天使
…なんだろう。
うるさい。
まだ寝ていたいのに…
ぼうっとそう思いながらゆっくりと瞼を開いてみた。
いつもの天井…ではない。
そりゃそうか。ここは詩音の部屋だもんね。
…………………。
………………………!?
「あ…あわわわっ…!?」
なななななッ…!?私はなんて格好で寝てたんだ!?
意識が徐々にはっきりしてきた際に僅かに感じた肌寒さ。
何気なく自らの身体を手で触って確かめると…私は全裸だった。
「ぎっ…ぎゃあぁぁぁっ!!」
なんてことをなんてことを…ッ!
毛布なんかは全て片付けられており、昨夜私が脱いだ衣服も全てどこかへ消え失せている。
つまり、身体を隠すものが何もない。
詩音…あやつ…!
詩音は機嫌良さそうに料理でも作っているのだろうか、いい匂いが漂ってくる。
衣服さえあれば私の為に料理する愛しの詩音の元へと飛んでいくのだが朝っぱらから全裸でソレは流石に抵抗がある。
私は壁へと身体を隠しつつそーっと顔を覗かせて詩音に囁く。
「しっ…しおーん…」
私の声に気付くとチラッと此方へ顔を向けて天使の微笑みを披露する詩音。
「おはようございます、お姉。昨夜は激しかったですね。」
ひっ…ひぇぇぇ…
顔がどんどん熱くなってきて赤くなるのがわかる。
「そろそろご飯できますからねー。」
何喰わぬ顔で料理へと目を戻したかのように見えたけど…
私は詩音が曲線的にニヤリと妖しく微笑んだのを見逃さなかった…。
詩音は…何のつもりなのだろうか。
確かに昨夜、私が全裸のまま先に寝てしまったとはいえ何故こんなことを。
詩音はチラリチラリと時折此方に目をやりながら完成した料理をテーブルに置いていく。
「お姉、いつまでそうしてるんですか。そろそろ覚悟を決めて出てきて下さい。」
確信犯めっ…私を羞恥の奈落に陥れそれを見て高笑いをあげるつもりか…望むところじゃないか!
「おっ…おいしそうだね…詩音の料理はっ…いっ…いつも…」
自然に自然に。全裸だって今更気にすることじゃない。
「そうですね…美味しそうですねー…」
詩音は決して自分の料理を誉めている訳では無い。
その視線の先には紛れもなく裸体を晒した私が居る。
「じゃっ…早速…いただいてもいい…?」
料理が美味しそうだ。料理が美味しそうだ。詩音の作った料理が美味しそうだ。
恥ずかしくない。
全く恥ずかしくない。
「いただきます。」
…ん?
詩音は私の身体を強引に引き寄せ、右手を私の首もとに、左手を私の腰…尻に。
そのままグッと引かれて濃厚なキスを喰らわされた。
朝っぱらから何してくれんのさ…
早朝なんか関係なく相変わらずサディスティックな詩音にも魅力を感じ、嬉しく思うのはやっぱり詩音が大好きだからだろう。
「ごちそうさま。」
唇と唇が離れると詩音は無邪気な顔でそう言い放つ。
しかし相変わらず私の尻には詩音の手が当てられており、それはもう、いんやらしぃーく撫で回しているのであった。
―――やがて私にも衣服が与えられ、詩音の視姦からようやく解放される。
手づくりの朝食を頂く。
やはり絶品。詩音の味。
電撃のように舌から脳へと味覚が伝わる度に私は幸福という具体的な感覚があるのだと初めて知った。
それから暫く雑談して、時折思い出したかのようにお互いに抱き締め合ったり口づけを交わしたり愛してると言い合ったりした。
本当は詩音の初めてをすぐにでも奪いたかったけれど…焦ることはない。これから然るべき時にそのチャンスはいくらでも巡ってくるのだから。
焦って奪うような愛撫なんてきっと詩音も求めてはいないはず。
のんびり、ゆっくりとお互いを愛し合っていこう、詩音。
時間は早い。
こうして愛する詩音と共に過ごした時間は特に早かった。
時刻は既に夕方時で、昨日も聞いたカラスの鳴き声を今日もやはり聞いたのだった。
凄く充実した2日間だった。互いを愛し合い、求め合うことが出来るようになった、最初の一歩。
このかけがえのない最初の一歩から絶え間ない旅路を二人で歩んでいきたい。
詩音となら…いつまでも歩いていられる。
何も難しいことなんて無いんだ。
だって、詩音はもう、私のモノで。
私ももう、詩音のモノだから。
「そろそろ帰るよ。今日こそ婆っちゃを怒らせちゃマズいし…」
「そうですね…」
暫しの沈黙。寂しさこそあるがそれでもそれを上回る「また、次会える」という希望が私達をきっと元気づけてくれた。
「お姉…」
「何?」
「愛してます」
「私も愛してるよ…詩音」
照れくさいけれどやっぱ嬉しい。
軽くもう一度キスをして私達は来週また会おうと約束して、バイバイした。
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