判明
家路を小走りで駆け抜け帰宅したらお茶を一杯呷る。
喉の渇きが取れたところでいつもの私服に着替えてすぐに家を飛び出る。
先程圭ちゃんとレナと分かれた道に下りていくと既にレナが待っていた。
「ごめーん!待った?」
「もー!魅ぃちゃん遅いー!」
いつものやり取りを交わしつつ暫くして今度アイスを奢るということで許して貰った。
奢ったことは一度も無い。
そろそろ宝探し…まぁゴミ山に向かおうかと考えてレナに切り出してみる。
「そろそろゴミ山に向かわない?遅くなると面倒だし…」
「え?魅ぃちゃんおかしいー」
え?何が?
「…教室でも言い辛かったんだよね?それってつまり…圭一くんや梨花ちゃん沙都子ちゃんにも言い辛いことなんだろう…って思って。だからレナは魅ぃちゃんの話が聞ければそれでいいかな?かな?」
あぁ…「宝探し」もカモフラージュだった訳か。それにしてもレナの推理力には驚く。
まるっとお見通しじゃないか。
「やっぱりレナは凄いよ…よく考えてくれてる。ありがとう。」
ここまで自分を案じてくれる仲間を可愛く思い、何となく頭を撫でてあげた。
「あれ?なんでかな?なんでかなぁ!?」
突然撫でられた為に照れに照れまくるレナ。
レナを撫でたことってあんまり無かったけど…私にもこういう反応するんだ。
撫で撫でにもそろそろ飽きたので覚悟を決めて切り出してみる。
「よいしょ…それじゃあ本題だけどさ」
「あ…うん。話してみて?」
「うん…あー…えっと…」
どうしよう…いざとなるとやっぱ言い辛い…
「圭一くん…でしょ?」
突如出されたその人名に私はただただ首を傾げる。
「あれ?圭一くんのことじゃないのかな?かな?」
少し困惑した目だ。きっと心の中でもあれ?あれ?と繰り返してるに違いない。
「とにかく圭ちゃんは全く関係の無い話だね」
ズバリと言ってやる。それにしても圭ちゃんのことって…私、圭ちゃんに何かしたっけ?
「じゃあ…魅ぃちゃんが好きな人って誰なのかな?かなぁっ!?」
好きな人って言っちゃったよ。…そこまで察しがついているのに何故分からない。
…当然だよね。私がどうにかしてるんだから。
そう考えると半分ヤケになりあっさりと口に出してしまうものだ。
「…詩音」
レナは固まる。蛇に睨まれたカエルの如く固まる。蛇は居ないけれど固まる。
暫くの硬直が解けると恐る恐る聞き直してくる。
「えっと…双子の妹として…?…そうじゃなくて?」
そうだね。やっぱりそういう聞き方になるよね。
「…そうじゃない方」
自分でわかってる。どうにかしてるって。
双子の妹に恋をするなんてどう考えたっておかしい。
「そっか…。」
受け入れるには時間がかかるんだろうその返事は少し曖昧な了解の象徴。
「わかってるよ。どうにかしてるって。だけどどうしようも無いんだよ…。」
自虐的に呟いてみる。レナはそっと私の頭に手を乗せてゆっくりと撫でてくれた。
「わかるよ?その気持ち。」
わかるもんか。こんな特殊なシチュエーションで理解してくれるのならレナの心はどれだけ寛容なんだろう。
「辛かったね…よしよし」
レナはそっと私を引き寄せて…抱き締めてくれた。
あぁ…詩音がこんな風にしてくれたら…
心の中でそう嘆くと思わず抱き返してしまう。
ぎゅっ…と。力が入る。
「…好き。魅ぃちゃん。」
「―――えっ?」
え?何?わからない。レナが何を言ってるのか全くわからない。
すき?好き?あぁ…きっと部活メンバーとして…でもでもさっき「わかるよ?その気持ち」って…もしかして…えっと…?
「レナと…恋して?」
抱き締め合ってた互いの身体の距離を少し取ってレナは私を見つめてる。
やだ…だめ…レナはきっと私を誘ってる。
だめだめだめ…早く離れないと。
レナの手の平がするするっと私の腕に蛇のように絡みついてきて、あたしの手の平に到達してはぎゅっと強く握られる。
「おかしいって…やめなよ…ねぇ…」
レナってこんなに…素敵な強引さを持ってたんだ。
だって…抵抗はするけど…もう力が入らなくなってきてる。
レナ…わかったよ。あんたの魅力は十分にわかったからもう止めなって。
「好き。魅ぃちゃん好き。」
両手で強引に身体を引っ張られる。…唇があったかくて…なんだろう。ふわふわする。
それは口づけ。さっきまでの強引さとは打って変わった優しいキス。とても気持ち良くて。知らない内に目を閉じてその感覚に身を委ねて、酔いしれた。
そっと唇が離れる。レナは顔を紅潮させながら。
「やっちゃった…」
と罰が悪そうな顔をして。
「おじさん…怒るよ」
「………ごめん」
レナに苛立ったんじゃない。詩音が好きだって言ってるそばからレナのキスを受け入れてしまった自分が…はしたなくて。
寂しさ故か…レナを詩音の代用の様に扱ってしまったことが情けなくて。
レナに当たるのは筋違いだけどレナだって私をそうやって誘ったんだ。それに対して怒ったってことにしてて。
「レナもどうにかしてる」
「うん…わかってる」
こんな私を好きになるなんてどうにかしてるって。レナ。
「…私のこと…好き?」
「…好き。」
「私も好きだよ」
レナの顔がこっちに向きその表情はパッと晴れる。私は嬉しそうな反応をするレナのその表情を…壊す。
「でも私は詩音の方がもっと好きだから」
冷たい言い方だけど…こう言わないときっとレナをこれ以上求めてしまう。
曖昧な返事だとレナもどうしていいか分からないだろう。
だからこれでいいと思う。
「…知ってる。レナはただ魅ぃちゃんに…好きだってこととどうにかしてるのは魅ぃちゃんだけじゃないってこと…伝えたかったの。」
「ありがと…」
「本当はね、それが伝えたくて宝探しに行こうって言ったの。」
レナらしいと言えばレナらしい。…不覚にも…可愛いよレナ。
今までにもレナを想うと抱き締めたくなることが稀にあった。
その時は…レナのこの的確に母性を突いてくる愛嬌のせいだと思ってた。
でも…違ったのかもしれない。
あはは…口づけのせいかな。レナが凄く素敵に見えてきた。
詩音には…適わないけど。
「そっ…そろそろ帰らないと。婆っちゃが心配するから。」
本当はもう少し居たって構わない。だけど…今この子と一緒に居るとどんどん酔わされていきそうな気がして。
レナには私じゃなくてもきっと他の人が居る。
しっかりしたレナのことだから暫くすると吹っ切れて圭ちゃんのところに擦りよるだろう。
…そんな下手な言い訳とも言える憶測をしてみた。
「そうだね…暗くなっちゃうもんね。今日はありがとう魅ぃちゃん。」
少し寂しそうに口を小さく開いて言葉を漏らす。
もっと…居たいのかな。
少し嬉しい気もするけどきっとこれもレナのフェロモン。酔わされてはいけない。
「…ううん。」
何て言えばいいんだろう。そんな悲しい顔しないでよ。おじさんが悪いみたいじゃん。
…おじさんが悪いからか。
「じゃあまた明日…ここで。魅ぃちゃんおやすみー。」
「うん、また明日!ばいばい」
レナは"いつも通りのレナ"を演じて帰ってくれた。
だから私も今から"いつも通りの魅音"を演じなきゃいけない。
明日からもレナと友達で。詩音のことを考えたり他愛のないふざけ合いをして。
いつも通りに過ごしてく。
何も変わらない。何も。
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