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闇来し
変化

あれからレナは、私に変なことをしなくなった。

ご飯に行ってから…2週間程。

…レナの考えは、わかる。

私が感謝していると改めて気付かされて、いけないことをしているという自覚が大きくなったのだろう。

…正直、もう遅い。

今だって覚えてる、レナの中の感覚。触感、熱を。

けれど…わかってくれたのなら。

私はまた、妥協しようと思う。
許そうと思う。

本当に私が好きだからこそやってしまったことで、本当に私が好きだからこそ止めてくれたのだと信じたいから。

「おはよ、レナ。」

「ん…今日は少し早いね?おはよう魅ぃちゃん。」

毎日私より早く起きてご飯を作って…

本当に、大変だろう。

朝くらい私だって作るよ、と言ったことがある。

けれど、アルバイトもやってて大変なのに朝まで作って貰うのは申し訳ないと言って、断られた。

レナは優しい子だ。





「んじゃ、行ってきます。」

「行ってらっしゃーい」

私の学校は少し遠い上に、レナの通う専門学校とは逆方向。だから先に家を出る。

いつもレナが送り出してくれる。

幸せなんだ、これが。









「それであの人は82cmくらいで…あ!魅音ちゃんお疲れ様なの!魅音ちゃんはミキよりおっぱいが5cmくらいおっきいの。ホルスタインなの。」

「お疲れさ…え、バラすなー!!誰が乳牛かー!!」

バイト先にて、あがって早々に同僚にいじられた。何やら女同士でおっぱいトークをしていたらしい。

「…え?何の話?」

社員さんも休憩室へと入ってきた。

「魅音ちゃんのおっぱいトークですよ!」

「ちょ、何言っちゃってんのさ!違うでしょー!?」

「魅音ちゃんが急に私のおっぱい大きいみたいな話を…」

「え、魅音ちゃん自慢してたの?巨乳自慢?」

「そうそう!このメロンばりの乳で…って、誰がティアグランツかー!!」

なんていう下らない話をしていると、結構な時間が過ぎていた。

残業した上に話し込んでしまった…レナが心配している。

「お疲れ様です、お先に失礼します。」

レナ…怒るかな…。








「ただいまー…。」

「…魅ぃちゃんっ…遅いっ。」

「…ごめんごめんっ…仕事が終わらなくて残業させられちゃってさ。」

「…うーん…それならあがってからでいいから連絡くらい欲しいかな…かなっ…?」

「ん、気をつけるよ。ごめんね…」

不味い。レナの機嫌が悪い…。

確かに電話くらいしてあげるべきだった。私もまだまだだ…。

「さ、ご飯食べよ?」

「…うん…あれ、レナ…もしかして待ってた?」

食卓に目をやれば二人分の食事が置いてあった。

「…待ってたよ…。」

…レナ…。

「ごめんねっ…せっかく待っててくれたのに。」

私は、こんなに健気に私を思ってくれるレナが愛しくてつい、抱き締める。

「…魅ぃちゃんっ…」

「本当にありがとう、いつもいつも。」

「…ばかっ…魅ぃちゃんばかっ…」

ぎゅっと抱き返される。しがみつくように。身体を密着させて。

…どうにか機嫌は治してくれそうだ。



風呂からあがり、歯磨きを済ませてリビングへ出ると、レナはテーブルに手をついて私を見つめた。

「ふぁ…あっ。…寝ないのっ?」

欠伸をしながら問いかける。

「少し、お話ししよう?」

突然にそう切り出され、僅かに動揺した。

…何だろう、大事な話みたい。

「いいよ、何っ?」

私はレナに対面して座る。

「…魅ぃちゃんは…レナのこと、好き?」

…。

この時点で何となく私は分かってしまった。

レナが何を言うのか。

「勿論、好きだよ。大好き。」

嘘ではない。レナのことは本当に好き。

「レナもだよ。でも…レナはね、魅ぃちゃんとは少し違う。」

「…わかってる。」

はぐらかすつもりは無い。実際、分かっていた。レナの愛情は、恋愛のそれでもあるのだと。

「…レナは、魅ぃちゃんとキスだってしたいし、えっちもしたい。」

こんなにストレートに言われるとは思ってもいなくて…動揺は増す。
少し、怖い。

「………うん。」

頷くことしかできない。

私からしてみれば、それは…考えられないし、普通じゃない。

「嫌…だよね?」

…。

暫しの沈黙。

私は…もう、自分の考えを言ってしまおうと、決心した。

「…レナ、落ち着いて聞いてよ。」

「うんっ…。」

「レナのことは好きだよ。大好きで、大事で、本当に愛しい。」

「…うんっ…」

「さっき抱き締めたじゃん?あの時も本当に…レナ可愛いなって、私レナのこと好きだなぁって…思いながら抱き締めてたよ。」

「…うん…っ…」

「だけど…レナとえっちするのとかは正直、考えられない。」

「………。」

「あくまで私はだよ?レナが悪いわけじゃない。私からしてみれば…それは突拍子も無いっていうか、怖い。」

「…そっ…か…。」

「ごめんね…レナ。レナからしたら辛いんだろうなっていうのはわかってる…。でも、そういうのは優しさとか、感謝してるからとかでやることでも無いし。」

「うん、それは…うん。」

「…ごめんね、レナ。」

「うん、ありがとう。…魅ぃちゃんがちゃんと言ってくれて助かるっ…。」

…思ったより冷静に、丁重に話が進んだ。

レナが理解してくれて…良かった。

だから

「…キスくらいならいいよ、やらしいキスじゃなかったら。」

なんて、少し甘くしてみる。

「…もうっ、魅ぃちゃんってば…」

顔を赤くして照れてる。
…断っておいてアレだけど、本当に可愛い。

「いいの?キスしなくて。」

「……ッ……。」

意地悪過ぎた。

レナは…少し怒ったように…けれど愛しそうに此方を見つめ

「…目、閉じて。」

と囁いた。

言われた通りに目を閉じ、顔を傾ける。

…柔らかい。

レナのシャンプーの香りが心地よい。

静かに鼻息があたり、レナは私の両肩を支えにして…暫くそのまま、唇を重ね続けた。

嫌ではなかった。

ちょっと、恥ずかしいし…何してんだろ、とか思ってしまったけれど。



でも、あまりに長いので…思わず目を開けた。









獲物を狙う獣のような、殺意のような、闇のような、痛みのような、鋭くも鈍い、興奮の眼差しが…ほんの一瞬ではあるが私の瞳を覗きこんでいた。

「…ッ!レナっ…」

怖くて…ばっと離れてしまう。

「やっぱり…無理、してたかな?」

「…ううん、ちょっと…途中で怖かっただけ。」

「…ごめんね魅ぃちゃん…レナがちょっと欲張りさんだったね…」

頭を撫でられる。

警戒心を解く為に。






布団に入る。

…もう、暫くレナは私に悪戯をしに部屋に来ていない。

いい加減、もう来ないと信じても良い筈。

なのに、未だ少し怖い。



















「魅ぃちゃん」

…え。

「…レナ、やっぱり我慢できない。」

「ちょッ、レナっ、え、嘘ッ」

手首を捕まれ、押し付けられ、口に綿をぎゅっと詰められ、ナイフで衣服を切り裂かれる。

「フー…ッ!!ン、フ…ゥッ!?!?」

「ぐちゅぐちゅ鳴らしてあげるね、魅ぃちゃん。いっぱいイッて?」

手が動かない!

足も動かない!

嫌!!嫌だ!!嫌ぁぁぁッ!!

「ふ、ぐ…ッ!!ぁ、がぁッ、ふっ!!」

舌が全身を舐めあげる。

胸から臍

臍から太股

太股から… 。

嫌なのに、嫌なのに、嫌なのに、嫌なのに。



気付けば真っ暗闇に居た。

そしてその闇の中から一つ、また一つと現れる。

眼が。

あの眼が。

欲情しきった…眼差しで。

やがては無数に…現れる。

助けて!お母さん!お父さん!

「あんたはもう園崎じゃないからねぇ」

え?嘘…嘘でしょ!?!?

誰でもいいッ、誰か!誰かァァァァァァァァァァァァ!!

なんで!?どうして!?誰も助けてくれない!!私1人の力で全て解決しなきゃいけない!?
なんで!?どうしてぇぇぇぇぇぇッ!?

プツン。

「…あ…」

「…魅ぃちゃんの初めて、貰っちゃうね…」





「スキダヨ、ミィチャン。ミィチャンダァイスキ。マイニチ、イタズラシニクルネ」






















「嫌ァァァァァァァァァッ!!!!」

…悪…夢。

「あ、あぁッ、ごめんなさいッ、あぁッ…誰か…誰か…!!」

「魅ぃちゃんっ!?どうしたのッ、魅ぃ…「来ないでぇぇぇぇッ!!」

「魅ぃちゃん…!!落ち着いてっ、ね?」

「離して!!離してっ!!やだぁぁぁっ!!」

「魅ぃちゃんっ!?魅ぃちゃんっ!?」

怖い。レナが怖い。
触られる。犯される。

「怖いよぉッ、レナぁッ、やめて、やだ、嫌ぁッ、嫌ぁぁぁぁぁッ!!!!」

「魅ぃちゃんっ…大丈夫だよ、レナ、何もしないよ…」

「したじゃんッ!!夜中にッ、悪戯ぁッ!!怖いッ、レナ怖いのッ、やだぁぁぁぁッ!!」






















気がついたら、レナが…警察と話していて、部屋やリビングには物が散らかされていて、隣に住んでいるお兄さんがやたらボロボロになって私の側で煙草を吸っていて、私は手や足にすり傷や痣を作っていた。



最悪だ…。

…レナとの話しも上手くいったのに。

悪夢にうなされて 発狂したのか、私は。

隣のお兄さんは…駆けつけてくれたのだろう。レナでは押さえられなくて、助けてくれたんだろう。

先程自分が起こしたことも、ろくに覚えていない。

それ程私は、混乱していたのだ。

「…本当に些細なことなんですけどっ…はい。それで喧嘩になっちゃって…私から手を出したんです…でも魅ぃちゃんの方が強くて…はい。…あはは、そうです…ね。」

「はい、あの人は隣に住んでる…」

「すいませんっ…以後気をつけます…」


















レナは、次の日から朝ご飯を作らなくなった。

専門学校にも、度々遅刻するようになったみたい。

夜は、たまに帰って来なくなった。

また、私は殆ど1人になってしまった。

今は…午前1時。先程レナが帰ってくる音で起きてしまった。
リビングにいるのは分かっている。

けれど…一週間。

あれから一週間…何も話していない。

…このままじゃいけない。

それはわかってる。



「…レナ。」

私は、ドアを開けてリビングへ向かった。

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あきゅろす。
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