恋より愛がほしい 10. その人は僕から見ても、一哉先輩とお似合いだろうと思った。 認めたくない..認めたくないけど。 撫でたくなるような、サラサラした綺麗な髪。くせ毛の僕とは大違いで...長い睫毛に、少し切れ長の目で僕を見つめていた。 「あ、あ、」 言葉が出て来ない。覚悟はしていたのに。 「世依〜、誰?」 僕の肩がビクッと大きく揺れた。聴きたくてしかたがなかった声。僕じゃない名前を呼ぶ。 「...一哉先輩」 「君、一哉の知り合い?...一哉!」 「俺?誰だよ」 部屋の奥から聞こえてくる、一哉先輩の声。足音が段々近づいてくる。その音が玄関でピタッと止まった。ゆっくりと顔を上げる。 「会い..たかった...です」 絞り出した声、届きましたか? 一哉先輩の顔を見れば解る。会いたくなかったんですね。 「...愁」 一哉先輩の僕を呼ぶ声。とても懐かしくて、とても嬉しくて、とても...悲しい。 「一哉...誰?」 隣にいたその人は、僕が誰かわからないし、僕もあなたが誰かわからない。 全てを知っているのは...、一哉先輩だけ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |