闇来し
交差
「………へ?」
レナは酔っていた。
一目見てわかるくらいに。
酎ハイ片手にリビング…とは言え、玄関からリビングに入った瞬間に腰を下ろしたらしい位置にぺたんと座って、お酒を飲んでいた。
「レナ…酔っ払いじゃんっ…大丈夫…?」
明日も学校あるだろうに…。
私には、哀れに見えた。
レナはこんな子じゃない。なのに…滅茶苦茶やって、現実から逃避してる。
私と向き合うことを躊躇っている。
「…うん。ごめんなさぁい。起こしたぁ?」
レナの口調はいつにも増してゆっくりで、次いでは舌足らず。
「…んまぁね。どたどたしてたし。」
「ゆるしてねっ?レナの第2の親友、お酒なんだよっ!」
「そうかいそうかい…とりあえずこっちにおいで…暖房つけるから。」
レナを手招くとテーブルの方へ寄ってきた。
「…魅ぃちゃん、私まだ一緒に居てもいいの…?」
…レナから切り出してくるのは、意外だった。お酒の力だろうか…このレナは思い切りが良い。
「…あぁ。寧ろ、居て欲しいよ。」
「どうして…追い出さないの?」
…1人になりたくない。
レナは学年が1つ下だから、去年までは私1人で生活してた。
けれど…その頃はもう、精神が弱りきっていた。
頑張って頑張って、疲れを表に出すまいと努め、それでも誰も心の支えにはなってくれなくて。
二年にあがってから、レナがこっちに進学し、同居してくれてから全てが変わったのだ。
…本当に感謝している、大事な存在なんだ。
「…信じてるからだよ。」
「…れいなをぉ?」
「そ、礼奈を。」
「いけないことしたのに…?」
「あぁ、それでも好き。信じてる。怖い時もあるよ?悪いなって思う時もある。でも…レナは特別なんだよ。」
「…魅ぃちゃん…。」
「だからさ、滅茶苦茶やんの止めなよ。」
「…うんっ。」
「馬鹿みたいに、毎日お酒飲んで遅刻して…おじさん、そんなレナは嫌い。」
「…はいぃ…。」
「…休みの日にたまに一緒に飲もうよ、学校がある時は止めな?」
「そうしまぁす…」
反省したらしく、いつの間にかレナは正座していた。
レナは実際、大事。
怖いけれど、もうしないって…大丈夫だって信じてる。
だからあえて…もう、咎めないようにした。
薄々、レナも、私が言わないのをいいことにやってた部分はある筈だし。
私が気づいていると確定すれば流石にもうやらない筈。
「…魅ぃちゃん…」
レナは頭を下げようとしていた。
「いいって、そういうのは。レナの気持ちもわかってる。…ほら、足崩して?」
…レナはその日、泣いた。
私を抱き締めて30分程、ずっと泣いた。
「おはよう、魅ぃちゃん。」
「おはよ…今日は起きれたね?」
「うん…ちょっと頭痛いけど…起きれたんだよっ、だよっ…?」
「偉い偉い。」
「…魅ぃちゃん?」
レナは気怠そうにしながらも、ご飯を作っていて、それもなんだかいつもより豪華そうなものを作っていた。
私が座るとテーブル越しに、エプロン姿のレナがこっちを向いて…ちょっと怯えながら、私に問う。
「なぁに?」
優しく微笑みかけてあげた。
「…いつも、ありがとう。」
…それ、私が言ってるヤツ…。
「…レナッ…」
思わず、涙が溢れた。
やっと私のこと、わかってくれたね…って。
「…魅ぃちゃんっ…どうしたのかな…?えっ…?」
「や…嬉しくて。…ごめんごめんッ…」
私はご飯ができるまで、すすり泣いた。
朝ご飯はいつもよりおいしかった。
心持ちもなんだか清々しい。
私は漸く、幸せというものが…何なのかを感じられるようになったのかもしれない。
さぁ、今日は金曜日。
今日を頑張れば学校は休みだ。
バイトはあるけれど…頑張ろう。
「いってきます、レナ。」
「いってらっしゃい、魅ぃちゃんっ…今日も1日頑張ろっ?」
…頑張ってみよう。もう暫く。
漸く、手に入れた1日を、噛み締めよう。
…今日は、良い天気だ。
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