☆★STAR★☆
ハゲッ!
このセリフも間違い無いと思う。
俺は苦笑いをしながら顔を上げて、俺の身体を強く抱きしめる男の顔を見た。
「やっぱり加藤」
「むー君♪そうだよ、俺だよ!!」
うわっ!すっごい瞳がキラキラしている・・・。
加藤って顔が無駄に綺麗なだから、本当に全てがキラキラして見えるんだが、何と言うか、毎度の事ながら加藤のテンションに少し引いてしまう。
こんなにイケメンなのに残念だ。
加藤のように綺麗な顔をした男子に間近で見つめられたら普通の女子は発狂するに違いない。
俺がもし女子だったら激しくトキメクのだろうか?
ん〜。
「ところで…加藤。何故俺だと分ったんだ?廊下を曲がった一瞬の間でお互いに顔を確認する事も出来なかっただろうに…」
「え?俺にはムー君がバッチリ見えたよ。って言うか姿を見なくてもムー君の事は分るし俺が間違えるわけが無い。何故なら俺とムー君には運命の赤い糸で繋がってるので、例え奴らの呪いで俺のこの目が朽ちて視力を失い愛するムー君の姿が見えなくても俺にはムー君が分る!!」
…わぁ、凄い。
俺以上に頭がファンタジー!
奴らって誰?
呪いって何だ?何その話。どこのドラクエ??
…しかも、その例え…、中二病患者もビックリな高2に対して俺はここから会話をどう切り替えして良いのか困るZE☆
赤い糸では無く普通に考えたら加藤の動体視力が超人なだけかと思ったのだが、世間の人はどう思うのだろうか。
ってか、加藤の奴、相変わらず俺に身体を密着させてきやがる。
いつ誰が通るとも知れぬ廊下で男である俺を抱きしめながらも、髪に鼻を埋めて頭部にキスをしてくる。
だれか、加藤を止めてくれ。
加藤の背後にいた浜田君に目線を移したが、相手が加藤だから殴る事も、ツッコミを入れる事も出来ずに彼もどうしたら良いのか分らないようで困惑した表情で俺を見ていた。
浜田君のオロオロとした表情が、ちょっと可愛いと思ってしまったが、加藤の舎弟を務める浜田君って苦労が多いだろうなぁ、と思い、少しだけ可哀想にも感じる。
とりあえず、俺は加藤の胸に手を当てて突っぱねる。
「頭が沸いている所すまないが、離してくれ」
「離れたく無いっ!!ムー君可愛いよ、ムー君ッ!」
「ちょっ!こんな所を学校の人に見られたら色んな意味でヤバいんだよ!離れてくれぇーーッ!!」
下校時刻で帰宅した生徒も多いせいか人の気配は無いが、男子に抱きつかれて頭やオデコにキスをされている姿を同じ学校の人に見られたら噂が立ちそうで怖い。
俺は必死で加藤の胸に置いた手を突っぱねるが・・・
「非力な抵抗も可愛い〜。ムー君ったら、どこまで俺の心をキュンキュンさせたら気が済むんだい?可愛すぎてキュン死させるつもり?」
「非力って言うなッ!ってか、さらに強く抱きしめるなー!俺は離せって言ったのに逆に身体を密着させるな!」
加藤の腕から逃れようと必死でもがく俺だが、案の定、無駄な抵抗にしかなっていない。
だが諦めず、加藤の胸に手を当てて思いっきり後ろへ飛ぶ勢いで足に力を入れて踏ん張ってみた。
そしたら
「うわあッ!!?」
俺の身体を拘束していた加藤の腕が急に無くなりマジで後ろへ飛んでしまったが…
−ポスン…
「???」
今度は背中から何かに当たって、後頭部から地面へダイブする事も、衝撃も無かった。
俺が顔を上げると…
「けいと?!」
「…探したぜ、あゆむ」
今まで走っていたのか、体力のある慶斗が珍しく少し息を切らしつつ、加藤の両腕を掴み上げながら、俺を見て吐息混じりに少しだけ微笑んだ後、打って変わって不機嫌さを顔前面に出すと睨む様に加藤を見ていた。
「加藤、お前が今まで歩夢を連れまわしていたのか?」
「さぁ〜、答えてやる義理は無い。」
慶斗の質問に対して加藤は冷めた笑顔で挑発するように慶斗を見た。
それに対して慶斗は気にも止めないで加藤の腕を投げ捨てるように離すと背後から俺を包み込むみたいに抱きこんだ。
それを見た加藤は眉間に皺を寄せた。
「俺とムー君のラブラブな時間に割って入りやがって邪魔者め、どのツラさげてムー君に触れてんだハゲッ!」
全然ハゲて無い慶斗は加藤の言葉が全く気にならないのか完全無視で俺を見た。
「歩夢、抱きつかれる意外、加藤に何か変な事されてないよな?…まぁ、こんな所で、しかも後輩を前にして思い切った事は出来ないか」
「・・・う、うん。」
と、頷いてみたが加藤なら何をするか予測不可能な所がある。
慶斗は俺の頭に顎を乗せて溜息をついた。
「体育の時間から急に姿が見えなくなったから心配した。長時間席を外す時は一言で良いから俺に声を掛けてくれ。」
やっぱり慶斗は俺の事を心配してくれていた。
でも、慶斗って前からこんなに心配性だったかな?
息を切らしていたのも、俺を探していたから…?
少し疑問に思ったが真剣に俺の事を心配してくれる慶斗は思いやりがあって優しくて良い奴だ。
包容力のある慶斗には俺もついつい甘えてしまう。
「心配かけちゃってゴメンな」
俺が慶斗に謝ると、目前の加藤が面白く無さそうな顔で慶斗を見た。
「すげぇ、勘に触る。…ムー君に信頼されてる腹黒ケイト君は今日も偽善者ぶってムー君の保護者気取りですか?なんちゃってママも大変ですね」
「…別に。加藤の腕からは逃れようとしたのに俺には大人しく抱きしめられている歩夢を見て嫉妬した?うざい男のジェラシーは醜いな」
「はぁ?俺は自分にもムー君に対しても素直なだけ。俺は気持ちをストレートに表現して本当の俺でムー君に接してる訳で、お前と違ってキャラ作ってまでムー君の信頼を得たいとは思わ無い。むしろ同情と共に感謝するよ」
「同情と感謝??」
「あぁ、今までムー君の事をザコどもから守ってくれて有難う。そして、結果的には大して役に立たなかったけど御苦労様」
「は?」
「いつもムー君の近くに、傍にいて守れる立場にも関わらず本当に無能だな。守るなら隙間無く徹底してやれよタコ」
妙に怒気の含む加藤の言葉に慶斗は眉を顰めた。
「どういう意味だ?」
「お前には何も教えてやる義理は無い。ってか、ここまで言っても気付かないお前が無能なだけ。」
加藤の言葉に今まで余裕の無表情をしていた慶斗だったが、暫しの沈黙の後…慶斗の目が一瞬泳いだ。
「…嘘だろ?」
「さぁ」
「加藤、お前…冗談でもそんな事を俺に言うな…」
「だからお前はタコなんだよ」
「どうせ負け惜しみの嘘だろ?…歩夢が?…まさか、ありえない…」
俺が何??
加藤の鋭い視線で射抜く様にガンを飛ばされていた慶斗は、目に見えて動揺し始めた。
加藤の瞳を見た後に慶斗は俺を見た。
俺も顔を上げて慶斗を見た。
慶斗の琥珀色の瞳の中心で黒い瞳孔が伸縮して俺の姿を捉える。
「すまん歩夢、ちょっと…俺の鞄も取って来てくれないか?」
「かばん?」
「下校時刻だろ?鞄をとるついでに俺の荷物とって来てくれよ」
「あぁ、うん」
慶斗は腕を広げると俺の身体を離して、背中を優しく撫でるように押した。
不思議に思った俺は振り返った。
「慶斗は?一緒に教室行かないの?」
「ゴメン。歩夢一人で取って来てくれないか?ってか、ぶっちゃけ加藤と話が有るから教室で待っててくれ」
何故か慶斗の動揺もピークに達している気がする。
「ごめんな歩夢。席を外してくれ」
「う、うん。分った」
ただならぬ雰囲気に俺は心配になったが、慶斗のいう事を断れなかった。
加藤と浜田君を横切って廊下を歩き出したが、慶斗同様に浜田君もどこか心が乱れている感じで、俺と加藤、そして慶斗を見ていた。
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