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千秋★初恋呪縛B

目覚めたソイツは眠そうに瞼を擦って、とろけそうな瞳で俺をボーー…と見ていたが何も言ってこなかった。



キスに気付いて無い?

明らかに寝ぼけた少女を見て、キスした事がバレて無い事に俺は安堵した。


ってか俺は何故、キスをしたのだろうか・・・?


俺は未だにドキドキしながらソイツを無言で見ていると俺の存在に気付いた少女は、さっきまで俺とキスをしていた薄紅の唇を開いた。


「…君は??」

ソイツはまだ眠そうな瞼を擦りながら問う。


その仕草やまなざしが可愛いのに妙に色っぽく俺は喉を鳴らして唾を飲んだ。


「おっ!俺はチ、千秋ッ…だ!!お前は?」

「マキはねぇ、マキって言うの〜。宜しくネ、千秋」

そう言ってマキと名乗る少女は、まだ眠そうにトロトロした瞳を細め、首を少し傾げて微笑んだ。

初対面の俺に対して人懐っこくて可愛い仕草に見惚れてしまった。

そして、まだ眠気でトロトロとした笑顔のあまりの美しさに俺は口をパクパクさせ何も言えず手で口元を押さえた。


何だコレ?

やけに心臓がドキドキするし、マキから目が離せない。


不思議な感情に戸惑いつつも、普段は無口な俺が饒舌に言葉を発し、マキに積極的に話しかけた。


寝起きに突然現れた俺に警戒する事なく、マキは再び可愛い笑顔を俺に向けた。

確証は無いが人間観察をよくしていた俺は、マキが裏表の無い綺麗な人だと察し、すぐに心を開いてくれる子だと思った。


初対面にも関わらず、マキと一緒の空間は居心地が良くて、気付けば日が暮れるまで浜辺でお話をした。


今まで出会った事が無い程に素直で純真無垢な人間に癒され、一緒にいて初めて楽しいと、もっと一緒にいたいと思える人に出会った。

出会って短時間で、そう思える程に…一瞬で俺はマキに惹かれていた。

凄く楽しくて、ずっと一緒に居たかったが…日没までにマキは家に帰るとの事で、次の日は昼頃にこの浜辺で逢う約束をしてその日はお互いに帰宅した。


別荘に帰ってからも俺はマキの事を思い出しては一人でニコニコしていた。


真輝は自称が“私”では無く、自分の名前をマキと呼ぶ不思議な子供だったが、俺達はその日から友達になった。

…と、いうより俺から一方的に
「友達にしてやる!」宣言をしたのだがマキは性格も態度の悪い俺に対しても天使の様な笑みで頷いた所か可愛すぎる事に手を叩いて「ありがと!千秋♪」とお礼を言ったのだった。


子供ながらに俺はマキを見て「何だこの可愛すぎる生き物は…」と思った。




−翌日

約束の時間よりも早く海辺に出かけた俺はソワソワしながらマキを待つ。

丁度、昼下がり頃にマキは溶け出したチューペットアイスを持って現れた。

右手に持っていた棒状のアイスを俺に差し出した。


「はい千秋にもチューチューあげる」

「…お、おう」

存在は知っていたが食べるのは初めてだった。
マキは俺の隣に座ると海を見ながら手に持ったアイスをガリガリと齧って食べた。

マキを参考に俺もガリガリと齧って食べた。

安っぽい味だが嫌いじゃないと思った。



その日も下らない話をしたり砂浜や植物、ヤドカニ等の海辺の生物を見たり、色々とガキっぽい遊びをしていたら、あっと言うまに時間が過ぎていた。


マキと一緒だと時間が速く流れてしまう。


また、お別れの時間に俺が悲しんでいるとマキは笑顔で俺の手を握った。


「ねぇ千秋!友達の記念を作ろうよ!」

「記念?」

「そ!この石でぇ〜」

マキは握っていた俺の手を離すと木の根元に落ちていた先端が少し尖った石を拾った。


そしてマキはおもむろに先が尖った石を持ち出すと、いつも俺達がお話をする際に木陰にしている木に文字を彫り始めた。


汚くて読みづらい字だけどカタカナで『チ』と彫られていた。


「はい!千秋のチ!って彫ったよ!今度は千秋がマキのマを彫って!」

渡された石でマキの言うとおり、マキの『マ』を『チ』の隣に彫った。


こんな無意味で無駄な作業が凄く楽しかった。






俺は毎日、帰る際にマキに「明日もこのビーチに来て!」と、約束を取り付けていた。

マキは我が侭な俺に懲りることも無く、本当に毎日このビーチに来てくれた。

だから俺とマキは毎日、この秘密のビーチで二人っきりで遊んだり、話をした。


マキはお昼ご飯を家族と食べてから遊びに出る事が多い様で、俺もマキがビーチに来る時間を狙って昼過ぎに出かけるようになった。


マキはどうやら島の住人では無く、もともとは俺と同じく都会育ちらしいが父親の仕事の関係で約一年ココで暮らす事になったらしい。


俺は、もともと一人になりたくてこの海に来ていたが、今となってはマキが海に来れない日なんかは無性に孤独を感じるようになっていた。


まだ子供にも関わらず退屈で色の無い人生だと、面白くない世界だと思っていた俺の価値観はマキによって覆された。

マキと一緒にいると何をしても楽しいし、何もしてなくても楽しくて幸福感を感じた。
ただの風景もキラキラして見えて、世界が綺麗で美しくて退屈しない。

時間が過ぎるのが早過ぎると思えるくらいにマキと一緒の時は、胸が高鳴って全てが楽しい。


マキがいるから‥
マキと会えるのが嬉しくて毎日、秘密基地にしているビーチに通い、会えない日や別れた後、寝る前は毎日マキの事を思う様になり、出会ってまだ間もないけど俺の全てがマキを求める様になっていた。


俺が旅行でこの島にいられるのは本来なら二週間の予定だったが親に無理を言い滞在期間を一ヵ月に伸してもらうくらいだ。

普段、親族には我侭を言わずに冷めた子供だった俺が、ここ数日で同世代の子供の様に笑い、親に我侭を言ったのが嬉しかったのか親族は滞在延長を快く承諾したのだった。


毎日が本当に楽しくて幸せだった。

産まれて初めて心から楽しいと思った。
産まれて初めて心から笑えるようになったと思った。


それほどまでにマキは俺を変えた存在だった。


マキと1分1秒でも一緒にいたい…
俺は7歳で初めて人を好きになり、初めての恋をしていた。



南の島で出会った初恋の相手は本当に天使の様な子だった。








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あきゅろす。
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