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虚実


本当にすまないことをしたんだって後から考えると改めて実感する。

自分の弱さ。

こんなに詩音のことが好きなのに、その詩音を傷つけるようなマネをしてしまって。

それなのに詩音は愛してくれて…私は本当にこんな幸せを得ていいのだろうか。

罪そのもののこんな私が幸せになって良いのだろうか。

…そう考えるとこのままならいつか大きな災厄が襲いかかってきそうに思えて、怖くなった。

「魅ぃちゃん…?」

レナの呼びかけに顔を上げて応える。
レナは目を少しボーっとさせつつ私をただ見つめていた。

「…どうしたの」

「………………」

レナは何も言わない。
時折目をキョロキョロと動かしつつ何かを迷っている。

「…レナ?」

「…良かったね、魅ぃちゃん」

何のことか分からなかったから私はわざと目をより大きく開いて、え?…とだけ聞いてみる。

「詩ぃちゃんと上手くいってるんだよね?」

それはもしかして。

言い方は濁してあるが一昨日からの詩音との事を言っているんだろうか…

…何故知ってる?

私が詩音のことが好きだってことはレナと詩音しか知らない。
ましてや私と詩音が愛し合っているということは私と詩音しか知り得ないことなのだ。
…本来は。

しかしレナは知ってる。
どうやって知った?
私が言ってないんだから単純に考えれば詩音から聞いたのかと思える。

でも

詩音に抱かれた一昨日の夜以降翌日の夕方まで私は詩音と離れなかった。

勿論その間にレナの姿を見たこともない。

あの後詩音が出掛けたとは考えにくいしレナが詩音の部屋を…いや、興宮を訪ねたとも考えにくいと思う。

つまりレナと詩音が会える時間は昨日の夕方以降で、その会える時間であっても偶然会ったとは考えにくいわけだ。

「誰から聞いた?」

状況が把握できない。だからとりあえず聞きたいことを順に1つずつ聞くことにした。

「えっと…詩ぃちゃん…から。」

やっぱり詩音か。当たり前か。…本当に詩音なのか?

…信じてやりなよ園崎魅音。仲間じゃないか。

「いつ会った?」

「昨日の夜…」

夜…夕方とは言い難い時間?
だとしたら…早くて7時以降…?

「どうして興宮に居たの?買い物?」

「え?」

え、何がおかしいんだろう。首を傾げるレナに私も首を傾げて尋ねる。

「どうしてそんな遅くまで興宮に居たのかって聞いたんだけど…おじさんおかしい?」
 どうしてレナを威嚇するような言い方をしているのか自分でも分からない。

でも、
レナと「離れよう」という約束をした日から彼女にいい印象を持てていないのもまた事実だった。

最終的には私のせいなのはわかってる。私がしっかりしてれば途中に何があろうと最後には誘惑に打ち勝てたはず。

だから私のせい。

だけれど

レナがあの時誘惑なんてしてこなければ。

レナがあんなズルいことを言わなければ。

そんな黒くてドロドロとしたサビにも似た思考回路をどうにか振り払いつつレナの口が開くのを待った。

「えっと…魅ぃちゃん…?レナは昨日…興宮に行ってないよ…?」




意味が分からない。
そりゃあ確かにレナが本当に興宮に行ってないのなら今のレナの反応は極めて普通だ。

だがそれならどうやって詩音に会えた?

詩音が夜に雛見沢に来ていたとでも言うのか?

私に一言も告げず?

そんな訳は無い。

詩音が雛見沢に来る時は私や部活メンバーとたまに遊ぶ時くらい。

何かしらそういう用事が無い限り絶対来ない。

ましてや夜に来るなんて事は…。

こっちに来る時には私に連絡を入れないことも最近では滅多に無かった。

「嘘…でしょ」

そうとしか考えられない。

「ちょっと魅ぃちゃん?どうしてそうなるのかな?かな?」

いつもの困った顔だ。でも少しだけ元気が無い。

気付かぬうちに次第に私はレナを疑っていく。
その証拠に今私はレナのその表情でさえ作り物なんじゃないかなんて思ってしまった。

「詩音が夜に雛見沢に来るなんて考えられない」

「レナもそう思ったよ。でも…夕方頃に詩ぃちゃんから電話がかかってきて。今からゴミ山に行くから来てって。」


…もう少しマシな嘘はないのだろうか。
詩音は普段は容赦のないダーティーな一面を頻繁に見せる悪女だが、常識や他人の迷惑を考えられない女なんかでは決してない。
夕方に「今からゴミ山に来い」なんて電話をするような人間ではないんだ。

第一、電話で済ませればいいものをわざわざ会わなければならない意味が分からない。

…もし仮に詩音がレナに嫉妬して「もうお姉に近付かないで下さい」的なことを伝えたかったとしてもそれを伝えるためにわざわざ自ら雛見沢まで来るだろうか。

私だったらやはり、大事な話だから後日に改めてゆっくり話すか、電話で気が済むのなら電話で済ませるところだ。私とバイバイしてすぐ雛見沢へ…なんて選択肢はまず思いつかない。

要するに今の思考で分かったのは

「嘘だね」

私達を。

「違うの…信じて…」

引き離す為に。

「嘘じゃん」

嘘をついたんだね。
































…邪魔シナイデ


…邪魔シナイデ


…邪魔シナイデ


邪魔シナイデ!!
















白々しく出来の悪い嘘を並べるレナに一喝叩きこんでやる。

詩音の関わる話で私を騙せるわけが無いのに。

詩音のことなら全てを知っている私を騙せるわけが無いんだよ、レナ。

…邪魔しようっていうんなら…

仕方ナイ。

詩音は私のもので
私は詩音のもの。

詩音を譲らないのは当たり前だけれど、
私は私を譲らない。

私に指一本も触らせもしない。

触らせてしまえば詩音をまた傷つけることに繋がってしまうから。

だからレナが私に触れようとしたならレナは詩音を傷つけようとしてるのと同じ。

「魅ぃちゃん…聞いて…」

まだ出来の悪い嘘の続きを聞かなきゃいけないのか?

「邪魔しようとしてすいませんでした…って言えない?」

レナは私に一喝された時からただ「信じて」や「聞いて」や「違うの」などと何度もぼやいては虚ろな瞳で私の顔を見つめる。

「そんなに私が欲しかった?それならこんなやり方を選んだのが間違いだったね」

「それともあれかい、私に好きだなんて言って近づいて邪魔して踏みつけて落とすつもりだったかい?」

「本当に卑怯だねー。まさかこんな女だったなんてちょっと前までは思いもよらなかったよ。」


気付けば周りには誰も居なかった。私とレナの二人。
圭ちゃん梨花ちゃん沙都子は私達があまりにも長く真剣に話をしていたので今日は部活はないものだと考えて帰った…というところだろうか。

まともに返事もしないレナを置いて私は言いたいことをある程度言ってやればバッグを持ちそのまま家路を辿った。


さっきまでレナを疑っていた私はようやく彼女を疑いの目線で見なくて済む。

今からは敵視。敵の目線で見ればいいんだから。

そう考えた途端に、立派なのは見た目だけだと思っていた背中の鬼は、いつの間にかこんなにも力強くて頼もしいものに成長して私の心を支えていたのだと感じて、少し嬉しくなった。

これなら大丈夫だ。
私は私を守り、詩音を守る。

今までの私ではない私が自信を持てと言わんばかりに高揚を煽るのであった。

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