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短編駄文
皆垂し

「おはよ!レナ、圭ちゃん!」

「おはよう魅音。今日は一段と可愛いな。」

「圭一くーん?魅ぃちゃんは普段からすっごくかぁいいよぉ?」

…なんだこいつら…!



それがおかしな日々の始まりだった。







―――おかしい。レナも圭ちゃんも私をベタ誉めして…何かを企んでいる筈だ。

「それにしても魅音は髪まで綺麗だよな。」

「髪だけじゃないんだよ?爪も唇も綺麗なんだよ!だよ!」

「あのさー…そろそろ何を企んでるのか話してくれない?」

ホンット気味が悪い。

「何も企んでねぇよ?なぁレナ。」

「そうだよ?レナも圭一くんも思った通りのことを言ってるだけ。」

「魅音を見てると…我慢出来なくて言っちまうんだよな。」

「わかるよ圭一くん!すっごくわかる!」

………暑すぎて頭いかれちゃったのかいー?
朝からこんなのは勘弁して欲しいよ全く。

その後もしつこく私をベタ誉めする二人。そんなこんなで学校に着いた。

「魅音さん、おはようございますですわ!」

「みぃ、おはようなのです。」
「おはよう、沙都子に梨花ちゃん。」

「相変わらずの美しさですわねー…私も将来魅音さんのようになりたいものですわ。」

「みぃー…沙都子は魅ぃには到底及ばないのです。魅ぃに叶う女性はこの世には存在しないのですよ。それは決まっていることなのです。」

「だからさ…」

なんだこいつら!!

「いい加減にしなよ!あんた達ホント何企んでるワケ!?」

「みぃ…怒られちゃったのです…」

「そう…ですわね…私達なんかが魅音さんの事を御誉めするだなんて無礼でしたわね…」

「はぁ!?」

いやさ、ホントにさ!

なんッだこいつら!!

「そうだな…俺達なんかが魅音と一緒に授業を受けられること自体がこの上ないありがたき幸せなのにな。ごめん魅音。」
「あ…いや…おじさんは…」

「レナ達なんかが魅ぃちゃんと対等に話せるだけで凄く嬉しいことなのに…誉めたりなんかしても嬉しくなかったよね。魅ぃちゃんが美しいのは当たり前のことなんだからわざわざ口に出したりして…ごめんなさい。」

事態が把握できない。
様子を見る限りどうやら冗談じゃないらしい。…一体どうなってしまったんだ。
部活メンバーだけじゃない。
クラスの皆が私に挨拶をする度にベタ誉めする。

なんなんだこいつらぁぁ!!





―――授業中や昼休みが滅茶苦茶だった。

昼休みには私の元に皆が集い、好きだ好きだと詰めよってくる。

唯一まともなのは知恵先生だけだった。

私は混乱した。好きだなんて言われたら普段ならときめいて照れてしまうところだがこの異常な事態の中ではそれは少しも無かった。

そして放課後。

部活は勿論無し!

こんな奴らと部活やってたら頭おかしくなっちゃうよ!

「魅音!部活やろうぜ?…俺ん家で。」

「魅ぃちゃーん!今日はレナと宝探しだよねぇー?」

「あら?魅音さんは私と一緒にお買い物に行きますのよ?」

「魅ぃは村の会合で古手神社に来なきゃいけないのです。行きましょう、魅ぃ!」

…助けて。

みんな目がおかしい。
興奮しきっていて…今にも喰らいつかんばかりに…!

「魅音ー!」

「魅ぃちゃぁぁん!」

「魅音さぁぁん!」

「魅ぃぃぃぃッ!」

「う…うわぁぁぁぁッ!?」

四人が一斉に私に飛びかかる!私は間一髪でその全てをかわすとそのまま職員室へ!

「知恵せんせー!たっ…たすけてーッ!!」

「園崎さん!少し具合が悪いみたいですね…保健室に行きましょう!」

「はぁ!?具合悪くなんて無いし…そもそも今日は監督来てないんじゃ…」

「…先生には分かりますよ。…それは恋患い。」

…でた。知恵先生もアウト…!?
どっ…どうすればいい…!?

「それに…入江先生が居なくても私が診ます。まずは保健室に行って園崎さんは服を脱ぎましょう。ほら早く!」

無理矢理私の手を引っ張る知恵先生。

「行かない…!」

「行きましょう…!」

「行かないって…!」

行ったら絶対に…その…よくニュースでやってる「中学校の教師が生徒に性的暴行うんたらかんたら」の被害者になってしまう…!

職員室の入り口で抵抗していると校長先生がやってきた!

…いや…待て。
もしや…

「何事だね!知恵先生、離しなさい。」

…助かった!流石に校長は大丈夫だった!

校長は私の目の前にやってきて鼻の下を伸ばしながら

「魅音君、この後…一緒にコーヒーでも飲みに行かないかね?」

ちっくしょおぉぉぉッ!!

「いっ…嫌ですーッ!!」

職員室の扉には圭ちゃん達が群がっている!

…強行突破しか無い!

「うりゃぁぁぁッ!!」

ラグビー選手に引けを取らないタックルでドアごと圭ちゃん達を吹っ飛ばす!

そしてそのまま階段を駆け下り外へ!


「うぉぉぉ!!待てや魅音ンーッ!!今日は俺の家で野球拳勝負だって約束したじゃねぇーかぁぁ!」

「魅音さーん!!今日は特売日でしてよー!!北条沙都子が園崎魅音さん一名様限りで無料サービスですわー!!」

「ちっ…魅音は私のものよ…!羽入!どうにかなんないの!?」

「魅ぃちゃんお持ち帰り魅ぃちゃんお持ち帰り…はぅーッ!!」

圭ちゃんは下心丸出しだし沙都子は押し売りだし梨花ちゃんはいつの間にか黒くなってるしレナに至ってはもう…とにかく逃げる他無いッ!!

本家だ!本家に逃げよう!そうすれば奴らも追ってはこれまい!

「うぁぁぁぁッ!」

私はドーピングしたオリンピック選手に引けを取らぬ超高速で驀進した。



―――着いたッ!

「おや魅音…おかえり。」

「婆っちゃ!村の皆がおかしいんだよ!私を誉めたり追ったりして…何がなんだか分からないよ!」

「皆魅音に惚れてるんだねぇ…ワシと同じで」

婆っちゃ?何?え、婆っちゃも?

いつもの訛りが無い上にやけに優しい言葉遣いで…私に詰め寄り…!

「魅音…年老いた女は嫌いかねぇ?」

「うわぁぁぁん!」

私は走った。

どこへ行けば良いのかも分からず。

ただ走る。

走れ、魅音。



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あきゅろす。
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