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砂糖


―――ぼーっとする。
まだ寝ぼけてるのかもしれない。

忘れ物はないかしっかりと確認する。
いつもより少し寝坊してしまったからいつもより少し忙しい朝になってしまった。

「いってきまーす!」

寝ぼけた頭に気合を入れるべくいつもより少し元気に言って、いつもより少し早く歩く。

そして…いつも通りの待ち合わせ場所に着く。

レナと圭ちゃんはまだ来てないみたいだった。

…あぁ…少し緊張する。

昨日の夜、この場所であったことを思い出しては顔が紅潮していくのがわかる。
頭を軽く横に振ってその回想をどこかに飛ばし、ふぅー…と溜め息というか深呼吸を深く深く一度だけ。

…自分の唇にそっと触れてみる。ゆっくりと撫でて軽く押し付けたり。

それは昨日の回想。いくら溜め息を吐こうがそこだけはやっぱり抜けなかった。

「おはよう魅ぃちゃん」

「わぁっ!?」

気付くとすぐそこにレナと圭ちゃんが居た。
急に聞こえたこの可愛らしい声にビクッと身体が反応して大声をあげてしまう。

「お…驚かせちゃったかな?かな?」

レナはやっぱりいつも通りだ。実はポーカーフェイスの魔術師はレナだったりして。

「ごめんごめん!ちょっと考え事しててさ…こっちこそ驚かせちゃったね」

私もしっかりしないと。レナはきっと辛いだろうけどこうしていつも通りのレナで居てくれてるんだから。

「なんか魅音…昨日からちょっとおかしいよな。」

圭ちゃん。そこは言わないで欲しい。

「あはは…おじさんも色々あるのさ。次期頭首は大変だよ」

次期頭首のことは全く関係ないことを圭ちゃん以外は理解してるだろう。
でもそれでこそこの言葉が意味を持つ。

「そうなのか…?魅音も色々大変なんだな。とにかく辛くなったらいつでも言ってくれよな。」

昨日レナにキスされたなんて言えるワケないじゃん。圭ちゃんのバカ。


―――そのままいつも通りで。
昨日あったことは全て夢で、こんなに空回りしてるのは私だけで…そんな錯覚に陥りそうなくらいレナはしっかりといつも通りを演じてくれて。学校に着いても昼休みになっても部活が終わってもいつも通りで。

結局のところ私の方がいつも通りじゃなくて。なんだか情けなくなる。

そんな思考を頭に巡らせつつ帰る準備をしていると机の中から学級日誌が現れる。

「…忘れてた」

苦笑しながらレナと圭ちゃんを見やると向こうも苦笑し返す。

「仕方ねーなー。待っててやるから早く終わらせろよ」

目を通すと書くべき項目の一つも埋まってない。…こりゃ長引くねぇ…。

「先に帰ってて」

一人になりたかったから言ってしまったけど冷たい言い方になってしまっただろうか。

「なっ…なんだよ魅音…気にすんなって。早く終わらせればいい話じゃねーか。」

ごめんよ圭ちゃん。一人になりたいんだ…いいから帰っといて…

「圭一くん…魅ぃちゃんはこう言ってるし…先に帰っとこうか」

ありがとうレナ。察してくれて。

結局私は後で追いつくから先に帰っといてと告げて教室に残った。

…何をやってるんだろう。

詩音のことが好きでレナに相談しようとしたらレナに…その…コクられてキスされて…私は詩音が好きだからレナをフったのに気付いたらレナのことばかり考えてて。

詩音で埋めれないところをレナが埋めてくれた。きっとそのせいだ。

レナは卑怯だ。故意でやったのか無意識でやったのかは分からないけど
とにかく卑怯だ。

「はぁ…」

気付いたらもう何回吐いたか分からないくらいに溜め息をついてた。

今日の時間割と反省と明日の目標を適当に書いてく。
時々ペンが止まるけど頬をペチッと叩いてはまたペンを走らせる。

ようやく書き終えて職員室の知恵先生に日誌を渡す。
そしてまた帰る準備を始める。

「魅ぃちゃん」

「…レナ。」

そこには気まずそうに目を吊り下げつつ作り笑いをしながらこちらに顔を覗かせるレナが居た。

正直、嬉しかった。
今日一日中ずっと…何かを期待してた。
だからいつも通りのレナの反応に憂いては自分を責めて。

その期待が実らなかったと思ってた時にこうやって来てくれたら期待はぐんと高まって…

「レナのせいだよね」

…そう来たか。今日の私を見ててレナは罪悪感を感じ、圭ちゃんといつも通りに帰った後またここまで戻ってきた。

そんなところ…かな。

「うん…レナのせいだよ」
それはもう間違いなかった。詩音が好きで好きで仕方ない私を誘惑して唇まで奪って。

なんて悪い子なんだろう。

レナはこめかみを掻きながら小さく「ごめんね…」と囁いた。

どうしたらいいのか分からない。
詩音を好きな気持ちは消えちゃいない。薄れてもいない。

なのに目の前の少女にドキドキしてしまうのもまた、変わらない。

「それだけ…言いにきたの?」

もう私に関わって欲しくない。そのくらいじゃないと私はあんたを…

「ううん…えっとね…」

何か他にあるらしい。もう…躊躇わない。また私を惑わす様なことを言ったら…容赦しない。

「詩ぃちゃんの代わりでもいいから…」

…ズルい。
聞くんじゃなかった。
それより先の言葉をもう聞きたくない。

「やめて」

やめてやめてやめて。

「レナは魅ぃちゃんになら何されてもいいから。詩ぃちゃんの代わりでもいいから。だから…少しだけ魅ぃちゃんと恋をさせてくれないかな。…かな。」

やっぱり聞くんじゃなかった…。
なんでそこまで私を…。
そんなの…私にとって都合が良すぎる。
そんな事をしたらレナがかわいそうだ。

「何をされても文句言わない?」

あれ?おじさんは何を言ってるのかな。

「…うん。」

おかしいな。止めないと。バカなこと言うなって…からかってやらないと。

「…殺されても?」

「それはイヤかな。…かな。」

ほら。ダメだよ。なんでもなんてウソじゃないか。
そうじゃない。私はレナに何を言ってる?

「…犯されても?」

「―――…えっ?」

もう限界だった。
こんなにオイシい条件を出されてしまえば理性なんて吹っ飛んでしまう。

レナの両手をガッと乱暴に掴みそのまま押し倒す。レナが昨日私にしたような優しいキスじゃなく。無理矢理にその唇を奪う。

レナが悪いんだ。
こんなにズルい子はなかなか居ない。
だからお仕置きしてやらないと。
そう、私はただこの子にお仕置きをしてあげるだけ。
お仕置きが終われば悲しむレナに「もうバカなことを言うんじゃないよ」って言って。レナはそれで反省して。
うん。きっとそうなる。そうしよう。

だから…今はこの子を…レナを愛そう。

「魅ぃちゃん…みぃちゃんっ…!」

私の名前を呼び続けるレナのことなんか無視してそのまま唇を首筋へ移動して舌をつーっとゆっくり這わせる。

「やだ…魅ぃちゃん…怖いよ…」

怖い?今更何を言ってんだい。私をこんな風にさせたのはあんたじゃないか。

首筋から徐々に上へのぼりその耳元で

「こうして欲しかった?レナ。」

そっと囁いてやりすぐに耳をペロッと舐めあげる。
ほら…しっかり反応してるじゃないか。口を閉じ息を詰まらせるようにして声を漏らすまいとしてるのがわかる。

更に深くをペロペロと舐め回してやれば期待通りの反応と可愛らしい声に私は酔いしれる。

「ダメ…魅ぃちゃん…人来ちゃうよ…」

続けて欲しいくせに。

「昨日の仕返しだよ。何されてもいいって言ったじゃん?」

耳をいじめるのを止めては次いでそっと胸の膨らみに手をおく。そのままゆっくりと力を入れて撫で回す。

自分のを触っても何ともないのに。レナのだとやっぱり…柔らかく感じる。
時折先端を掴んでやっては再び柔らかく満面なく撫で回してあげる。

「やっ…魅ぃちゃん…やらしいよ…」

そんなこと自分でもわかってる。
やらしいことをレナにしてる。

…ずっと詩音にしたかったことを今レナにしてる。
だってあんたがそう言ったから。
詩音の代わりでいいって言ったから。

「…触るよ」

私の手がレナの太股にすっとあてられ、そのままゆっくりと徐々に焦らすように上に上がっていく。

レナはその手が秘処に触れるのを期待してるのか、顔を紅潮させたまま目を閉じ、待ってる。

…詩音だったら。
…詩音だったら…。

思わずその名前が頭の中にこだます。
愛する妹。詩音。

私の手は既に秘処に触れる寸前、股関節のところまで到達していたが…その動きはピタッと止まった。

レナは「あぁっ…」などと恥ずかしそうな声を漏らして遂に触られてしまうなどと期待と羞恥に迫られてるんだろう。

両手で自らの顔を覆い、その表情を隠してる。

「やめた。」

やめる。そこに触れてしまうときっともう戻れない。
…手遅れかもしれないけど。

詩音の名前が頭にこだました瞬間、もうレナのことなんてどうでもよくなっていた。

詩音と…詩音と愛し合いたい。

偽物じゃダメ。代わりなんて居なかった。

レナには詩音の代わりなんて務まらない。

さっきまでとは矛盾したこの考えに頭が支配される。

レナを壊してしまいたいとさえ感じてた。
でもこんな疑似体験じゃ結局救われない。
…レナもきっと。

やっぱり止めよう。
レナももう…懲りただろう。

「止めるの…?魅ぃちゃん…」

名残惜しそうにしながらも衣服を整える。

私は立ち上がって

「うん。レナには詩音の代わりなんて…無理だよ」

こんな酷い言葉を吐くなんて自分でも思わなかった。

「そう…だよね…」

レナも同じように立ち上がる。俯いたまま。

「あんたが…変な事言うから…ごめん…」

レナのせいにしちゃいけない。
私の心の弱さが都合よくレナを詩音に重ね当ててしまった。

「ううん…レナは…嬉しかった。夢みたいだった。魅ぃちゃんにあそこまでして貰えて…」

違う。きっとレナは泣いてた。
レナはレナ自身を求めて欲しいはずだった。
私が詩音自身を求めるように。
だから…レナ自身を求めていない…ただの荒々しいその愛撫に…きっと泣いてたんだと思う。

「ごめん…なさい…」

謝るしかできなかった。やっぱり私自身が間違いだったのかもしれない。

レナの心を弄ぶような真似をして。

「…魅ぃちゃん。いいんだよ。レナはもう…大丈夫だから。ごめんね、無理させちゃった。」

違う。私が勝手にレナを襲っただけ。

「だからそんな悲しそうな顔しないで。魅ぃちゃんは間違ってないよ。」

違う。間違ってた。
こんな残酷なことをしてしまった自分が嫌いで嫌いでたまらなくなった。

「暫く…離れようか。」

私は…言ってしまった。

「…そうだね。ちょっとだけ…離れよう。」

レナは寂しげに呟くけれど…きっとわかってくれた。

少し離れて、落ち着こう。

それは互いに昨日と今日のことを忘れて、やがて完全に元通りになるまで変わらぬ日常を演じ続ける。

離れよう。そういう意味。

その後しばらくレナは私と初めて会った時のことや遊びに行った時の事を語り続けた。
過去を清算し決別するかのように。

レナは私を少しずつ好きになった。

だけど1つ1つ私との思い出を言葉に乗せて流し

「明日からは親友だね」



儚げに微笑んではそう、言ってくれた。

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