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闇来し
前兆
大学へと進学して分かったことは、人間は皆、時を重ねるにつれ各々が苦しみを背負い、求めるものを妥協し、自分に課せられた制限をゆっくりと一つずつ解放するだけの生き物であるということ。

正直言って私、園崎魅音はこの世に この国に この社会に 悲観的になっていた。

田舎とは言え園崎ではそれなりに経験を積んだつもりだった。

いや、それ故にか…一人暮らしも難なくこなせるし友人や目上の人間に対しての接し方も上手いことやっている。

…最初はそれを通じて、私が今までやってきたことの御陰で、人に誉められ、自らが良く見られていることに嬉しさを感じていた。

今ではそんな感情、無い。

所詮、人に評価され、価値を頂き、私の能力を供給する機会が増える…それだけ。

一般的な考えではそれらが価値ある事で、名誉なのかもしれない。

それでも私にとっては…単なる肩書きであって。

だって、実際 今の私を見て 誰が「幸せそうだね」なんて言えるだろうか。

人生に価値を見いだせない。

名誉はあくまで名誉でしかなく、幸せや喜びには直結しない。

それを幸せや喜びだと感じることができるようになるのは いつだろうか。

現状は常に醜く、辛く、無価値。

…努力を重ねるにつれ、本来養われる筈の充実感や自尊心を逆に失い、疲労と虚無感ばかりが増していった。



「ただいま、レナ。」

「…あ、魅ぃちゃん。おかえり…ご飯もう少しでできるよっ。」

「うん、ありがと。」

親愛なる友人であり同居人、竜宮礼奈。

中学からの同級生で、彼女は大学ではなく専門学校に通っている。

美容の専門学校で詳しいことは分からないが、楽しくやっているようだ。

…私は。

…私は大学に行っている。それは園崎を継ぎたくないから。

高校までは、園崎の名を借りずに自らの力で人生を歩みたい。

私はカタギでありたい…そう、強く願って大学に来た。

…それで今、全力で頑張っている。強引に押し切った為、仕送りも一切ない。

両親とは連絡を取り合ってはいるが、婆っちゃ…いや、園崎家という単位で考えれば半絶縁的な状態である。

次期頭首として鍛えられてきた故に、園崎家からの反感は大きい。

それでも私は「魅音」として在りたかった。



そんな私を支えてくれるのが、この…竜宮レナ。

可愛くて優しくて、しっかりものだ。

彼女はがっつり仕送りを受けているので、アルバイト等はやっていない。

高校で溜めた貯金と仕送りで生活と勉学に励んでいる。

故に、学校とアルバイトで中々時間のない私を手厚い料理で迎えてくれる。

家事もよくやってくれて、私がサボリ気味な時は言わずとも掃除や洗濯までやってくれる。

「いつもありがとう、レナ。」

「どういたしまして…なんだよ、だよっ?」

笑顔で私を支えてくれる、大切な"仲間"。

彼女が居なければ、私は今頃精神を病んでガサツでズボラな女になっていただろう。

生活もそうだけれど、何より心を支えてくれる良き相棒だ。

そう、良き相棒。

「…ねぇ、魅ぃちゃん。」

「なぁに?」

「…今日も、お疲れ様。」

「あははっ。レナもお疲れ様。」

良き相棒なんだ。

大事な。









毎日、ベッドに入る度に思う。我ながらよく頑張っていると。

これもレナのお陰だと。

彼女無しでは私は何もできなくなっていたと。

…疲労感と眠気の中でそう、感じるのだ。

だから

我慢しなきゃ って なる。

「………………。」

気持ち悪いなんて思ってはいけない。

怖いなんて思ってはいけない。

私は、未だ不安だらけな将来から何かしらの価値を見つけだす為に 頑張り続けなければならない。

孤独や閉塞感があってはならない。

信じられる存在がいなければならない。

感謝しなければならない。

今更、止めて欲しいなんて…言えない。

レナが居なければ、私は1人きりだ。

レナは私のことを一番に大事に思ってくれている。

私だって、レナが唯一の心の支え。

…だから。

「…………………ッ。」

ゆっくりと私の身体を這い回る片手の平。

微かに聞こえる、荒い息。

…微かに粘りと熱を帯び、濡れる私の指。

無理矢理知らされる、他人の内部の感触。

「……………すきっ、すきっ…ッ、ん…ッ、ッ…」

掠れるような囁き。

…別人のように、事務的に…快感と私の身体を求め、果てる、愛しい友人。

「…ッ、ごめん、なさい…ぐッ、ごめん…なさい…」

暫くして涙に溺れながら、寝ている筈の私に必死に謝る大事な友人。

…これにさえ耐えれば、私はこの友人を愛せる。

嫌だなんて、止めろだなんて、言えない。

私を愛してくれている、大事な友人を相手に…抗えない。断れない。

変なことされたって、もう、構わない。

若干、慣れてきてる。










「おはよう、魅ぃちゃん。お味噌汁も要る?」

「おはよ、うん、要るーっ。」

何も変わらない、屈託のない笑顔。

心からその笑顔を可愛いと、励まされると感じる。

しかしながら複雑なもので…その笑顔が怖いと感じる自分もいる。

…毎晩、あんなことをしておいて。

…それでも私は、大事な友人を憎んだり嫌うことはできない。

不快ではないのだ。

ただ、恐ろしいのだ。

友人の相手が私をそういう風に見ていることが。

理解できないだけ。

理解のできない行動に対し、恐怖している。

言ってしまえばただそれだけ。

愛されることに対しては嬉しいし、私だってレナに対して友人に抱く以上の感情を持っている。

だからと言って、その行為を許諾できる訳ではない。

「いただきますっ。」

「どうぞっ。」

美味しい。






















「おぉ、園崎さん。どしたの?」

学校が終わり、アルバイトへ向かった私に告げられた言葉。

私より経験の長い、男性のスタッフさんだ。優しくて、仕事もよくできる。

その人にどうしたの、なんて言われて私は困惑した。

出勤しにきたに決まっている。

「18時から出勤の筈なんですけど…」

「嘘ぉん?…や、入ってないよ?勘違いだよ多分」

「あ、あれぇっ?本当だ…すいません、勘違いみたいです。」

「珍しいねぇ、園崎さんがうっかりやらかすなんて」

「滅多に無いんですけどね…念の為シフト再確認して帰ります。」

「流石だねー。今日帰って何すんの、彼女とデート?」

「あははっ!彼女じゃないですってー!」

「あ、園崎さんが彼女の方?違うか!だははは!」

「いやいやっ!違いますよー…また今度連れてきますね?」

「あ、彼女を?」

「はいはい彼女彼女!」

たわいない話をもう暫くだけして、帰宅した。

…私は、確かにシフトをしっかり確認して帰った筈だ。

変更された訳でもなかったみたいで。

…疑問を抱きもしたが、些細なことだ。
とにかく帰ろう。レナもそろそろ帰っている筈。










バイトが休みの平日が本当に楽に感じられる。

学校に行ってそれで終わりだ。

勿論、課題がある時だってあるが…今すべき課題はもう全て終わっている。

ゆっくり休もう。

アパートのエレベーターを上がり、部屋の鍵を開けた。



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あきゅろす。
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