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え?



「君達3人は学生証をおいて速やかに出て行きなさい」


背後から先生の声がした。

恐らく被害者?である少年Aの保護を最優先させる為に加害者の少年達を退出させるという処置をとるのだろう。


・・・ってか、被害少年Aは俺の事だけどね・・・。


その前に彼らは体操着姿で学生証なんか持っていない。

先生も少しだけ冷静になって、その事に気付いたようだった。


「えぇ…と。君達、学年と名前は?」

「……2年の阿部です。」

「…同じく小野沢です…」

「小峰です」


阿部達3人は顔面蒼白ながらも震える声で小さく呟いた。

3人とも聞かれた事だけしか返答していないが普通はクラスや下の名前も言うのが筋だと思うが、状況が状況だけにあまり多くは答えたくないのだろう。

俺も恥ずかしくて情けなくて怖くて、さっきから先生の方を振り向けずに床の上で団子虫の様に蹲っている事しか出来ずにいるのだ。


「2年の阿部に小野沢に小峰だな。お前達の顔は覚えた。後から呼び出すので今は早急に授業へ戻りなさい」


阿部たちはガタガタと膝を震わせて立ち上がると先生の指示通りに部室から退出した。

この状況で一人になってしまった俺は頭の中が真っ白で何も思いつかず、石化したかのように床に横たわったまま動けずにいた。


あぁ、このまま本当に石になって、削れて砂となり、粉末化した後は風に吹かれて埃と共に消え去りたいです。

って、現実逃避をしても俺は死ぬまで人間な訳でこの緊急時から抜け出せない。



あぁ、どうしよう。

どうしようッ!!!


自分の心臓の音だけがやけに大きくバクバクと聞こえた。


さらに追い討ちをかける様に、背後から…コツ…、コツ…と、先生の革靴の音が俺に近寄ってくるのが聞こえた。

俺は恐怖で顔を床に伏せて、おまけに瞼も硬く閉じていた。


「君、大丈夫ですか?」

声がするなり俺の体にファサ…と、布らしきものが掛かったので薄目を開けて自分の体を確認すると、黒いスーツのジャケットだった。

先生が自分のジャケットを俺に被せてくれたのだ。

優しい先生は俺の事を気遣ってくれている様だが、さらに俺は恥ずかしいやら、怖いやら、絶望やらの感情に加えて有り難いなど様々な感情が渦巻いて、兎に角、俺の頭は超パニックで何だか泣けてきた。

もう、どうすれば良いのか…わからない。

ポロポロと涙を流しながら、顔を上げて先生の顔を見た。


「「!?」」

その瞬間、俺も先生も超驚いた顔をしてしまった。


ってか、俺よりも、俺の顔を確認した先生の方が死ぬほど驚き、しかも此の世の終わりと言わんばかりの絶望たる表情をしたのだった。


「あ…あ、あゆ…歩夢くんッ!!!??」

「し、しん、慎太郎さん?!」

そう、先生は先生でも臨時でこの学校の生徒指導をする事になった塚本慎太郎さんだった。

俺は、この場を発見した先生が慎太郎さんと解って何故か安心した。

不思議と先程の緊張は解れたが同時に知っている人ゆえに恥ずかしさは倍増した。

青ざめていた俺は徐々に冷静さを取り戻せそうだったが、逆に真っ青な顔になっていく慎太郎さんは頭を抱えて床に膝をついた。


「ヤバイ。何て事だ…!歩夢君が襲われた…!?歩夢君が!!…やばい、非情にヤバイ!この事が社長に知られたら…やば過ぎます。・・・いや、それよりも歩夢君の心配をするのが先だろうが!」

黒魔術を唱えるかのように一人でブツブツ言っていた慎太郎さんはバッ!と顔を上げると俺を見た。


「歩夢くんッ、大丈夫ですか!?」

「…は、はい…」

慎太郎さんはこの現状を見てガタガタと震えだした。
俺が一番危機的状況である張本人のはずだが、俺以上に顔面蒼白で、現実逃避をしつつある慎太郎さんに圧倒されたのか、こんな恥ずかしく惨めな格好をしている俺のほうが確実に冷静さを取り戻していた。


「あの…慎太郎さんこそ、大丈夫ですか?」

「えッ!!?」

「え?」

俺が声を掛けるとメッチャ大きい声で疑問符を言い、ガバッ!と俺の方を向いたので、俺も驚いて疑問符を復唱しちゃった。



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