[携帯モード] [URL送信]

短編駄文
雪が溶ける頃
「雪」の続き。


















春休みになりあれだけ積もっていた雪もとうに姿を消した。

私は相変わらず魅ぃちゃんのことが好きだった。

何かの拍子に思い出してはそっと涙を流して…。

その度に少しずつ強くなった…つもり。

私は少しだけ…妥協していた。

魅ぃちゃんが幸せならそれでいい…って。

けれどまだ私の中には少しだけ雪が積もったままで。

溶けきれていない雪をライターで地道に溶かしていく。

そんな毎日だった。



「あ…レナ。」

春休みに帰郷していた私は偶然、魅ぃちゃんと出会った。

どうやら圭一くんと魅ぃちゃんは結構近いところに通っているから…頻繁に帰郷できているみたい。

私はそんなに近くない。

長期の休みにしか帰ってこれない。

だから…なかなか魅ぃちゃんと会うことも叶わない。

「魅ぃちゃん久しぶりっ!元気だったかなっ?かなっ?」

「…うーん…。」

久々に会った魅ぃちゃんはどこかうかない顔で

「あんまり元気じゃないかも。」

と、珍しく弱音を吐いた。

「…どうかしたの…かな?」

「あー、あはは!…ちょっと…ね。そう言えばレナ、今夜暇なの?」

本当に心配だった。魅ぃちゃんはなかなか弱音を吐かないから…結構落ち込んでるんだと思う。

そんな魅ぃちゃんに急にお誘いを受けたら…私は断れない。

「特に予定は無いかなっ!かなっ!」

「…じゃあさ、レナの家に泊まりに言ってもいい?」

…急。私はそんな覚悟ができていない。

魅ぃちゃんにとっては友達の家に泊まりに行くってだけのことだから…覚悟も何も要らない話だけど。

私にとっては好きな人が泊まりに来るという話になる。

…断るつもりは無いけれど緊張する。

「大丈夫だよ!久しぶりにたくさんお喋りしよ?しよっ?」

お父さんに許可はとっていないけどきっと大丈夫。

久々の帰郷で友人と一夜を明かすくらい…お父さんなら許してくれる。

いざとなれば二人で少しばかりお酌を…。




そんな会話と思考を巡らす一方で私は気になっていた。

…圭一くんが居ない。

冬に見た圭一くんと魅ぃちゃんの仲良しそうな姿がない。

…もしかしたら。

…期待しちゃいけない、不謹慎。

それなのに私はやっぱりどこかで嬉しく思ってしまっていた。

…汚い感情。こんな自分が嫌い。












賑やかな食卓をお父さんも喜んでくれた。

お風呂は…一緒に入りたかったけれど、言えなくて…別々に済ませた。

お菓子とお茶を部屋へ重鎮する。



「あーっ…いいお湯でしたーっ。」

お風呂上がりの魅ぃちゃん。

…綺麗。

だけど私の知らないところで魅ぃちゃんが大人びてしまったのが…なんとなく、悔しい。

「…何見てんのさ。」

そう指摘されて私は初めて自分が魅ぃちゃんに見とれていることを自覚し、咄嗟に目を逸らした。

















暫くは互いの学校でのことや向こうでの友達についてなんかを語り合って笑ったり関心したりした。

楽しく過ごせているみたいで安心した。

それに伴って魅ぃちゃんの"元気が無い"のは日常生活のせいではないのだと察する。
一頻り話し終え、互いに次の話題を探す頃。

私は切り出してみた。

「そういえば魅ぃちゃん…どうして"元気じゃない"のかな…かなっ?」

すると魅ぃちゃんは苦笑いしながら

「…あはははっ、その…圭ちゃんと別れてさ。」

と単刀直入に…包み隠さず答えてくれた。

やっぱり…。

相変わらず安堵し、嬉しく思う自分が醜い。

でも私は…そんなことよりも魅ぃちゃんを自分のものにしたいと…再び恋心を震わせていた。

妥協していたはず。

けれどそれはもう昔の話し。

魅ぃちゃんはもう誰のものでも無い。

じゃあ…私のものにしたい。

醜い考え…かな。

それでも今の私は醜くてもいいから好きな人を抱きしめたいと…願う。

「…ほら、おじさんさ、バカだから…圭ちゃんの気持ちとかちゃんと分かってあげらんなくてさ。おじさんの気持ちも上手く伝えられなかったりで…お互いにギクシャクしちゃって、それで。」

どこか吹っ切れたように、苦笑しながらも語ってくれた魅ぃちゃん。

…私なら…

私なら、魅ぃちゃんに伝えたいことがあるなら伝わるまで愛し続ける。

魅ぃちゃんが伝えたいことがあるならそれをちゃんと分かってあげられるまで愛し続ける。

…私なら。

「魅ぃちゃんは…今も圭一くんのこと、好き?」

「…わかんない。でもどっちかと言うと…辛いかな。」

「…どうしてなのかな…?」

「自分の弱さとかが露骨に見えてさ、私やっぱダメだわーって。」

「…魅ぃちゃんが悪いんじゃないよ。」

「へ?…そんな訳ないじゃん。おじさんが悪いんだよ…」

…あぁ、止まらない。

私は駆け引きに出てしまっている。

魅ぃちゃんの傷につけこむような…そんなやり方をしてまで私は魅ぃちゃんを求めてる。

…止まらない。

ずっと会いたかった。

ずっと好きだった。

ずっと…。





















「レナなら魅ぃちゃんのこと、分かってあげられる。」


















…遂に私は、理性を失った。

「…レナ…?」

「魅ぃちゃんの気持ち…全部受け止めたいの。」

「ちょ、ちょっと待ってレナ…それ…えっと。」

それはおかしな反応じゃない。

友人に愛の告白を受けたのなら…当たり前の反応。

「レナがおかしいのかな…でもね、レナは魅ぃちゃんのことが本当に好き。」

「…えっ、えっ…えっと…」

戸惑うのも無理はない。けれど私はもう妥協しない。

抑えられないのなら全てさらけ出して…魅ぃちゃんに伝えるしか。

「レナ…分かってると思うけど…おじさんこう見えて、女なんだけど…」
「知ってる。」

ほんのり顔を赤らめて照れてくれる魅ぃちゃん。

それが凄く嬉しくて。

胸がどくんどくんと大きく高鳴る。

高揚にも似た…異質な緊張。

「…それでもレナは…おじさんが好きだって言うわけ…?」

「そうだよっ?ダメかな…かなっ?」

なんだか清々しい。ずっと言えなかった言葉を遂に伝えて…開き直ってしまうくらいに私は興奮してる。

「…レナ。」

魅ぃちゃんは暫く考えこんで、徐に切り出す。

「…レナが私の気持ちを分かってくれたって…私がレナの気持ちを分かってあげられないなら…」

…魅ぃちゃんは優しい。

気持ちを分かってあげられないだなんて…そんな気を遣わなくたっていいのに。

魅ぃちゃんは優し過ぎて自分を苦しめてしまう。

「レナは魅ぃちゃんに伝えたいことがあったら、伝わるまで頑張るよ?」

「…それじゃあレナに迷惑かけちゃう…」

…本当に優しい魅ぃちゃんだから…そう言うと思ってた。

けれど私は

「魅ぃちゃんになら迷惑かけられたって大丈夫。…それに大好きな人に分かって貰う為に頑張るのって、迷惑や面倒なんかじゃないと思うかな…かなっ。」

と、思った通りに伝えた。

「…レナ…おじさん、本当にバカだから…」

「魅ぃちゃんがどんなにおバカさんでも大好き。嫌なことなんて1つも無いの。」

























レナの急な告白に…私は動揺と喜びと戸惑いと…混乱に苛まれていた。

レナの言葉の1つ1つが私を安心感と…愛情に応えたいという気持ちで湧き上がらせる。

…レナとなら。

きっと愛し合える。

私はレナを…愛せる。

心から愛せると…思った。

レナとなら本気でぶつかり合って、愛し合って…そうやって生きていけると感じた。

…けれど…友人として愛しているのか、それとも本当に恋をしてしまったのか…いまいち自分でも分からない。

「魅ぃちゃん…レナは…魅ぃちゃんの全部を抱き締めたいの…」

目を潤わせつつ寄るレナの唇。

目を合わせられない…。

気持ちの整理ができていない。

けれど。

私の傷を癒やして。

「甘えさせて…」

「…うん。」

不思議と素直な言葉が出る。

「…愛して…。」

こんなにも…心から愛して欲しいと願ったことがあっただろうか。

圭ちゃんとの恋では味わったことの無い感覚。

…まるで初恋。

レナになら…全てを捧げたっていい。

「連れてって…」

レナの夢に。

レナの世界に。

レナの中に。

連れてって…?

「…おいで。」

…素直になれたことが嬉しい。

私を求めてくれたレナが嬉しい。

友情か恋心かなんて…もうどうだっていい。

こんなにもレナが素敵なのだから。

私を…受け入れて。





























幸せな時間は有限。

だけど…私は命が終わる時まで魅ぃちゃんと幸せな時間を築き上げたい。

漸く手に入れたのだから。

魅ぃちゃんを幸せにする権利を…魅ぃちゃんと時間を過ごす権利を漸く手に入れたのだから。

何が合っても魅ぃちゃんを守り抜く。

何が相手でも…大切な魅ぃちゃんを守り抜いてみせる。

離さないから。

…ずっと…離さない。

魅ぃちゃんの肌にそっと頬を寄せて…目を閉じた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!