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短編駄文
Blasphemical love
本当にグロ注意。
弱い方ならトラウマレベルかもですので本当に…警告です。
グロに不快感のみしか抱けない方は観覧を御遠慮下さい。
食事直前、直後には絶対読まないで下さい。














幸せな時間は有限だって、誰かが言っていた気がする。

きっとその言葉は正解。どんなに幸せであろうとそれはいつか終わりを告げる。

考えれば当たり前のことだった。…だけど、終わることを前提にして幸せな時間を過ごす人間はあまり、居ない。

そう、私もそうだった。





―――「ごめんね、今日はレナ…調子が悪いの。」

ある日、レナが部活を断った。調子が悪い…というのは身体的なことでは無さそうに思えた。

どうやら、レナは何かを抱えている。

たった一人で、外に漏らすまいとしまいこんでいるのだ。

あぁ見えてレナは強がりだ。私達に心配をかけたくない故の必死の心遣いだろう…だけど、そんな心遣いを無駄にしたっていいからレナの中に巣喰う何かを明らかにして欲しいと願うのもまた、真意だった。





私はあれからレナに何度も話しかけた。だけどレナは日に日に苛立ちを露わにし、遂には嫌悪感までをも私達に見せつけるようになった。

話しかけたのがいけなかったのか?

自らの行動が間違っていたのか、自問自答で答えを探るけどそんなものはやはり見つからない。

「ねぇ…レナ。」

「…何」

「そのっ…元気出しなよ…」

「………。」

以前は遊びに誘ったりと遠回しに気遣ってみたがそれはどうやら今のレナにとってはストレス以外の何でも無いらしい。

だから私は、本当に端的に…慰めてみた。

だけどレナは相変わらず下を向いたまま。

…最後にレナの目が私の目を見たのはいつだっけ。
具体的に日付を思い出せなくなる程、時間は経っていた。







「…レナ…」

「何」

「えっ…ちょっ…ちょっと…」

私がうろたえた理由。
それは、ただ名前を呼んだだけの私に向けられた酷く無機質な返事と…カッターナイフ。

「用事は」

「…えっと…ごめん、なんでも無いよ…怖いからしまいなよレナ…ねっ…?」

私の宥め方が良かったのか…はたまた悪かったのかは分からないが、レナは目線を再び机へ落としカッターの刃をしまえば黙りこんだ。








何を考えてるんだろう

何に苦しんでるんだろう

どうして…嫌うんだろう…

私はこんなに…あなたが好きなのに。









私も次第に、学校で話せなくなっていった。
それは圭ちゃんも沙都子も梨花ちゃんも同じみたい。

レナがこんなになってしまうなんて誰が予想できただろう、きっと誰も予想できない。

レナは…絵を描いていた。

黙々と、無我夢中で。
本当に真剣に、没頭していた。

おはようの号令からさようならの号令までずっと。

私は…あまり誉められることでは無いのだけれど、休み時間に後ろからそっと…レナの描く絵を覗き見た。







それは…渦だった。

何によって何が飛び交っているのかは…正直、分からなかった。

ただ、分かった事は…目があった。

四隅に…1つずつ大きく見開いた目が…そして中心にもう1つ、瞼を閉じた目が。

私には…それを渦だとしか表現できない。

そのくらい不可解で奇妙な絵だった…

だけど久しぶりに…レナに話しかけてみたくなった。

もう、あのレナは居ないのか…もしかしたらまだ、居てくれているのか…確認したくて。

「…レーナッ。」

「…魅ぃ…ちゃん…!?」

レナがどこか嬉しそうに応えてくれたのは私の願望が産んだ幻覚だろうか。

「何の絵…描いてんの?」

「えっと…その…」

レナは返答に困っている。…だけど、それが凄く嬉しかった。何がきっかけになったのかは分からないけれど、私に対するあの嫌悪感の目つきは今のレナには無いみたいだから。

久しぶりに、本当に久しぶりにレナの目をちゃんと見た。

少し疲れてるみたいだけど綺麗で澄んだ可愛い目。

…目。

「目…開けなよ。」

「…え?レナ…開けてるよ…?」

当たり前だ。レナは目を開けている。その目をしっかりと見たんだ…間違いない。
じゃあ私は…何を言いたいんだ?

「その絵の目…真ん中のやつ、私は開けてる方がいいなぁ…」

…そんな事…私はいつの間に考えた?

「えっ…と…魅ぃちゃんは…どうしてそう思うのかな…かな?」

「周りの目を閉じさせればいいんだよ、それなら真ん中の目は安心して瞼を開ける事ができるじゃん?」

「どうやって…そんなこと…」

「閉じさせるのが無理なら消せばいいんだよ、ほら、こうやってさ!」

私の手はレナの消しゴムを掴み、絵の四隅に描かれた目を丁寧に擦って消した。

「…魅ぃ…ちゃん…どうして…」

レナは涙ぐんでいる。

だけどそれが私が勝手に目を消したから悲しい訳ではない。それだけは理解できた。

「…どうして…って、レナが好きだからだよ。…ったく、言わせるんじゃないよー…」

「魅ぃちゃん………」

レナは暫く涙を拭い、涙の勢いが弱まってきた頃に鉛筆を再び持ち、右下端に1つだけ目を描き足した。

「…ありがとう…」

「レナが言うべきなんだよ…ありがとう…魅ぃちゃん…」

そう言いながらレナは中心に描かれた目を消し、大きく見開いた目に描き変えた。

「…良かったっ。」

私は安堵した。

そこで…ふと気付いたのだ。

私は今、何をしたのだろう。

今の行動、言動が何の意味を持つのだろう。

何故、あんな行動や言動を起こしたのだろう。

思い返してもそれは理解不能。

例えるなら、さっきまで他の誰かに身体を貸していたかのような感じ。

しかし先程自分がやったことをしっかりと覚えている。

だから…余計に不自然で不思議だった。

でもそれは次第にどうでもよく感じられた。
レナが今、漸く…笑ってくれたのだから。

それでいいのだ、どうにかレナに元気を与えることができたのだ、…そう、思った。

そう、思っていた。















―――ジリリリリーン…

「はい、園崎です。」

「あ…魅ぃちゃん、レナだよ。」

急なレナからの電話で、戸惑いながらも嬉しかった。

「レナっ…どうしたのー?」

「あ…うっ…その…今日、ありがとう…魅ぃちゃんの言葉、すっごく嬉しかった。」

…どう答えれば良いか分からない。

「どういたしましてーっ…」

とりあえずはそれだけ言っておいた。

「でね、レナは今からあの絵を現実のものにしたいと思うの。」

「…えっ…?おじさん…意味が分からないんだけど…」

「だからっ…レナは要らない目を消すの。」

「………要らない…目?」

全く、奇怪なことを言われて私は必死にその意味を脳内から探り出そうとした。

だけど分からなくて…そうこうしている間にレナは言葉を続ける。

「要らア゙ァ目は消ウゥ゙ちダァの。もう…ズケェ゙ェッつ消しデェエた…次の目もア゙ァすぐレナをヤ゙ァ…そのメ゙ェデ…すぐグゥ゙ウ消えちレ゙ェッ!!よ…だよ。」

…何て言ったんだろう。

…断末魔の叫びに似てた。…限界の声。
絶えきれない、必死の…絶望の声。

「…レナ…あんた、何やってんの…!」

「…魅イ゙ィダがァア゙ァアッ゙てくれた事イイイ゙イイイッ!?!?!?!?」

…何?これ…何の音?何の声…!?








「助ケテェエェェエッ!!!!!!」







ガチャン!


電話は切れた。

助けて

確かにそう、最後に聞こえた。

滅茶苦茶に振り絞られた、声ならざる声で私にその意思を何かが伝えてきたのだ。

私は、その声にただならぬものを感じ…




レナの家へと急いだ。














…今までの世界に居るべきだった。

大好きなままにしておくべきだった。

割れたガラスを繋ぎ合わせても繋がらないのと同じで…私の中で今、目の前に居る竜宮レナと今まで一緒に居た竜宮レナが繋がらない。

「こっちはお父さんがくれたの!かぁいいでしょー?」

「それで、こっちは圭一くんがくれたの…すっごくかぁいいんだよー?ほらっ!」

「どうしたの、魅ぃちゃん…あんまりかぁいくなかったかな…かなっ…」

私は浮かない顔をしているのだろうか。

いや…引きつっているんだと思う。

実際、今にも倒れそうな程に頭の中がぐらぐらと揺れ…何故だろう、目が回る。










…玄関で圭ちゃんが死んでいた。

…多分、圭ちゃん。

眼球は抉り取られ眼球に繋がる血管が外にはみ出て床に垂れていた。その千切られた血管は未だに血液をボタボタと零していた。

髪は真っ赤に染まり、頭は滅茶苦茶に乱雑に割られていた。
割れた頭からどろりと流れるように飛び出た何か。脳…なのだろうか、分からなかった。

それ以上、見れなかった。
全身、滅茶苦茶だったのがどうにか視認できたから。

混乱、吐き気。

ここが何なのか、何が起きたのか…この臭いは何なのか…それら全てを私の脳は理解することを拒否し、嘔吐することを身体に命令したらしい。



すぐに外に出て茂みに…吐いた。

そんな私に向かって後ろから話し掛ける声。

「どうしたのかな…かなっ?」

レナは何かを手に持って…私に優しく、それはそれは優しく…声をかけた。

…赤くて、ぬめぬめとした…太い紐に似た何かを持って。

…あぁ、レナはもう、こんなになっちゃってたんだ…今初めて気付いた。

後悔や絶望、悲壮を通り越してしまったのか私は涙を出せず代わりにただただ胃液を吐き続けた。

負の感情を打ち消すほどの空虚感。

何もかもが壊れたのだと思い知らされる無力感。

何も出来なかったんだ、って気付いて…もう底をついたはずだった胃液を最後まで搾り出した。

「レナね、もう一人じゃないの…」

…レナは、一人だと思ってたんだ。

「今日からは圭一くんもお父さんもレナのお友達!」

…ずっと前から…圭ちゃんはレナの友達だったんだよ…

レナの口振りから察するに彼女のお父さんももう、手遅れみたいだった…。

そのショッキングな事実を知ったにも関わらず私はもう何も感じなくなっていた。

「それに、魅ぃちゃんも居るし…レナは幸せ…」

「…そう、なら良かった…よ…」

レナは違う世界に行ってしまった。
そして私も…レナと同じ世界に足を踏み入れようとしているのだ。

今までとは違う世界への一線を…多分…超えた。









そして今私は消え入りそうな意識の中で必死に…壊れたレナのやったことを見届けている。

レナは圭ちゃんの臓物や筋肉と思える肉塊をグチョリグチョリと皿に乗せていく。

「圭一くんはレナとずっと一緒…お父さんもずっと一緒…友達になれるんだよ…だよっ…」

私は、見なければいけないのだと感じた。

恐らくレナのやることを見届けなければならないと。

私は罪から逃れたいだけ。強引に使命感を帯びることで贖罪の機会を自ら作ろうとしているだけ。

自覚しているけれど、もう…それしか思いつかなかった。他にレナにできることなんて無かった。

ただ謝るよりはきっと、いい選択だと思う。

助けてあげられなかったから…せめてもの、償い。



そう決めた私は…レナから目を離さなかった。

「すっごく…おいしいんだよ…魅ぃちゃんも…圭一くんと一緒になってみる?」

…目を…離すな…

「…いやかな?かな?」

「私は遠慮しとくよ」

「…そっかぁ。」

本当に…レナの表情は自然なもので、幸せそうだった。

だからそれを黙って眺めてあげることが…レナにとっての幸せを邪魔しない唯一の方法だと思う。

黄色くて白くて赤い球体が…フォークでぶにゅりと刺されて、異臭と粘り気を帯びた液体を噴き出す。

…吐き気こそしたもののもう吐き尽くしたせいか何も出て来なくて、ただ嗚咽だけが私を支配する。

それでも私は…目を反らさない。
いや、反らせない。

飛び散った液体が当然の如く雑巾で拭かれ、その液体を噴き出した球体は此方を見つめながらレナの口元へゆっくりと運ばれた。

そのまま、何の躊躇いもなくレナの歯がその球体に食い込む。

そして口内に隠れた球体は次いで







ブ チュウ ゥゥ ッ







と音をたてて弾けたみたいだった。

涙が止まらない。

私は悲しんでいるのだろうか。

それともただ単に嗚咽が酷いからだろうか。

あるいは両方か。

でも、いずれにしてもそれらは…私がレナの奇行をしっかりと見て、聞いて、嗅いでいるという事実を裏付ける証拠なのだから私は拒絶しようとしなかった。

レナは心から幸福そうにその味を噛み締めていた。

グリュブ、グリュブ、ゴリュゴリュ…

例えるなら神に祝福を受けた天使のような安らかな微笑みで。

レナの苦しみは漸く解き放たれたのだ。

友と親を食らうという罪深い異常な行為によって。

それは喜ぶべきことなのか…分からないまま私は眺める。

口いっぱいに飴玉を頬張り束の間の甘く神聖な時間にレナは心から感謝し、嬉し涙を流す。

レナはこれを異常だとも正常だとも考えていないのだろう。

おそらく彼女の頭に正しいことと悪いことなんていう大層で偽善的で独善的な思考は存在しないのだ。

それは本当に幸せで無垢で無知。

無知…というよりは忘れた、の方が相応しいか。

レナは自らの美的感覚が狂ったことに気付かない。

何故ならレナの中に美しいものも醜いものも存在しないのだ。

そういった芸術的な感覚ではなく、ただ単にレナは自らの愛情だけを先行した。
圭ちゃんやレナのお父さんの意思など関係ない、苦しみと絶望の深淵と博愛と道徳の善意との邂逅の中で漸くたどり着いた…己自身を救う為の唯一の手段と思想をもって今日、ここに居るのだ。

それは褒め称えるべき努力家だった。

でも結果、レナ以外の全てにとっての悲劇になった。

だけどレナにはそれが分からない。

これはレナの中では喜劇でありそれは既に決められた当たり前のこと。

…あ。


























彼女が自らで描いた

あの病んだ筋書きに

私はあの時…目を、

目を…消せばいいと

そう確かに告げた。



















そうだったんだ。…私は知らぬ間に…自然に…この筋書きに賛同していたのだ。

でもそれは知らぬ間に至った考えでしか無いのだからレナが実際に起こした行動に驚愕し耐えきれなかったのだ。
それだけの覚悟が足りていなかったのだ。

でも今漸くその覚悟ができたようだ。

だからこの事実に気付けた。

だから今もレナを愛しているのだということに気付けた。

私は…心からの幸せを得る。

訳も分からず流していた私のこの涙の本当の意味を知る。

神に祝福を受けた天使のような神聖で朗らかな気持ち。初めての感覚…悦楽さえも感じた。

「レナ…好きだよ。」

「…えっ?やだ…それ、前にも聞いたんだよー?だよーっ?」

球体を…いや、眼球を喰い終えたレナは筋肉をミキサーにかけた個体と液体を飲み干した。

「もう。…レナが元気になって良かった…って言いたかったんだけどなぁー。」

私は…レナの幸せ以外に興味は無かったんだ。
私は深層心理、心の奥底では…部活よりも、仲間よりも、平穏よりも、…他の何よりも、

あなたの幸せだけを望み、求めていたんだ。

知らず知らずに…私はあなたの幸せの為だけに…目を消せと、アドバイスしてあげたんだ。

レナに幸せを…掴ませてあげたかったんだ。

「レナ…レナは今、幸せ?」

「…すっごく幸せだよ…?」

「本当に…?」

「うんっ…本当に。」

…そっか。それなら…良かった。

じゃあ今度は…私の為にレナが何かしてくれないかな。

「レナはね、魅ぃちゃんが居てくれなかったら幸せになれなかった。」

「…そう…かもね?」

否定はしない私の返答がおかしかったみたいで軽く笑いながらレナは嬉し涙で頬を濡らし

「魅ぃちゃんも…幸せになりたいんじゃないのかな…かなっ?」

私の真意を見破った。

「…いい…の…?」

「うんっ…レナには…レナに幸せをくれた魅ぃちゃんに幸せを返す義務があるから。」

「でも…レナ…せっかく幸せになれたのに…」

「いいの。レナは…例えこの義務が無くても同じことを言うよ?だって…レナも魅ぃちゃんが好き…大好きだから。」

「レナ…」

「だから魅ぃちゃん、レナが幸せな時に…魅ぃちゃんにも幸せになって欲しいんだよ。…だよっ。」

「レナ…レナッ…!!私…本当に嬉しいよ…ッ!!」
「ありがとう…魅ぃちゃん…」

レナと私の心は結ばれた。

互いの想いを…伝えきった。

あとはレナの願いと私の願いを同時に…叶えるだけだった。













愛してるよ、レナ。

愛してる…魅ぃちゃん。
目を…開きなよっ。

…あ…うんっ…。



























私はレナの眼球に歯を突き立てる。

その時のレナの表情は凄く綺麗で…

愛おしくて魅力的で可愛かった…。

だから私はレナに…ありがとう、と

涙を彼女の頬に零しながら告げた。

レナはゆっくりとくちびるを開き…

どういたしまして、とだけ囁いた。

そして私達は漸く…やっとのことで



























互いの身体を1つにした。























世界は私を祝福する














あの日に見たものと全く同じ絵が…レナの机から出てきた。

その絵は…真ん中の目が、消されていた。





















私はレナを祝福する。


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