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千秋★初恋呪縛E
それはマキからの手紙だった。
『 ちあきへ
ごめんね。もう、遊べない。
きょうだいの病気が悪くなったよ。
急だけど本島に帰ることになったよ。
もしかしたら本島じゃなくて東京の大きな病院に行くかもしれない。
マキは知らなかったけどお父さんの仕事のツゴウで始めから帰る予定だったみたい。
家に帰ったら荷造りされていたよ。
今、夕方にこの手紙を書いてるけど、今日の夜か明日の朝には島を出るって!
だから、もう会えない。
チアキからもらったシャツのソデが涙でグショグショだよ。
大人になって、また遊べたら子供つくろうね!
バイバイちあき!大好きだよ!!元気でね!!友達だよ!』
汚い字で一生懸命に書かれた手紙を握り締めて俺は呆然と立ち尽くした。
今は昼過ぎ…。
最後に面と向かって“サヨナラ”も言えなかった。
それ所か俺はマキが島のどこに住んでいたのかも知らないし、マキも俺が滞在している別荘を知らない。
何故、マキに俺の居所を教えなかったのか…後悔しかない。
きっとマキは昨日、俺と別れた後、帰宅早々に本州または本島に帰ることを告げられた。
自然と昼過ぎに、この海辺で待ち合わせをする様になっていた俺達が別れたら次に会うのは翌日の昼過ぎになる。
昼過ぎでは、間に合わない。
俺に会う術が無いマキは、必死で手紙に状況を綴り、夜…両親の目を盗んで家を抜け出して…この浜辺に来たんだろう。
「マキ…のバカ。」
兄弟が急変して大変で不安で悲しくて本当はマキだって俺になんか構ってる状況じゃないはずなのに、俺の事を気遣って俺の為に無理して手紙まで残して。
「本当、バカ」
マキの思いやりが詰まった手紙を握り締めた。
暫く放心状態だった俺は、重たい足を動かした。
マキが座っていた木陰を見て、マキがTシャツを干した枝に触れ、マキと石で木に彫った文字をなぞった。
「やだよ、まき」
思い出の木に触れながらマキの姿を思い出していた。
「お別れなんて嫌だ」
昨日まではココにマキがいて、俺の隣に座って…笑顔で下らない話をして…。
「マキ…会いたい…」
マキとの思い出が脳内に駆け巡り俺は砂浜に膝をついた。
立ってはいられなかった。
「あいたいよ、マキ!」
子供の俺は一人、海辺で好きな子との思い出に浸りながら泣く事しか出来なかった。
もう一度、マキと話して、マキに触れて…同じ空間で同じ時間を過ごしたい…
もともとは一人になりたくて見つけた秘密のビーチだった。
だけど、マキの存在を知った後に一人だけになると死ぬほど辛く感じた。
マキ…あいたい。
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− 数年後
名前だけで苗字を聞いてなかった俺はマキを特定する事に手を焼いていた。
せめて苗字が分かれば、あの島で滞在していた住所が調べられたのだが…。
執事達を使って、あの日の船便と航空便の渡航履歴を調べたが、『マキ』と言う名前の女児はいなかったと報告された。
「マキ…どこにいるんだ」
マキは俺の妄想の産物では無いのかとさえ思えた時だった。
ふと見たテレビを見て俺は持っていたティーグラスを床に落とした。
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