットを地面に落としてしまった。
「たぶん歩夢ちゃんがヘルメット取った時だと思うんだけど、風にのってシャンプーの良い香りが漂ってきたんだよねぇ」
俺は俗に言うお姫様ダッコという恥ずかしい格好。
俺を抱きかかえたまま杉田君は俺の髪に鼻先を埋めた。
クンカクンカと俺の髪の匂いを嗅ぐ杉田君が犬に思えて少し滑稽だった。
「やっぱり歩夢ちゃんだ。歩夢ちゃんの匂いと混ざってスッゲー良い香り〜」
何か変態っぽい発言に聞こえてしまうぞ・・・
そして、ゆっくりと地に下ろされた俺は急いでヘルメットを拾って杉田君に渡した。
「ヘルメットを落としちゃって、ごめんね杉田君」
「全然いいよ〜。何百回だって落としちゃって〜、歩夢ちゃんにならそのヘルメットもきっと嬉しいよ」
「いや、意味解りません。そして俺は故意には落としません・・・ってか、バイクから降りるくらい一人で出来るよ!」
馬鹿にしないでくれ!と思ったけど口には出さなかった。
「杉田さんが・・・後部座席に人を乗せている・・・」
「俺も初めて見た」
「信じられない」
「勝手にバイクに触れただけで半殺しになった奴もいるのに・・・」
不良さん達が眼を見開いて俺を見ていることに気付いた。
杉田君は俺が座っていたシートを黒いマニキュアが塗られた指で触りながら
「あぁ、うん!今日からココは歩夢ちゃんの専用シートになったから。今後はバイクに触れるどころか、この歩夢ちゃんの座るシートに触れた奴は半殺しじゃ済まないから覚えておいてね」
笑顔の杉田君が何か恐ろしい事を言っています。
そしてまだ話を続ける杉田君。
「歩夢ちゃんの座ったシートに触れる事。これすなわち歩夢ちゃんのお尻に触る事と同等なり!・・・はい、リピートして!」
「「「「「歩夢ちゃんの〜・・・」」」」」
杉田君の言った事をリピートしだした不良さん達。
ちょっ!何言わせてんのッ!!?何かの宗教みたいだよ!ってか映像がシュールすぎるだろコレ!
これはアレか・・・?杉田君流のギャグなのか?俺笑ったほうがいいのか?悪いけど突っ込めないぞ。
俺は超困惑しながらもその不良さんたちを伺う。
怖えぇ〜・・・
人を何人か殺してそうなガラの悪さだ
あれ?でもこの人たち見たことあるぞ。
確か、俺よりも先輩で3年生だった気がする・・・って事はアレか?後輩である一年生の杉田君に対して敬語を使っているのか・・・。
年功序列の部活生では考えられない事だが、不良界ってのは色々大変なんだなぁ・・・と、考えてしまった。
3年の不良さんたちが俺を訝しげにガン見するのを止めない。
まゆ毛の薄い人、前歯が不自然に欠けた人に髪を染めて耳にはピアスだらけ・・・そんな人たちに一斉に見られると、やはりチキンな俺は怯む訳で、思わず隣にいる杉田君の制服の裾をキュッっと掴み後ろに隠れるような行動を取ってしまった。
怖さゆえの無意識の行動
「歩夢ちゃん・・・」
「あ、ごめん杉田くん。 やっぱり不良さんが怖いって言うか・・・杉田君を盾にしちゃってゴメン」
3年の不良さんたちには聞こえないように小さな声で言った俺は杉田君から離れようとしたら・・・ガバッっと正面から抱きつかれた。
「歩夢ちゃん、その行動・・ヤバイ可愛いッ!怯えた顔で上目遣いで俺に助けを求めた顔とかキュンってした」
「キ、キュン!?」
何の話だ?
「歩夢ちゃんは俺が守るから安心して」
「えっと・・・あの・・」
「ムカつく奴が居たら俺に言って?ボコボコにしてあげるから」
俺が困って視線を泳がすと、3年の皆さんはあからさまに俺から視線をそらし下を向いた。
ひょっとして・・俺にまで怯えてる?ちょっと・・・いや、かなりショックなんですけど!
「いや・・あの・・友達にそんな事させられません」
杉田君よ・・・変な発言は止めてくれ、さりげなく迷惑だ・・と思った矢先に
「そーゆー事なんで、歩夢ちゃんに手ぇ出した奴は俺が直々に死刑にしちゃいます〜と、連絡網よろぴく」
杉田君は俺から離れると不良さん達に向かって言い放った。
連絡網って何だよ!?そんな事をいったい誰に連絡すんの?!
「このガッコで俺と千秋ちゃんに歯向かうアホは居ないから〜。歩夢ちゃんもこいつら見つけたらパシリにでもサンドバッグにでも好きに使って良いからねぇ」
うわぁ〜、この人最低だ
力と権力に物言わせてやりたい放題なんだろうな・・
確かに杉田君とキングはこの学校において天下を取っているけどさ・・・倫理的に良くない事だと思います!
「あの、そんな事言われても困ると言うか・・・出来ればあまり関りたくないかなぁ〜、なんて・・・」
俺は乾いた苦笑いしか出なかった。
関りたく無いし、こんな不良さん達には俺の顔も名前も覚えられたくありません。
「それより、杉田君。そろそろ時間も迫ってきているし教室に向かおうよ」
「んぁ〜?教室ぅ?・・・あぁ、そっか授業があるんだよね!俺、早起きして眠いからココでタバコ吸ったら保健室で寝とくから、歩夢ちゃん行ってきなよ。授業頑張ってね!」
「え?授業でないの?」
「うん。だってダリ〜し?」
「あ、そう・・・」
「うん。あっ!俺の寝込みを襲いに来ても良いよ?夜這いってやつ?・・・昼間だから昼ばい?」
誰か助けて、彼の言っている意味解らないです。
コレもギャグか?男が男を夜這いとかマジありえねぇ〜し。
「遠慮しとくよ。それじゃあ・・・またね」
とりあえず夜這いとやらの誘いを断った俺は杉田君に手を振って背を向けて歩き出した。
今日は怪我をしても何があっても保健室には行かない・・・何となくそう決心した。
杉田君はいったい何しに学校に来たのだろうか・・・出席日数とか単位とか大丈夫なのか?
今日は電車で揉みくちゃになる事が無かったのに疲れたな・・・教室についたら机に伏せてHRが始まるまで休んでおこう・・・と思ったのに・・・
教室についた俺はクラスメイトから囲まれ質問の嵐だった。
クエスチョンの内容は当然の如く、以前のキングの登場やバイクで杉田君と登校した俺を目撃した事とか・・・色々。
このように平凡に暮らしたい俺の日常は、奇抜なお友達によって徐々に非平穏へと侵食されつつあった。
クラスメイトに囲まれながらも俺は適当に受け答え、早く慶斗が登校する事を願っていた。
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