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闇来し
疑心

若干だが煙たい。

煙草のソレと似た、匂い。

メンソール煙草を幾度か吸ったことがあるが、それに似ていて、けれど確実にそれではない匂い。

…何かが燃えている、というような大それた煙ではないが。

…レナは喫煙者では無い筈。

…。

私は怪訝に感じながら室内へと入る。

「レナー?なんか煙たいよー?」

…返事は無い。

リビングを過ぎ、レナの部屋へ真っ直ぐに向かう。

「…レナ?居るー?開けるよ。」

ノックしても返事がなかった。

室内では窓をがらっと開ける音が聞こえた。

…まさか、泥棒っ?

不安に感じ、即座にドアを開ける。

「ん、おかえり魅ぃちゃん!」

そこにはベッドに座ったままのんびりしているレナが居た。

「…居るんじゃん、返事しなよー…凄い不安になったよ。」

「ごめんごめんっ!ちょっとぼーっとしてて!」

「…そーお?…ていうか、レナ…煙草吸わなかった?臭いんだけど。」

若干、苛立つ。信頼しているだけに、勝手なことをされれば余計に悲しい。

「バレちゃったかな…かなっ?ごめんなさいっ!ほんの出来心でぇっ!」

やっぱり…。

「いや、吸うのは構わないよ?おじさんは勝手に部屋で吸わないで欲しいなーって言いたいとこなんだけど。」

「そうだよね!ごめんね魅ぃちゃん!ちゃんとベランダに出てからだよね!」

「うん、わかれば宜しい。」

ちゃんと謝ってくれるからもう良い。

けれど…意外だった。レナが煙草を吸うなんて…。

今年20になったのだから吸ったって構わないし、文句は言わない。

…まぁ、私もその辺りを叱ることができるような優等な女でも無かったのだし。

多目に見てやることにした。

「あんまり吸い過ぎないようにね?ホント、身体に悪いんだから。」

「気をつけるよ!本当にごめんなさい、魅ぃちゃんっ!」

「おじさんは別にいいんだけどさ…でもちょっと心配しちゃうなっ。」

「うん!たまに吸ってみるくらいにするっ!と、ところで魅ぃちゃん…アルバイトは?」

「なんかおじさんガラにも無くシフト見間違えててさ、今日は休みだった。」

「そうなんだっ…じゃあじゃあ、すぐにご飯作るから魅ぃちゃんは待っててっ?」

「…ん、わかった。」

取り合えずは私は部屋をでる。

時間が空くなら明日の用意を済ませてしまおう。







明日の用意…とは言え、バイトと学校の準備くらいしか無いのですぐに終わった。

それでもレナはまだ出てこない。

…レナもレナで、疲れているのだろうか。

…そうだよね、毎日毎日学校もあるのに掃除やら料理やらもやってて疲れないわけがない。

…レナに応えてあげなきゃ。

…レナを少し楽させてあげたい。

「レナー?やっぱり外でご飯食べよう?」

部屋は隣同士。少し大きな声で離せば会話できる。

「いいのー?」

「うん!たまにはいいじゃん!」

「わかったーっ!」

互いに着替えを済ませ、顔を合わせる。

…思わぬ休みと、あまり無い夜の外出に、私は久しぶりに楽しさを感じていた。














「チーズハンバーグのAセットを2つ。」

注文を終えてはレナの顔を見つめる。

…いい子なんだ、この子は本当に。

疲れるくらいに私に尽くしてくれていたんだな…と今日改めて感じ、感謝する。

「久しぶりだね、こうやって二人で外食するの。」

「そだね、レナ幸せだなっ、魅ぃちゃんとこうやってお食事できるの。」

「あははっ、大袈裟だねぇ。」

こういう所も可愛い。やけに素直で、純粋。

「煙草はいいの?」

「もうっ、魅ぃちゃーん?レナはまだなんちゃって喫煙者なんだよー?だよー?」

「…まだ?」

「…た、たまにしか吸わないんだよっ!だよぉっ!」

「いやー…どうだかねぇー?」

「むぅ…なるべく控えておくっ…」

「ごめんごめんっ、意外だったからさ、レナには似合わないよ?」

「学校の子が吸ってて少し、興味が出ちゃって…えへへ…」

以前だったら私の方が好奇心旺盛というか、やんちゃなタイプだった。

いつの間にか私の方は落ち着いていて、レナはまだまだ元気いっぱいで…

少し羨ましい。

雑談を楽しんでいると思ったより早く料理がやって来た。

「いただきまーす。」

「ん、いただきます。」

自然と互いに笑み合う。

やはり私達は親愛なる友人同士。

照れくさいけれど、ね。

…レナが料理を口に運ぶ。

すると、徐に。

「…えっ!?」
と目を見開いて驚いていた。

私は心配になり

「…なんか入ってた?」

と、声を小さくして問いかける。

「…違うの、凄く美味しい…何これっ、美味しいっ!」

杞憂とは真逆にレナはそのハンバーグの美味しさに驚愕、感動していた。…言うなれば、ただのファミレスのハンバーグ。

言い方は悪いがそんなに美味しい訳がない。

少し、困惑した。

「美味しいね、魅ぃちゃんっ!」

美味しいと言えば美味しい。けれど…そんなに幸せそうになるほどのものだろうか。

やはりレナは不思議ちゃんだ。…そこが可愛いのだけれど。

「…あぁ、レナが居るから美味しいよっ。」

子供を見るように、暖かく微笑みかけた。

夢中になって食事をするレナ。久しぶりの外食がやっぱり嬉しかったのかな。

提案した甲斐がある。

食事が終われば、私達は暫く談笑して、時間も遅くなってきたので帰ることにした。

お金を出してあげたら、レナは申し訳なさそうにするも、感謝の気持ちが伝わったのか、快く笑みを見せてくれた。

…レナ。




今夜、レナは私を求めに来なかった。

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