▼被写体にもならない
「あ、何にするかもう決めちゃったよ」と答えた方の男は
僕が合流に遅れたことをさして気にしている様子もなく
紙包みの中に1本だけ残った串団子を
「周央のぶん」とのんきに差し出してくる。
問題はもう一人、店の奥から土産を抱えて出てきた女子生徒の方だ。
笑みこそ浮かべていたが完全に怒気を滲ませていた。
瞳が笑っていないと書けば分かるか?
そこで観光客に捕まっていた、と遅刻の理由を告げたが
まるで聞く耳を持ってもらえず
ぐいぐいと店の外へ押し出してくる。
聞いているのか?と訊ねてもまったくの無視だ。
はいこれ持って、と紙袋の中から出した目玉型の提灯と
黒地に黄の縞模様の袖無し羽織りを押し付けられ
何がなんだか分からない内に間抜けな写真を撮られ
「遅刻の罰として研究室のみんなにこの写真を回します」
の捨て台詞がついてきた。
要は晒し者にするということだ。
「だからそこで観光客に捕まっていたと言っているだろう」
と再度不可抗力を示し詫びたものの
その後しばらくは露骨に口を聞いてもらえずにいた。
串団子を黙々と食した。
はあ…そもそも、僕はこの女と参拝道を歩くつもりなど無かったんだ。
学友が惚れ込んでいて「学生最後の思い出に」と誘ったものだから仕方なく応じたが。
……ああ、結局どうやって機嫌を取り戻したかを書いていなかったな。
和菓子だ。
茶店の白い饅頭。
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