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雨の日、ある部屋にて (野猿と幻騎士)

しとしと降っていた雨が急に雨脚を強めた。窓硝子を叩く雨音が部屋に響く。ささくれ立っている神経を乱すような音に不快感が増して眉を顰めて窓の方に目を向ける。窓のそばに置いてある安楽椅子を陣取った野猿が退屈そうにぶらぶらと足を遊ばせていた。腹の上には本棚から勝手に持ち出したらしい本が載っているが、読んでいる気配はない。そもそも野猿の読めるレベルの本がこの部屋にあったかが確かではない。

「退屈ならば早く出ていけ」
「うわー、人でなし!雨凄くなってきてんのにさ。傘持ってきてないから外に出たら確実にびしょ濡れじゃん」
「傘くらい貸してやる。そもそもお前、ボスの所に戻らなくていいのか」
「ボスは朝から白スーツの兄さんとお出かけ中」
「………」
「オイラ今日はフリーなんだけど、お前が書類届けてって言うから」
「…その件については感謝するが、あまり長居をされても迷惑だ」
「…うー」

野猿は不貞腐れたように頬を膨らませ唸り声を上げる。あぁ、これだから子どもは面倒なのだ。生憎俺には子どもを喜ばせるような話をする技術など備わっていない。

「早くγのところにでも行ってしまえ」
「どうして兄貴のとこに行かなきゃいけないのさ」
「あいつのとこに行けばここより楽しいだろう」

言い捨てて傘を探しに隣の部屋に向かうと「そんなことない!」と背後から激しい否定の言葉が帰ってきた。大声に思わず振り返ると椅子から飛び降りた野猿がこちらに駆けてくる。

「オイラはあんたと一緒にいるのも楽しいよ」

野猿は真摯な眼差しで言った後、照れ隠しなのか顔をふいと背けた。恥ずかしがるくらいならば最初から言わなければいいと思う。この子どもはいつだって俺を困惑させる行動ばかりするのだ。

「…幻騎士?」

声掛けでふと我に返る。動揺を悟られまいと踵を返し足早に部屋に向かうと慌てて追ってくる足音がした。慌ただしいそれは親鳥についてまわる雛のようだ。構って遊んでよ側にいてくれなきゃ嫌だ、主張激しいその音に思わず苦笑が漏れる。

「何笑っているんだよ!」
「雨が弱まるまでいればいい。コーヒーなら入れてやる」
「馬鹿にするなよ、コーヒーくらいオイラだって飲めるんだからな」
「なら大人しく座って待っていろ」

突然態度を変えた俺を訝しんだ顔をしながらも嫌味に噛みつくように吠える野猿を軽くあしらいながら準備をしていると「砂糖たくさんいれれば、飲めるはずなんだ」と弱気な呟きを耳は聡く拾った。まったくどうして素直になれないのだろうか、と考えようとして止めた。お互い様だし時間の無駄なのは目に見えている。代わりにココアの買い置きがあっただろうかと棚を探すことにした。


雨の日、ある部屋の中にて


(ジッリョネロ時代。幻騎士と野猿。)



あきゅろす。
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